木村拓哉のソロ活動では、荒々しいロックと、息を混ぜた穏やかな歌が同じアルバムに収まっている。
山下達郎との制作は、自分の声の持ち味を見つめ直す機会になった。
木村の歌の歩みには、曲ごとに声を変える試みと、自分の声の持ち味を人と一緒に見つけていく過程がある。
MOJO DRIVE MV(2022年)
SMAP時代、曲のなかの人になる
SMAP時代の小室哲哉との対談で、木村は、エルヴィス・プレスリーが曲によって別人のような声になることに驚いたと話している。
自分も、ポップな曲や激しい曲を歌うときには、その曲に合った人になる感覚があるという。
一つの声の印象にとどまらず、曲の人物に近づいていく発想を、早くから持っていた。
その話では、録音だけでなく、コンサートで歌い、振り付けが付く時にも、その曲の人になると説明している。
声だけを別のものにしようとするより、その場でどんな人物として歌うかを考えていた。
曲に合う表情を作ることは、ソロ活動を始めてから突然生まれた発想ではない。
1997年には、忌野清志郎から贈られた「弱い僕だから」を、SMAPのアルバム『SMAP 011 ス』でソロ歌唱した。
そして2020年、この曲を「弱い僕だから(session)」として新たに録音する。
以前に歌った曲を、自分のソロアルバムの最後にもう一度歌うことになった。
一方、SMAPの楽曲を振り返る番組では、レコーディングの際はいつも一曲全部を録ると話していた。
歌割りに合わせて完成するグループの曲でも、録音では曲全体を歌っていたのだ。
ソロで一曲を担う前にも、一続きの歌に向き合う時間はあった。
2020年、一枚を通して現れる木村の声

画像出典:写真掲載元
2020年の『Go with the Flow』は、木村が一枚を通して自分の声を届けた最初のソロアルバムだ。
発売時の評で、imdkmは、流れるようなつやのある高めの声と、伴奏のなかでも通る質感に注目した。
グループ内で歌を受け渡すときとは違い、一人の声の印象がアルバム全体を貫く。
曲を書く人が替わっても、最後には木村の声が一枚の中心になる。
imdkmが聴きどころとして捉えたのは、その声にふと表れる質感だった。
ソロになったことで、歌い手としての木村を、一曲の担当箇所だけでなく、アルバムを聴き通す中で受け取れるようになったのである。
一枚のなかでも、声の表情は曲ごとに変わる。
翌2021年にこの作品を振り返ったむらたかもめは、「One and Only」の荒々しさとクールさ、歌の緩急を評価し、「サンセットベンチ」では吐息を混ぜた切なさを取り上げた。
木村の声と分かる質感を保ちながら、曲ごとに歌い方を変えている。
「One and Only」MV(2020年の作品)。
強く押し出す歌と、息を交えた歌が、一人の声で並ぶ。
SMAP時代から語っていた、曲の人物に近づく発想を考える時にも、この二曲は違いを受け取りやすい組み合わせだ。
「サンセットベンチ」MV(2020年の作品)。
アルバムを締めくくる「弱い僕だから(session)」も、清志郎に近づく節回しが印象に残る歌唱として評された。
1997年の歌にもその要素はあり、2020年になって初めて取り入れたものではない。
再録では少し肩の力の抜けた雰囲気が生まれ、imdkmは、清志郎の歌い回しへ近づこうとするところに、むしろ木村らしい素の表情を捉えていた。
一枚を木村の声で聴き終えるところに、親交のあった清志郎からの歌が戻ってくる。
弱い僕だから(session)公式音源(2020年再録)
2022年、低めの響きを生かすロックを知る
『Next Destination』の制作につながったのは、山下達郎が2020年の単独ライブで見いだした、木村の低めの声のふくよかさだった。
木村は、それをバリトンと表現されたとき、すぐには意味が分からなかったと振り返っている。
山下にとっては、グループで担当を分けて歌う姿だけでは、木村にどんな音楽が合うかをつかみ切れていなかった。
単独で長い時間歌うライブを見たことで、声の特質と、それを生かす曲の方向が見えてきたという。
ソロで歌う時間は、聴く側だけでなく、曲を書く側にとっても木村の声を知る機会になった。
シャウトを好む木村に、山下は、その低い響きでもロックは歌えると伝えた。
そうして生まれた「MOJO DRIVE」と「MORNING DEW」は、山下が録音も指揮している。
「MOJO DRIVE」では、木村は伴奏を録る場で歌うことも初めて経験した。
演奏者が歌のリズムや音の伸びに応じて伴奏を作ることを、喜びとともに振り返っている。
木村のために歌う場所が用意され、そこから声を出すと、離れた場所のベーシストが親指を立てて応じてくれた。
ドラム奏者も木村のほうを見て、歌の動きに合わせていたという。
その場の演奏者に歌を受け取ってもらえたことが、本人には強く印象に残っていた。
自分の声を生かすという助言が、実際の演奏との応答になった。
出来上がった伴奏へ歌を置くだけでなく、木村がどう歌うかを聴いて伴奏が形になる。
歌う声と周囲の音を一緒に作る経験が、このアルバムに加わったのである。
「Beautiful Things」で、仮歌とは違う自分の声を知る
同じ『Next Destination』の「Beautiful Things」についても、提供者との対話に、木村自身の受け止め方が表れている。
発売前の2021年12月、平井大は、男性の柔らかな面を引き出したいと考えて曲を書いたと説明した。
木村は、歌詞の一節ごとに景色が浮かび、自分に無理なく重ねられるため、録音も自然に進んだと話している。
木村は、平井が歌ったデモを繰り返し聴き、録音の場でも手本にしていた。
ところが完成した歌に対して、平井が特に良さを感じたのは、自分の仮歌とは違うビブラートだった。
木村には強く付け加えた意識がなくても、歌う声には本人の表情が出ていたのである。
山下との制作では、低い響きという持ち味を教わった。
平井との対話では、手本に沿ったつもりの歌にも、自分ならではの揺れがあると知らされている。
ソロの制作は、歌い方を選ぶだけでなく、他の作り手の言葉から自分の声を知る時間にもなっていた。
「Beautiful Things」MV(2022年の作品)。
2024年、歌の盛り上がりに演奏者が応じる
2024年の『SEE YOU THERE』でも、木村は提供者と歌を作る過程を具体的に話している。
「No Night, No Starlight」では、久保田利伸から歌い方の助言を受けて録音した。
提供者と歌の方向についても言葉を交わしている。

