米倉千尋の歌い方|力強い声に励まされた人が、静かな歌にもひかれる理由

黄色い衣装と帽子の米倉千尋 シンガー
米倉千尋。出典:キングレコード

米倉千尋の歌に励まされてきた人が、伴奏の少ない歌を聴いて、さらに深くひき込まれる。
そんな場面が、2016年のデビュー20周年公演にありました。
歌手の逢瀬アキラが、その日の歌で最もよかったと振り返ったのは、ピアノだけを伴奏に歌った「未来の二人に」でした。

米倉といえば、1996年のデビュー曲「嵐の中で輝いて」。
OVA『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』の主題歌として、今も本人のライブに欠かせない一曲です。
あの力強い歌が好きな人にとって、静かな伴奏の歌には、どんな発見があるのでしょうか。

本人の公式チャンネルでは、2021年にテンポを上げた伴奏で歌う「嵐の中で輝いて」も楽しめます。

「嵐の中で輝いて」は、歌う本人も励ましてきた

米倉にとって「嵐の中で輝いて」は、活動の方向を決めてくれた曲です。
2026年のインタビューでも、困難の中で諦めずに進もうとするこの歌の姿勢が、自分を後押ししてきたと話しています。

ファンに向かって励ましの言葉を歌いながら、自分も同じ歌に支えられてきた。
ここを知ると、代表曲を何度も歌うことの意味が少し変わります。
懐かしい曲を求められたので応じる、という関係だけではないのです。

力強く声を伸ばす場面は、歌の内容とも結びついています。
立ち止まりそうな人を前へ向かわせる曲だから、その声の勢いを心強く感じる。
米倉の歌の力は、音量や高い音が出ることだけでは説明しきれません。
何を歌っているのかまで含めて、聴き手を励ます声になっています。

デビュー20周年公演で客席へマイクを向ける米倉千尋
2016年1月24日、デビュー20周年公演。
出典:BARKS

ピアノだけになると、声のどこに耳が向くのか

その米倉の歌を、伴奏を減らして聴くとどうなるのでしょう。
冒頭の20周年公演で、逢瀬アキラが「未来の二人に」にひかれた理由は、声の艶や、息遣いの美しさにありました。
バンドとともに力強く歌う姿を知っていたからこそ、歌声の細かな表情にも心を動かされたのでした。

この曲は、米倉にとってデビューのきっかけになった大切な歌でした。
ただ、その大切さが重荷にもなり、以前は苦手に感じていたといいます。
20年を経て、今の自分なら歌えると思い、自ら演奏を希望したのでした。

大切な曲なら、いつでも気持ちよく歌えるとは限らない。
この日の「未来の二人に」は、思い入れの重さも抱えたうえで、今の自分の歌として選び直した一曲だったのです。

また、ピアノと声だけの演奏では、歌手が言葉を切った後にも、大きなバンドの音が続くわけではありません。
声が伸びていく間だけでなく、止まるところや次に歌い始めるまでの間にも、耳を向けやすくなります。
そこで艶や息遣いが印象に残ったという逢瀬の感想は、米倉の別の聴きどころを教えてくれます。

2021年には「未来の二人に」を、榊原長紀のアコースティックギターとともに歌っています。
こちらも伴奏と歌声の近さを味わえる演奏ですが、2016年のピアノ伴奏の公演とは別の歌唱です。

声を揺らす大きさや、声色でも表情を変える

力強く歌うか、静かに歌うか。
米倉の声の使い分けは、その二つだけではありません。
2015年には、アニメ「アザゼルさん」の主題歌で、ビブラートを極端にかけたり、かわいらしい声を使ったりしたことを話しています。
複数の歌い手がいるように感じさせる、という狙いもあったそうです。

ビブラートは、伸ばす声を揺らす表現です。
同じ長さの音でも、揺れを目立たせるかどうかで、歌い手の身ぶりまで大きく感じられることがあります。
米倉はそこで、普段の声をそのまま当てはめるのではなく、曲の中で声を遊ばせていたのです。

かわいらしい声との使い分けにも、聴きどころがあります。
一人の歌手が歌っていると知っていても、声の表情が変われば、別の人物が顔を出したように受け取れます。
米倉自身、アザゼルさんの曲をきっかけに知った若いリスナーから、ガンダムの主題歌も歌っていたことを驚かれたといいます。
代表曲だけでは出会えない声がある、ということなのでしょう。

そうした演出の大きな歌を知ったうえで、伴奏の少ない「未来の二人に」へ戻るのも面白い聴き方です。
声色の変化に驚く歌と、一つの声の艶や息遣いに耳を澄ます歌。
どこに聴き手の注意を向けるかにも、米倉の歌の幅が表れています。

客席も歌えたとき、「私という物語」が完成した

ピアノと声だけの歌をじっくり聴く時間があれば、観客も歌に参加する時間があります。
米倉のライブには、聴き手に力をもらう場面もあります。
2021年の25周年を記念した新曲「私という物語」では、客席の歌声を長く待っていました。

コロナ禍のため、当初の記念公演は配信になりました。
そして2年後の2023年、改めて客席を迎えた公演で、観客と一緒にこの曲の掛け声を歌うことができました。
米倉は公演後、ファンの歌声が加わって、曲とアルバムが完成したと感じたことをつづっています。

もちろん、録音作品としては2021年に完成していました。
それでも本人には、聴き手が同じ場所で声を重ねるところまで、待っていた時間があったのでしょう。
歌手の声がよく出た、予定どおり演奏できた、ということだけでは埋まらなかったものです。

米倉がうれしく感じたのは、ファンも声を出して一緒に歌えたことでした。
歌われた言葉に元気をもらうだけでなく、自分も声を出したことで元気になる。
ライブでは、そんな楽しみ方もできるのです。

客席の声に驚かされた経験は、海外にもありました。
2015年にバンコクで歌った後の取材では、ほかのアジアの国でも一緒に歌う観客はいるけれど、タイでは予想外の曲まで歌ってくれた、と話しています。
歌手から客席へ歌が届き、今度は客席から歌声が返ってくる。
「私という物語」で待っていた声も、米倉が長く経験してきた、そんなやり取りの一つとして捉えられます。

淡いピンク色の衣装で座る米倉千尋
2026年掲載のインタビューより。
出典:Great Game

力強い歌が好きなら、静かな歌も聴いてみたい

米倉はデビュー27周年を迎えた頃、自分の声をもっと使いこなしたいと考え、体づくりや発声の練習に取り組んでいることも明かしています。
2026年にも、体調への気配りと自分で行う発声練習を続けていると話していました。
代表曲を長く歌えているから、声の扱い方も完成している、とは考えていないのです。

「嵐の中で輝いて」の勢いに励まされた後で、「未来の二人に」を聴く。
すると、声を大きく伸ばすところばかりでなく、言葉の終わりや息遣いにも関心が向きます。
伴奏が少なくなったから、歌の力まで小さくなるわけではありません。
ぐっと気持ちを前へ押す歌と、立ち止まってじっくり聴きたくなる歌。
その両方を歌えることが、米倉千尋を聴き続ける楽しさです。

シンガー人気投票。投票ページはこちら

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました