森川之雄の歌い方|太い声の迫力と、旋律を包む柔らかさ

2013年の歌魂で歌う森川之雄(写真:桂伸也) シンガー
2013年の歌魂で歌う森川之雄(写真:桂伸也)

ANTHEMで歌う森川之雄は、太く、前に出る声が印象的です。
しかし、その声をただ強く出し続ける人だと考えると、バラードやアコースティックでの魅力がこぼれてしまいます。
声を張る場面、旋律を丁寧に運ぶ場面、リズムの中へ歌を置く場面を分けると、森川らしさがもっと具体的になります。

太い声が、曲の出発点になる

柴田直人が「The Artery Song」を作る際、出発点の一つになったのが森川の声でした。
歌手の個性が、曲の組み立てに結び付いています。

こうした曲で考えたいのは、声の大きさそのものより、演奏と並んだときに何が残るかです。
重い音の中でも、旋律を担う一人の声として輪郭がある。
森川の歌をまねる場合も、単純に音量を上げることと、曲の中で言葉や旋律を届けることは同じではありません。

若い頃の『GYPSY WAYS』の録音では、力が入り過ぎて歌が録れなかった時期がありました。
強い声の持ち主にとっても、力むことと良い歌を残すことは別でした。
完成音源の迫力を、そのまま身体にかける力の量へ置き換えないことが大切です。

「Love of Hell」で求められた、切なさの形

「Love of Hell」は、森川の声を大きさ以外から考えられる曲です。
柴田はこの曲を気に入っており、森川が自分の望んだとおりに歌ってくれたと振り返っています。
曲の中心にあるのは、誰かを求めることに伴う痛みで、華やかさを競う歌ではありません。

この曲と「Sailing」は、森川の復帰以前から柴田が温めていたものです。
新しい編成なら演奏できると考えたことで、『ABSOLUTE WORLD』に居場所ができました。
森川の声に求められたのは、激しい曲を押し切る力だけでなく、こうした旋律を歌として支えることでもあったのです。

太い声と切なさは、相反するものではありません。
声に重みがあるからこそ、旋律を丁寧に運ぶ場面で、言葉の感情が軽く流れていかない。
森川の表現を考えるときは、高音に到達する瞬間と同じくらい、メロディーを持続させる時間にも目を向けたいところです。

音数が少ない場所に残る、ビブラートの優しさ

歌魂でギターを弾きながら歌う森川之雄(右、2013年/写真:桂伸也)
歌魂でギターを弾きながら歌う森川之雄(右、2013年/写真:桂伸也)。
画像出典:画像掲載元

ZINとのアコースティックユニット「歌魂」にも、その手掛かりがあります。
2013年のステージでは、力強い主旋律と、優しさを感じさせるビブラートの両方を示していました。
「BADLY MINE」のような曲でも、バラードでも、根にある声の存在感は変わりません。

ビブラートは、伸ばした音を揺らして表情を付ける要素です。
声の太さだけに耳を向けていると、こうした小さな動きが作る柔らかさを見落としやすくなります。
森川の場合、弱々しい声に変えて優しさを出すというより、強い声の中にも柔らかな表情を持てるところが面白いのです。

伴奏が少ない場所では、バンド全体の勢いに包まれていた歌の線が、より前に出てきます。
それでも歌を支えられることは、大きな音に対抗する声量とは別の強みです。
森川のアコースティック活動を知ると、太さと繊細さを二者択一で考えなくてよくなります。

歌は、リズム隊の上で完成する

GOLDBRICKで森川が語っていたのは、表情豊かなリズムの上に歌が加わり、さらにグルーヴを作るという考え方でした。
伴奏が出来上がっているから、その上で声を出せばよい、というだけではありません。
歌も、曲の動きや乗り心地を作るのです。

ANTHEMの「Pain」も、森川と曲の関係を示す例です。
柴田は録音の直前まで旋律を考え、森川が歌う姿を想像して仕上げています。
表現の難しさは、声の強さだけで解決するものではありません。

ここでの聴きどころは、歌を伴奏から切り離して採点するより、曲の流れと一緒に捉えることです。
声が旋律を進めると、楽器の作ったリズムにも別の表情が加わる。
高い音を出せるかどうかとは違う場所に、歌手が曲を動かす仕事があります。

同じ太さでも、曲ごとの感情は違う

2019年の『HUNTING TIME』再現公演では、激しいシャウトを交える表題曲に対し、「Tears for the Lovers」では情感を込めた歌が印象を変えていました。
同じ日の「Walk Through the Night」でも、森川は陰りのある旋律を情感豊かに歌っています。
強さを持つ声で、違う感情を表せることが、曲の幅を支えていました。

「Snake Eyes」では、ブルースを思わせる歌の味わいが、強く張る声に重なります。
これは、メタルらしい迫力と、旋律を自分の歌にする表情が、一つの声に同居する例です。
激しい曲でも、勢いだけに注目すると歌の面白さを取り逃がします。

同じアルバムの「Roaring Vortex」は、暗さと重い足取りが印象を作る曲です。
「Snake Eyes」の勢いとは違う、パワーバラードにも近い広がりを持っています。
こうした曲まで並べると、森川の声が支えているのは、速く駆け抜けるメタルだけではないことが分かります。

同じ歌手を聴き比べるときも、高音の頂点だけを抜き出すと、曲ごとの違いが小さく見えてしまいます。
ゆっくりした曲で旋律が進む時間と、速い曲で声が勢いを作る時間を、それぞれ曲の中で捉える。
その聴き方が、森川の声の役割を知る手掛かりになります。

一方、全曲英語詞の『NUCLEUS』を作った際には、森川は歌うのが簡単ではなかったと話しています。
長く歌ってきた人にも、新しい言葉で曲を成立させる作業がありました。
言語の違いを、声の迫力だけで埋められると考えていなかったことがうかがえます。

2023年の『CRIMSON & JET BLACK』では、日本語話者らしい響きがわずかに感じられながらも、英語での歌と力強さが両立していると評価されています。
別の声になりきることだけが、英語で歌う到達点ではありません。
森川と分かる声で、曲の言葉を届けるところに意味があります。

本番以外で、大きな声を使い続けない

歌う場所以外での声の扱いにも、森川らしい慎重さが見えます。
柴田が2017年に話したところでは、森川は騒がしい打ち上げを避けていました。
周囲の音に負けないよう大声で話し、喉へ負担をかけることを避けるためです。

ステージで力強く歌うことと、日常でも大声を使い続けることは別の選択です。
この習慣だけを歌唱力の理由にすることはできませんが、声を使う場面を選んでいることは分かります。
森川の迫力には、出す瞬間だけでなく、その声を歌へ向けるための配慮もあります。

森川の歌い方を一言で表すなら、太い声を土台に、旋律とリズムに応じて表情を変える歌です。
シャウト、切ない旋律、アコースティックでのビブラートは、その別々の現れです。
こうした表現を担う場所がどう広がったかは、森川之雄の歌唱変遷でたどれます。

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