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竹内まりやによる「10月の恋人たち(Lovers in October)」では、歌を聴きながら演奏するミュージシャンとのやり取りを楽しんだ。
ただ、曲を受け取った時には照れもあり、木村から、少しハードな方向へ寄せることを提案したという。
その希望を受けて編曲したのが、多保孝一だった。
提供された恋の歌をどう受け止め、どんな音の中で自分が歌うかにも、本人の考えが入っている。
ボーカルブースから歌う木村と、ギターを弾く演奏者が視線を交わす。
歌の物語が盛り上がるところで、演奏者がその気持ちを音にしてくれる。
2022年に初めて経験した、歌に応じて伴奏が形になる制作を、ここでも具体的に語っている。
その曲を提供した竹内は、木村の伸びやかな声が、少年のような恋の歌を歌ってほしいという願いに応えてくれたと話している。
木村自身は照れを感じたという恋の歌も、提供者が思い描いた声で届けていた。
録音を終えた木村は、この曲をステージでどう見せるかも、想像する楽しみがあると話している。
曲を受け取った時の照れ、編曲への提案、歌に応じる演奏との出会いを経て、人前で歌う場面へと気持ちが向かっていた。
声の持ち味を保ちながら、他の人と一緒に、その曲を自分の歌にしていく過程である。
10月の恋人たち(Lovers in October)公式音源(2024年)
曲の人物になる発想に、ソロで自分の声を見つめ直す体験が重なる。
声の持ち味を制作者から教わり、歌うリズムや音の伸びを演奏者と共有する。
そのやり取りが、木村の歌をどう作るかという歩みに加わっている。
響き、吐息、ビブラートの使い方は、木村拓哉の歌い方で取り上げている。







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