大橋卓弥の歌声はどう変わった?「奏」・ソロ活動・20周年までの変遷

大橋卓弥の歌声の変遷 シンガー

大橋卓弥さんは、昔の「奏」を聴くと、いまの自分には同じ歌い方ができないと感じるそうです。
現在の方が表現の選択肢は多い一方、若い頃の声にあった艶や厚みは、技術を増やしても戻ってきません。

この言葉は、大橋さんの歌声の変遷をよく表しています。
年齢とともに高音が一直線に強くなったのではなく、失われる声を受け入れながら、その時に使える声で曲の人物を作り直してきました。

転機になったのは、2008年のソロ活動、極端な減量で声が出にくくなった経験、そして自分たちの代表曲に押しつぶされそうになった時期です。
現在の歌は、若い声を保存した結果ではなく、変わってしまう声と付き合う方法を覚えた結果なのです。

デビュー前、自分の声には個性がないと思っていた

大橋さんは幼い頃からクラシックやピアノに触れ、ビートルズなどを聴いて育ちました。
上京後はバンドで活動しましたが、そのバンドが解散し、自分で曲を書いて歌うようになります。

その頃に悩んでいたのが、歌声の個性でした。
周囲から特徴がないと言われ、本人も人がまねしたくなるような分かりやすい声ではないと考えていました。

大橋さんは、自分にできる表現を全部並べるのではなく、あえて使うものを絞りました。
丸く柔らかな声、言葉を話すような節回し、急に大げさな歌手へ変わらない歌い方が、少しずつ一人の人物として結びついていきます。

1999年、曲のアレンジや録音を頼んだ常田真太郎さんとの関係から、スキマスイッチが始まりました。
二人とも作詞と作曲ができるため、どちらかが完成品を渡すのではなく、意見が割れた時には第三の答えを作る共同制作が続きます。

2003〜2004年、「view」と「奏」で若い声が記録された

2003年、スキマスイッチは「view」でメジャーデビューしました。
大橋さんは後に、デビューすれば一夜で生活が変わると想像していたものの、現実はそれほど急には動かなかったと振り返っています。

翌2004年に発表した「奏」は、時間をかけて広く知られる曲になりました。
現在の大橋さんが聴き返すと、当時の声には若さから来る艶と厚みがあり、いま同じ方法で歌うことはできません。

一方で、初期の歌は表現の選択肢が現在ほど多くなかったとも話しています。
若い声の美しさと、まだ狭かった表現の幅が一つの録音に残っているのです。

この時期を「未熟だった昔」とだけ呼ぶことはできません。
後から技術を増やしても取り戻せない質感があり、その声でしか成立しない「奏」がありました。

2008年、ソロ活動で自分一人の弱さを歌った

スキマスイッチの活動が順調に見えた2008年、大橋さんはソロ活動を始めました。
本人はこれを独立ではなく、歌手として力を増やすための修業期間と位置づけています。

ソロでは、二人の共同名義では出しにくかった個人的な不安や弱さを歌詞へ持ち込みました。
緻密に組み立てるスキマスイッチと違い、バンドメンバーとその場で編曲し、録音も一発で行う荒い方法を選びます。

きれいに整えたポップスの主人公を歌うだけでなく、大橋卓弥本人の女々しさや後ろ向きな部分まで声へ出しました。
「はじまりの歌」という前向きな題名の裏で、歌手自身が一人で始め直していたのです。

2008年のソロ活動で一人の歌手として修業した大橋卓弥

この一年は、歌声だけでなく常田さんとの関係も変えました。
それまでの制作には役割と力の偏りがありましたが、別々に活動した後は、二人が対等に意見をぶつける関係へ近づきます。

2009年、二人へ戻った時に以前のスキマスイッチではなくなった

2009年、スキマスイッチは「虹のレシピ」で活動を再開しました。
戻れば以前の続きが始まると思われましたが、本人たちにとっては簡単な再会ではありませんでした。

ソロで自分の判断を最後まで引き受けた大橋さんは、二人へ戻った後も以前と同じ位置には収まりませんでした。
常田さんとの力関係が対等に近づき、曲について遠慮なく言い合う時間が増えます。

歌い手としても、完成した伴奏を受け取る人ではなく、曲の人物、言葉、音の強さまで作る共同制作者であることが明確になりました。
ソロはスキマスイッチを一度分解しましたが、その分解がなければ、その後の長い活動も違う形になっていた可能性があります。

2010年代半ば、体を削ったら声まで出なくなった

大橋さんは2010年代半ば、極端な食事制限で約12キロ減量しました。
ところが脂肪だけでなく筋肉まで落ち、思うように声が出なくなります。

診察では左右の声帯の状態がそろっていないと伝えられ、本人は歌手として大きな不安を抱えました。
食事を戻して体を立て直すと、声も回復していったといいます。

この経験は、喉だけを調整すれば歌えるという考えを崩しました。
声は全身から切り離された道具ではなく、食事、筋肉、睡眠、体調の変化をそのまま受けるものだったのです。

