ヴェッセル(Sleep Token)の歌には、静かな歌声と激しい声、ファルセット、ラップまでを取り込む幅があります。
その土台となる繊細さは初期から記録されていて、作品を重ねる中で、曲に生かす方法も広がってきました。
制作担当者の話や当時の公演評、作品評から、歌の歩みをたどります。
「The Summoning」公式ミュージックビデオ(2023年、『Take Me Back To Eden』収録)。
2016〜2018年|初期からあった、静けさと激しさの幅
Sleep Tokenは2016年に結成され、ヴェッセルをボーカル兼ソングライターとして活動を始めました。
同年9月に発表された「Thread The Needle」は、ピアノと感情豊かな歌声に、激しいメタルの展開が組み合わさる曲として紹介されています。
後に広く知られる、静かな歌と重い音の落差は、出発点からあったものです。
初期の制作を担当したジョージ・レヴァーは、最初のEPには、いろいろなことを試す時間が多かったと振り返っています。
自分が聴いたものへの解釈を提案でき、気に入ったことをさらに進めていく関係だったそうです。
完成した型を繰り返すより、歌と周囲の音がどこまで一緒に動けるかを探すところから始まっていました。
「Thread The Needle」公式ミュージックビデオ(2016年)。
2018年のUK Tech-Festを取材したMark Johnsonは、ヴェッセルがファルセットから、ソウルを感じさせる充実した歌声へ移る様子を記しています。
強弱の大きな音楽の中で、声の響きも変えながら歌う姿が、すでに公演の特徴として捉えられていました。
同じ公演評では、演奏経験を重ねたバンドが、独自の見せ方を自分たちの強みにし始めたことも記されています。
声の切り替えは、音源の中だけでなく、目の前の客席を引きつける実演の中でも育っていました。
2019年|『Sundowning』で、声の細かな強弱を作品に残す

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2019年には、初のアルバム『Sundowning』を発表しました。
レヴァーによれば、制作には約3か月を費やし、日々一緒に過ごしながら完成まで進んでいったそうです。
彼は後の取材でも、その期間を大切な時間として振り返っています。
曲ごとに静けさと激しさの配分が違う作品を、近い距離で作り手同士が確かめていました。
レヴァーは、この作品のボーカルについて、細かな強弱を聞こえる形で残すため、音量を動かす処理を多く使ったと説明しています。
声の繊細さを、処理のしすぎで失わないようにしていました。
「The Night Does Not Belong To God」公式ビジュアライザー(2019年、『Sundowning』収録曲)。
激しい部分でも歌を前へ出し、静かな部分の表情も届かせる。
初期からあった歌の幅を、アルバムとしてどう聞かせるかに取り組んだ録音だったといえます。
声の変化を、発表される作品の中へ細かく残す制作も、ヴェッセルの歌を支えていました。
レヴァーは、ギターを大きく聞かせる工夫について問われた際にも、まず他の音との関係を挙げています。
シンセサイザーやドラム、歌を前に出し、その間にある場所へギターを置く。
声の繊細さを聞かせるには、歌の処理だけでなく、バンド全体の音の配置も関わっていました。
2021年|「Mine」で際立つ、ファルセットの繊細さ
2作目『This Place Will Become Your Tomb』は、2021年9月に発表されました。
この制作は、前作と同じ環境の繰り返しにはなりませんでした。
レヴァーは、録音開始がロックダウンと重なり、いつ完成して発表できるのか、公演はあるのかもわからない中で作ったと話しています。
一緒に音楽へ没頭できた前作とは違う、先の見えなさがあった時期です。
James MacKinnonは当時のアルバム評で、「Mine」が揺れるようなファルセットから、シンセサイザーの大きな広がりへ進む展開に注目しています。
「Mine」公式ビジュアライザー(2021年、『This Place Will Become Your Tomb』収録)。
繊細な響きから、音を大きく広げていく。
この曲で評価されているのは、そうした歌と展開の組み合わせです。
同評は、前作より厚くなったギターやドラムの中で、声の感情が直接届く曲として「Mine」を挙げています。
一方でMacKinnonは、アルバム全体では曲を終えるタイミングが課題として残るとも指摘しました。
音や声の選択肢が増えても、どこまで展開を続けるかという構成の問題は残る。
この時点の評価には、声の魅力への賛辞と、その魅力を長い曲の中でどう生かすかへの注文が並んでいました。
2023年|歌とラップを組み合わせ、一曲の中を大きく動く

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2023年の3作目『Take Me Back To Eden』では、一曲の中で歌い方を動かす面が、より大きく取り上げられるようになります。
Dannii Leiversは「The Summoning」について、厳かなコーラスや激しい声から、ファンクやソウルを感じさせる展開までが組み合わさる曲と評しています。
さらに「Ascensionism」では、繊細なピアノの始まりから、細かく刻むビートの上で歌とラップを取り込む展開に注目していました。
「Ascensionism」公式配信音源(2023年、『Take Me Back To Eden』収録)。
声の強弱に加え、言葉をどんなリズムで運ぶかも、曲を動かす要素になっています。
メロディを歌う声からラップへ、さらに大きな音の展開へと進む構成の中で、ヴェッセルが担う表現の種類も広がっていました。
変化はステージにも表れていました。
2023年の公演を取材したRich Hobsonは、2021年にはマイクスタンドのそばで動きが少なかったヴェッセルが、舞台を行き来し、踊るようになったと記しています。
「Vore」では、動きながら吠えるような声とソウルを感じさせるメロディを切り替える姿を取り上げました。
曲の中にある振れ幅が、身体の動きも伴う公演として見えるようになっていたのです。
「Vore」公式配信音源(2023年『Take Me Back To Eden』収録のスタジオ音源)。
2025年|「Gethsemane」で、新しい声色にも踏み込む
2025年5月、4作目『Even In Arcadia』を発表します。
RCA移籍後のアルバムとなり、ヘヴィな音楽にR&Bやヒップホップ、ジャズも組み合わせる方向が続いています。
Emma Wilkesはアルバム評で、「Gethsemane」でヴェッセルが新しい声色へ声を変えている点を挙げました。
新作の変化は、楽器の組み合わせとともに、歌声の表情にも表れていると受け止められています。
「Gethsemane」公式映像(2025年、『Even In Arcadia』収録)。
ただ、新しい表現がすべて同じように評価されたわけではありません。
Wilkesは、比較的シンプルな「Past Self」については、曲の力がやや弱まると捉えています。
一方、日本での作品対談では、ライターの菅谷透が、同曲の自己開示的な内容をラップで届ける点に面白さを見ていました。
「Past Self」公式アニメーション映像(2025年『Even In Arcadia』収録)。
シンプルな曲としてのまとまりを見る評と、言葉をどのような口調で運ぶかに注目する評では、同じ曲の受け止め方も変わります。
2025年の作品では、声色を増やすことに加え、歌と語りの距離をどのように取るかも、評価の焦点になっていたのです。
初期の歌にあった静けさと激しさの幅を残しながら、ファルセット、歌とラップ、さらに別の声色へ。
ヴェッセルの歌声の変遷は、その時々の曲に合わせて、声の使い方と表現の種類を広げてきた歩みとして見ることができます。
ファルセットや声の強弱、歌とラップをどう組み合わせるかは、ヴェッセルの歌い方で取り上げています。

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