ショーン・メンデスの歌い方|「In My Blood」は、なぜ弱さを力強い声で歌うのか

2018年4月、英国女王の誕生日公演でのショーン・メンデス ショーン・メンデス
Raph_PH / CC BY 2.0

「In My Blood」のショーン・メンデスは、不安や心細さを歌っているのに、サビでは声を強く張ります。
静かな始まりを聴いていたはずが、いつの間にか大きなギターの音と、切実な高音に引き込まれている。
2018年に発表されたこの曲には、彼の歌い方を考える面白さが詰まっています。

あの強い声は、何も怖くなくなった人の声なのでしょうか。
むしろ、苦しさを抱えながら、それでもあきらめたくない人の声として聴くと、歌詞と歌い方がつながります。
弱さを隠すために声を張るのではなく、弱さも含めて誰かに届くように歌う。
その一曲の流れを追ってみましょう。

静かな歌い出しから、助けを求める気持ちが伝わる

「In My Blood」の歌い出しには、華やかなポップスターらしい余裕よりも、助けを求める人の心細さがあります。
自分の気持ちを扱いきれず、どうしたらよいか分からない。
曲は、その状態をいきなり大きな音で説明せず、抑えた声と伴奏から始めます。

この始まりがあるから、あとで声が強くなったときも、同じ人が必死に歌っていると受け取れます。
初めから最後まで大きな声だったら聞き分けにくい、気持ちが切り替わる瞬間があるのです。

ショーンの声は、穏やかに歌う部分では、人に話しかけるような親しみやすさがあります。
高い声の力強さを目立たせるためにも、その前の静かに歌う部分がよく働いています。
サビだけを切り取って聴くより、最初から続けて聴いたほうが、強く歌う理由が伝わりやすい曲です。

サビは「もう平気」より、「まだあきらめたくない」

サビに向かうとギターやドラムが大きくなり、ショーンの声も前へ出ます。
音楽だけを追えば、気持ちよく盛り上がるロックの曲です。
でも、そこで歌われている気持ちは、何もかも解決した喜びではありません。
くじけそうになりながらも、自分はここであきらめない、と踏みとどまる気持ちです。

この違いを考えると、彼の高音が少し必死に聞こえることにも意味が生まれます。
余裕のある人が遠くから励ますのではなく、困っている本人が自分にも言い聞かせている。
そういう歌として聴くと、声の勢いと歌詞の弱さが、一つの気持ちとして届きます。

題名の「In My Blood」は、この曲では、あきらめることは自分の性分ではない、という思いと結びついています。
弱っている自分を否定する題名ではありません。
弱っていると認めたうえで、その先へ行こうとする歌です。

だから、サビのあとにまた不安を感じさせる言葉が出てきても、不思議ではありません。
一度力を出せば、その後ずっと平気になるとは限らない。
静かな歌と大きな歌を行き来する曲の作り方が、そんな気持ちの動きに合っています。

2018年のMTV VMAで「In My Blood」を歌うショーン・メンデス
2018年のMTV VMAで「In My Blood」を歌うショーン・メンデス。写真:MTV International / CC BY 3.0

楽に歌える高さだけでは、曲を決めなかった

ショーンは、自分の曲の見せ場に、歌うのが難しい高さを置きたくなると話しています。
声の出し方が切り替わるあたりで、注意しないと声がひっくり返る場所です。
そこで歌う切実さを大切にする一方、録音で選んだ難しい歌をツアーで何度も歌うことになり、後悔するとも笑っていました。

「In My Blood」では、その選択が歌詞と噛み合っています。
困っている人の言葉が、力強い高音へ届く。
きれいな声で解決を告げるより、必死な声で踏みとどまるほうが、この曲の人物には似合うのでしょう。

恋の歌から、自分のことを打ち明ける歌へ

ショーンは、この曲を発表すること自体も怖かったと振り返っています。
それまでの恋の歌を好きでいてくれた人が、悲しい気持ちを歌う曲をどう受け取るのか、不安があったのです。
ところが公開後には、ファンや友人、家族から、この曲が大切だという言葉が届きました。

その少し前、2016年のショーンは、恋愛の歌なら物語として書けても、自分に本当に起きたことを掘り下げる歌は難しいと話していました。
恋の歌も真剣に歌っていた人が、今度は自分の困っている気持ちを題材にする。
「In My Blood」の切実さには、歌詞の外にも、そうした前提があります。

ただ、本人の経験を知ることと、聴き手がその経験を詳しく知り尽くすことは別です。
この曲を好きになるために、彼に起きた出来事を一つずつ調べる必要はありません。
小さな声で助けを求め、大きな声であきらめたくないと歌う流れの中に、自分の経験を重ねる余地があります。

発表する側には怖さがあっても、聴く側には「自分だけではない」と感じられる歌になる。
その反応が、弱さを歌うことにも力があると示していました。

2017年7月、公演でのショーン・メンデス
2017年7月、公演でのショーン・メンデス。写真:Josiah VanDien / CC BY-SA 4.0

強い声が、弱い気持ちを消さずに届く

「In My Blood」の歌い方で大事なのは、大きな声を出すことだけではありません。
最初の心細い歌があるから、サビの高音が踏みとどまろうとする声に聞こえます。
そしてサビが力強いから、その前に打ち明けた弱さも、多くの人に届く歌になる。
一曲の中で、その二つが支え合っています。

ここでショーンが歌っているのは、いつでも強くいられる人の物語ではありません。
声を張ってみても迷いは残るし、それでももう一度言葉にしてみる。
その繰り返しがあるから、曲が終わったとき、完璧な人に励まされたというより、一緒に踏ん張ってくれた人がいるように感じられます。

この張りのある歌から、2024年に仲間と声を合わせた親密な音楽へ、表現がどう広がったのかは、ショーン・メンデスの歌声の変遷でたどっています。

「In My Blood」を聴くときは、サビの高音とともに、その手前の小さな声も思い出してみてください。
あの力強さが、弱さを覆い隠すものではなく、弱さを抱えたまま前へ出ようとする力として聞こえてきます。

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