ゼインの歌声の変遷|グループの高音から、自分の経験を歌う声へ

One Directionのゼインと、ソロのZAYN。
名前の見え方だけでなく、同じ高い声が歌う音楽も大きく変わりました。
グループの曲で耳を引いた声は、R&Bの細かな歌い回しへ広がり、2024年にはギターを中心とした私的な歌へ向かいます。
そして2026年には、再びポップR&Bを前に出した『KONNAKOL』を発表しました。

この変化は、年齢とともに声がどう変わったかを追うだけでは分かりにくいものです。
歌い方を誰が決めるのか。何を歌いたいのか。どんな音楽の中に自分の声を置くのか。
ゼイン自身がその答えを選ぶようになった過程として聴くと、作品同士のつながりが見えてきます。

グループ時代――R&Bが好きでも、自由に歌えるとは限らなかった

ゼインとR&Bのつながりは、グループに入る前までさかのぼります。
父親が聴いていたアッシャーやプリンスなどの音楽に親しみ、2010年の『The X Factor』のオーディションでも、マリオの「Let Me Love You」を歌っています。
One Directionに加わる前から、その音楽は本人の好みの中にありました。

グループの曲でゼインの声を好きになった人には、彼の高音や、旋律を細かく動かす歌い回しを楽しみにしていた人もいるでしょう。
ただ、印象的な声を持つことと、自分の好きな歌い方をそのまま採用してもらえることは、別の問題でした。

脱退後のゼインは、グループの録音ではR&Bらしく歌っても、よりまっすぐなポップスの歌になるまで録り直したことがあったと振り返っています。
彼には、自分らしく変えた部分を元に戻されるように感じられたのでしょう。
一方で、聴き手が好きになった完成版の声も、その録音から生まれたものでした。

ソロで起きた変化を考えるときは、この前提が大切です。
歌う力を一から身につけ直したというより、すでに持っていた歌い回しを、どこまで自分の判断で使えるかが変わったのです。

2014年11月、ARIA Awardsでのゼイン
2014年11月、ARIA Awardsでのゼイン。写真:evarinaldiphotography(Flickr) / CC BY-SA 2.0

2016年――「PILLOWTALK」の大きな声と、「Flower」の細かな声

2015年にグループを離れたゼインは、翌2016年に『Mind of Mine』を発表します。
先行シングル「PILLOWTALK」では、厚い音の中でサビを大きく歌い上げました。
ソロになった彼を最初に覚えたのが、この強い歌声だった人も多いでしょう。

ところが、アルバム全体がこの曲と同じ迫力で進むわけではありません。
「iT’s YoU」では伴奏を抑えた中に裏声があり、「INTERMISSION: fLoWer」では、ギターに乗せた短い歌が別の表情を見せます。
一人になったことで、ひとつの声の中にあった違いを、曲ごとに大きく見せられるようになりました。

「Flower」で歌われる言葉はウルドゥー語です。
ゼインは、子どものころ家で流れていたヌスラト・ファテ・アリー・ハーンの音楽から影響を受けたと話しています。
声を細かく揺らし、ひとつの音節の中で旋律を動かすこの歌には、英語のR&Bだけでは説明しきれない背景があります。

ヌスラトが歌っていたカッワーリーは、南アジアのスーフィーの信仰と結びついた音楽です。
ゼインは、同じ旋律を繰り返して深く入り込んでいく、その歌い方の心地よさを語っていました。
「Flower」はその伝統を丸ごと再現した曲ではありませんが、家で聴いていた音楽が、自分のアルバムの歌い方として現れた短い一曲です。

大きなサビで声を広く響かせる曲の隣に、わずかな時間の中で声を細やかに動かす曲がある。
その幅を、ゼイン自身の名前で聴かせられるようになったことに、ソロ最初のアルバムの意味があります。

2017年以降――声を持ち寄って、曲を作る

ソロ活動は、すべてを一人で抱えることでもありませんでした。
2017年の「Dusk Till Dawn」ではシーアと共演し、二人の声が大きなサビを作ります。
ゼインは後年、自分が作った曲を彼女に送り、シーアが曲をさらに良くしてくれたと話しています。