若い頃の声が戻らないこととは別に、無理な体作りで現在の声まで失う可能性があると知りました。
長く歌うために、見た目より身体を守ることが優先されるようになります。

2018年、主人公を作る歌い方が言葉になった

デビュー15周年を迎えた2018年、大橋さんは曲ごとに主人公を細かく設定する制作方法を語っています。
年齢や職業、暮らし方まで考え、同じ「君」と「あなた」でも相手との距離に応じて選び分けます。

「未来花」のような曲では、若い頃の艶を再現するのではなく、十五年を過ごした人が日常の重さを知った声で言葉を渡します。
声質の変化を隠すより、変化した人間を主人公へ重ねる方向へ進んだのです。

この頃には、歌唱の個性を一つの声色へ閉じ込めなくなっていました。
曲の人物が変われば、裏声を使う場所も、言葉へ力を入れる場所も変えてよいという考えが形になります。

2021年、現在の声を受け入れながら表現を増やした

2021年、大橋さんは歌唱について詳しく語り、当時まで正式なボイストレーニングを受けた経験がないことも明かしました。
若い頃に、現在の歌い方では四十歳まで持たないと言われた記憶が残っており、これから長く歌うための訓練を考え始めます。

「OverDriver」では、同じ旋律でもファルセットと地声を使い分け、最後だけ主人公の意志を強く出しました。
高音が出るかどうかより、どの声なら言葉の変化が見えるかを選ぶ段階へ進んでいます。

録音では音程補正に頼らず、何度も一曲を通して歌います。
数回を過ぎると技術を考える意識が薄れ、役へ入れる瞬間が来るため、正確さだけでなく物語が途切れない歌を残します。

同時に、自分の声を特別に好きではない気持ちも消えていません。
それでも「この喉で生きる」と受け入れ、好き嫌いとは別に、現在の声でできる表現を増やしました。

今入れる? 近くで入りやすい飲食店がわかる混雑予報マップ

2023年、「奏」に押しつぶされる時期を越えて20周年を迎えた

「奏」はスキマスイッチを広く知られる存在にした曲ですが、成功だけを運んだわけではありません。
大橋さんは20周年の公演で、自分たちの曲に押しつぶされそうになり、歌うのをやめていた時期があったと明かしました。

代表曲が大きくなるほど、現在の自分が昔の録音と比べられます。
若い声を再現できず、別の歌い方をすれば曲を変えたと思われるため、歌手にとって過去の成功が重荷になることもあります。

それでも20周年の日本武道館では、「これからも大切に歌いたい曲」として本編最後に「奏」を選びました。
過去の声へ戻るのではなく、現在の二人がもう一度引き受けることで、代表曲との関係を作り直したのです。

2024年以降、若い声を再現せず現在のポップスを作る

2024年、スキマスイッチは10枚目のオリジナルアルバム『A museMentally』を発表し、地元愛知県で初の主催フェスを開催しました。
二日間で約4万5千人を集め、デビュー時には急に変わらなかった人生が、二十年以上かけて大きな場所へつながりました。

20周年を越えて現在の声で歌い続ける大橋卓弥

現在の大橋さんは、昔の「奏」の艶を取り戻そうとはしていません。
小さな声にも芯を残し、主人公の意志に合わせて地声と裏声を選び、ライブでは観客の歌声まで曲へ取り込みます。

技術が増えた現在と、声そのものが輝いていた初期のどちらかを上に置く必要はありません。
戻らない声があると認めたことで、昔の録音を敵にせず、現在の表現と並べて歌えるようになりました。

大橋卓弥の変遷は、変わらない声を守る歴史ではない

大橋卓弥さんは、自分の声に個性がないと悩みながらデビューしました。
「view」と「奏」には若い時期だけの艶が残り、2008年のソロ活動では一人の弱さを歌い、戻った後は常田真太郎さんと対等な共同制作者へ近づきます。

極端な減量で声が出にくくなった経験から、喉と身体を切り離せないことを知りました。
その後は主人公を細かく作り、現在の声で言葉を届ける方法を増やしています。

20周年には、一度は重荷になった「奏」をもう一度自分たちの曲として引き受けました。
過去を超えるためではなく、過去と現在の声を同じ歴史へ戻すためです。

地声と裏声を言葉の強さで選ぶ方法や、「個性がない」と思っていた声がなぜ一声で分かるようになったのかは、大橋卓弥さんの歌い方・発声分析で詳しく整理しています。

大橋さんの歌声は、変わらなかったから二十年以上届いたのではありません。
変わるたびに曲の人物を作り直し、失った声まで自分の音楽へ含めてきたから、同じ曲が別の年齢の人にも届き続けています。

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました