ORANGE RANGEのYAMATOは、歌う前に声がすぐ整うタイプではないと自分で言います。
だからライブの一時間前には声を出し始め、曲によっては言葉の響きにこだわり、リズムが合わない一節は何度でも録り直す。
高い声を勢いよく出すだけでは見えない、準備と選択の積み重ねが歌い方の芯にあります。
声は舞台の一時間前から作り始める
YAMATOはライブやレコーディングがある日に、低いところから高いところまで、自分の出せる音域を整えると話しています。
喉が起きるのに時間がかかるため、スタジオでも声を出し、カラオケで歌うこともある。
2023年の野外フェスの取材では、ステージの二時間前から食べず、一時間前にはウォーミングアップを始めると具体的に説明しました。
本人は、起床から二時間ほどたつと発声しやすくなるという自分の傾向も把握しています。
歌う予定に合わせて生活の中の時間を見ているわけです。
歌が始まる瞬間だけを見ると、声が自然に出ているように思えるかもしれませんが、本人は舞台の前の時間まで含めて歌を準備しています。

写真出典:USEN encoreの2025年取材
山口百恵から学んだ「同じ言葉を同じ声にしない」方法
YAMATOは歌謡曲を聴き、歌うことから学んできました。
例に挙げたのは山口百恵。
同じフレーズでも、最初は裏声、次は立ち上がりを強くし、さらに優しく触れるように歌う、と本人は受け取っています。
歌詞が同じでも、声の入れ方が変われば聴く人の受け取り方も変わる。
その発見を、一曲の中で聴き手を楽しませる方法として話しました。
この学びで注目したいのは、反復するフレーズにも違いを作れるという着眼点です。
声の高さや旋律が同じでも、柔らかく入るか、はっきりと立ち上げるかで、その言葉を再び歌う意味が変わります。
バンドにはYAMATO、HIROKI、RYOの三人の声があります。
交代のたびに人物が替わるような構成だからこそ、自分に渡された短い部分でも、どんな表情で言葉を入れるかが効きます。
「KONNICHIWA東京」で重ねた、低音から高音までの声
三人の声についてNAOTOは、低い声、真ん中の声、高い声という大まかな役割があると説明しています。
ただ、その分担だけで各人の出す声を決めつけることはできません。
YAMATO自身が幅広い高さの声を録った例が、2018年のアルバム『ELEVEN PIECE』に入る「KONNICHIWA東京」です。
レーベル公式のインタビューでYAMATOは、この曲のボーカルの約八割を自分が担ったと話しています。
低音、中音、高音と声を重ね、一度にはすべてを聴き取れないほどの層を作ったそうです。
一人が高い旋律を受け持つだけの歌とは、録音の中で果たす役割が違います。
前に出る声と、その周囲を満たす声の両方を、自分の声で組み立てているのです。
この曲の歌詞はすべてNAOTOが書いており、YAMATOはそのバランスも新鮮だったと振り返りました。
自分で考えた言葉を自分の得意な高さへ置くだけでなく、別の人が描いた歌に寄り添い、いくつもの声として表現する。
声域の広さを一つの最高音で測るより、その幅を曲の中でどう使ったかが分かる例です。
「Imagine」で初めてはまった、理解と歌唱の間の溝
2022年の「Imagine -Double Circle ver.-」を録るとき、YAMATOは自分のパートのリズムがどうしてもつかめず、何回も録り直しました。
図にしてもらえば仕組みは分かる。
それでも声を出すと、思ったようには乗れない。
21年歌ってきて録音でこのような行き詰まりを経験したのは初めてだったと、本人は話しています。
知識として拍を数えられることと、言葉をその拍へ置けることは違います。
YAMATOは自分を特に不得意なものの少ない歌い手だと思っていたからこそ、この差に驚き、学びとして受け取りました。
いつでも直感だけで歌うのではない。
曲が求めるリズムに自分の声を合わせるまでやり直すところに、歌の職人としての姿が見えます。
「裸足のチェッコリー」――意味を足すより、響きを残す
言葉のリズムを優先する判断は、2025年の「裸足のチェッコリー」にも表れます。
NAOTOが仮歌で入れた「チェッコリー」という言葉を受け取ったYAMATOは、まさかそのまま使わないだろうと思ったそうです。
ところが、その音の強さを越える言葉が見つからず、曲に残すことに納得しました。
歌詞を整えて意味を増やすより、口に出したときの力を選んだのです。
YAMATOは別の取材でも、言葉の意味を強調しすぎず、響きやリズムを重視する作り方は昔からあると語っています。
だから「チェッコリー」を残したことは急な路線変更ではありません。
ただ、何でも意味の薄い言葉にすればよいわけでもない。
歌い手として受け取った仮歌の響きが、その曲には合うと判断した一例です。

YAMATOは下段左。
写真出典:ENCOUNTの2025年取材
音源のパートを、そのままライブへ持ち込むとは限らない
2025年の『THE FIRST TAKE』への出演を振り返った取材では、YAMATOは別の調整も明かしています。
「イケナイ太陽」を準備する中で、音源では歌っているのに、普段のライブでは歌っていない部分がいくつもあることに気づいたそうです。
そこで、今回は録音に沿って歌ってみようという相談がありました。
三人の歌割りは、録音した時点で永久に固定されるものではありません。
YAMATOによれば、音源に忠実な形で歌う曲もあれば、ライブ用のアレンジを使う曲もあり、そのバランスを話し合っています。
自分の歌う場所を増やせばよいわけではなく、ほかの声や演奏との関係を見て、一曲の形を選んでいるのです。
同じ企画で歌った「花」については、「イケナイ太陽」より伴奏がシンプルだったこともあり、収録では緊張を感じたと話しました。
華やかな曲と、音の少ない曲とでは、声を置くときの感覚も違う。
録音された歌とライブの歌を比べる際には、声の出し方に加え、その場で何を歌う役割なのかにも注意を向けられます。
一公演の中でも、歌い出しと終盤を分ける
音の高さだけでなく、一曲をどの状態で歌うかも変わります。
2024〜25年のホールツアーでYAMATOは、前半を冷静に届け、終盤に一気に解放する配分を試しました。
同じ公演の中で集中の使いどころを決め、聴かせる場面と解放する場面を作る方法です。
その試みが生まれるまでの歩みはYAMATOの歌唱変遷に譲ります。
喉が整うまでの時間、山口百恵から学んだ一節の表情、手こずった「Imagine」のリズム、「チェッコリー」の響き。
これらに共通するのは、決まった一つの声を押し通さないことです。
YAMATOは曲が要求するものを聞き分け、必要な準備をし、うまくいかなければやり直す。
その積み重ねが、ORANGE RANGEの三つの声の中で彼の歌を支えています。

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