別の歌手が加わることで、自分が作った曲に新しい魅力が生まれる。
グループの完成形へ合わせることに窮屈さを感じた人が、ソロでは自分で相手を選び、その力を借りていたわけです。

プロデューサーのティンバランドとの制作では、携帯電話に残していた声のメモが曲の材料になりました。
出来上がった伴奏を渡されて歌うだけでなく、自分の思いつきから相手の制作が始まる。
ゼインの声は、完成間近の曲に入れるものだけでなく、曲を生み出す最初の材料にもなっていきました。

2024年――歌を先に録り、その声を生かす演奏を作る

『Icarus Falls』(2018年)、『Nobody Is Listening』(2021年)を経て、2024年に発表したのが『Room Under the Stairs』です。
それまでのポップR&Bの印象に比べ、ギターや生の楽器を中心とした響きが前に出ました。
声にも、滑らかさや華やかさだけでなく、迷いや疲れを抱えた人物の言葉として聴きたくなる表情があります。

ゼインは「Alienated」を書いたことで、自分の中にそれまで知らなかった曲を作る力があると感じ、この方向をさらに掘り下げたと説明しています。
歌詞の大半も自分で書き、このアルバムには別の歌手を迎える必要を感じなかったと話していました。
デュエットの良さを知ったうえで、今度は自分の経験を自分の声で伝える作品を選んだのです。

制作では、自宅で録った歌をもとに、共同プロデューサーのデイヴ・コブたちが演奏を整えていきました。
曲の出発点になった声が、完成に向けて生かされています。
「Alienated」で本人が不完全な部分も残した理由は、ゼインの歌い方で詳しく扱っています。

このアルバムの穏やかな曲調を、ただ気持ちが落ち着いた証拠として聴くのも、少し違うでしょう。
「Birds on a Cloud」では明るさのある演奏に切実な願いが重なり、「How It Feels」では声とピアノ、広がる弦の響きが、簡単には晴れない気持ちを描きます。
演奏が静かになれば、歌の中の感情まで静かになるわけではありません。
むしろ、声に何を託しているかが分かりやすくなった作品です。

コンサートに出演するゼイン
コンサートに出演するゼイン。写真:César Mujica Robledo / CC0

2026年――ポップR&Bと、自分のルーツをもう一度

2026年4月に発表した5作目『KONNAKOL』では、ゼインは再びポップR&Bを軸にしています。
先行曲「Die For Me」は、『Room Under the Stairs』のギター中心の音楽とは違う、ソロ初期からの持ち味を前に出した曲です。

2024年の作品と並べると、カントリーを思わせる音楽もR&Bも、本人が選べる表現になっていることが分かります。
一つのジャンルへたどり着くことより、作品ごとにどの音楽で歌いたいかを選ぶことが、ゼインのソロ活動を動かしているようです。

『KONNAKOL』では、本人が自分のルーツを改めて意識していることも語られています。
2016年の「Flower」でも現れていた南アジアの音楽とのつながりが、新しい作品の発想にも関わっています。
アルバムごとに何を前面に出すかは変わっても、育った家で聴いていた音楽が、本人の選択に関わり続けています。

自分の声で、何を歌うかを決められるようになった

ゼインの歌声をたどると、最初から耳を引く高音を持っていたことが分かります。
その声をどう使うかは、グループ、ソロ、デュエット、自宅での制作によって変わってきました。

「PILLOWTALK」では大きなサビを歌い、「Flower」では家で親しんだ歌い回しを持ち込み、「Alienated」では不完全な部分も含めて気持ちを伝える。
さらに『KONNAKOL』では、ポップR&Bと自分のルーツを改めて見つめています。
声の成長を、高音が出るか出ないかだけで考えると、この変化はこぼれてしまいます。

昔のゼインの声が好きなら、今の作品を聴いたあとに、もう一度グループの曲へ戻るのも楽しみ方のひとつです。
あの短い一節で目立っていた歌い回しが、後のどの曲へつながったのか。
そして、自分で曲を作り、歌い方を決められるようになって、何を新しく聴かせたのか。
その二つを行き来すると、自分の声でできることを本人が選び、その選択に応じて曲も歌い方も変わってきた歩みが、よりはっきり聞こえてきます。

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