「めざせポケモンマスター」は、歌手の声を聴いて終わる曲ではありません。
歌詞を覚えて声を重ね、掛け声を返したくなる。
松本梨香の歌の強さは、一人で目立つためではなく、聴く人がその中に入れるように使われています。
松本自身、ポケモンの歌では子どもたちと一緒に歌えるよう、言葉をはっきり伝えることを大切にしていると話しました。
ここでは曲の中で誰に声を向けているか、そして別の主題歌では同じ強さがどう働くかを見ていきます。
大きく歌うだけでは、子どもに言葉が届かない
松本の声には、勢いのある掛け声や、まっすぐに飛んでくる言葉という印象があります。
ただ、2012年の本人取材でまず強調したのは声量ではなく、子どもが歌詞を受け取れることでした。
歌の世界を崩さず、歌詞の意味がきちんと伝わるよう、言葉を明瞭に歌うというのです。
子どもが歌を覚えるとき、テレビから聞こえた言葉をまねすることがあります。
曲がどれほど盛り上がっても、言葉がつかめなければ一緒に歌いにくい。
「めざせポケモンマスター」では、歌の勢いと言葉の輪郭の両方が必要になります。
録音中に松本が思い浮かべるのも、目の前で子どもたちが歌っている場面だそうです。
聴き手の姿を考えながら歌うから、声を届ける方向が決まる。
歌詞を伝えることは技術だけでなく、誰と歌いたいかという選択なのです。
この話で注目したいのは、滑舌をよくすることと、メロディに言葉を載せることが一緒に語られている点です。
言葉だけを強調すれば、旋律の流れが途切れることもある。
松本が目指すのは、意味を聞き取れて、そのまま口ずさめる歌です。
たとえば「めざせポケモンマスター」を聴くなら、冒頭の呼びかけから歌のフレーズへ移るところを一つの入口にできます。
掛け声で気持ちが高まったあと、言葉がどうメロディの中へ収まるか。
音の高さや勢いに加えて、次の言葉を自分でも続けたくなるかに耳を向けると、明瞭に歌う意味がつかみやすくなります。

出典:マイナビニュース。
「子どもたちのリーダー」は、聴き手を置いていかない
松本は「めざせポケモンマスター」を歌うとき、子どもたちのリーダーのつもりでいると語っています。
リーダーといっても、一人で先へ走るという意味ではありません。
相手が声を返せるように歌い、みんなで前へ進む役割です。
「THE FIRST TAKE」の「めざせポケモンマスター -with my friends-」は、バンドにエレキバイオリンやコーラスを加えた編成で歌われました。
松本の声だけで曲を満たすのではなく、ほかの声も加わって、歌の呼びかけが広がります。
本人はこの歌を聴く人への応援歌であると同時に、自分も励まされる曲だと話しています。
だから、サトシの元気さをただ大きな声で再現すればよい、とは考えていないのでしょう。
言葉を渡し、仲間の声が入る余地を残す。
その姿勢が、この曲を聴くだけでなく一緒に歌いたくなる理由につながっています。
一緒に音を出す相手への関心は、オーケストラとの共演について語るときにも表れています。
松本は、多くの楽器の音が合わさることで世界が広がることや、その中で一緒に奏でられる楽しさを挙げました。
伴奏を、自分の声の後ろで鳴る音としてだけ捉えてはいないのです。
バンドやコーラスと作る「with my friends」でも、歌を支える人の存在を含めて聴くと、題名の意味が見えてきます。
歌手の呼びかけに、声や楽器がどう加わるか。
松本の力強さと周りの音との関わりが、曲全体の楽しさを作るという見方ができます。
ライブで声を返すのは、子どもだけではありません。
2012年の取材では、「めざせポケモンマスター」を歌うと、一緒に来た母親たちも喜び、子ども以上にはしゃぐことがあると話していました。
昔覚えた歌を、今は子どもと一緒に歌う。
言葉が伝わり、覚えてもらえる歌い方は、そうした再会も支えているのでしょう。
「Alive A life」では、同じ強さが別の役割を担う
松本が歌った『仮面ライダー龍騎』の主題歌「Alive A life」は、発売元がダンスロックの新境地として紹介した曲です。
「めざせポケモンマスター」と同じように力を込めて歌える声が、ここでは仲間への呼びかけではなく、戦いの物語を前へ進める言葉を担います。
この違いは、単に明るい声と暗い声を使い分けた、という話ではありません。
歌詞が誰へ向かい、作品の主人公がどんな場面に立っているかによって、歌の力強さの意味が変わります。
松本の歌を聴くときも、声の大きさだけでなく、言葉の向かう先に注目したいところです。
2022年には、松本本人が高取ヒデアキのバンドZETKIとこの曲を歌いました。
ここに載せたのは、そのバンドによる演奏です。
2002年の原曲とは編成が異なるため、伴奏と声の関わりにも注目すると、この主題歌を別の角度から楽しめます。
『まんまる』では、自然体の歌と演じる声が同居する
歌い方の幅を考えるときには、カバーアルバム『まんまる』も外せません。
松本は、親子が家でも口ずさめるよう、普段の元気な感じを前へ出さずに自然体で歌い、伴奏もアコースティックにしたと話しています。
同じ「一緒に歌ってほしい」という思いでも、曲と場所が違えば声の使い方は変わります。
選曲にも、声の届け方を考える手掛かりがあります。
「生きてこそ」は、いろいろな歌を聴いた中で自分に合うと感じ、ぜひ歌いたいと思った曲でした。
作品の知名度だけで選ばず、自分が今その言葉を歌うことに説得力があるかを大切にしたといいます。
本人のいう自然体には、歌の芯を保つという条件もついています。
元気さを控えることと、伝えたい気持ちまで薄くすることは別なのです。
大勢で声を出す主題歌から、家でくつろいで聴くカバーへと場面を移すことで、松本の歌の強さが音量以外にもあると分かります。
さらに、このアルバムには、曲によってキャラクターを演じた声や掛け声も入れたと明かしています。
自然体の歌唱だけで全体を統一せず、演じる声も作品の楽しさに加えている。
主旋律を歌う声と、合いの手のように現れる声の役割を分けて聴くと、歌手と声優の両方を担う松本ならではの作り方が見えてきます。

出典:アニメイトタイムズ。
『まんまる』に至るまでの選択と、「めざせポケモンマスター」を歌い直した時の発見は、松本梨香の歌声の変遷の記事でたどれます。
松本梨香の歌は、力強いだけでは終わりません。
言葉を明瞭に届けること、聴き手の姿を思い浮かべること、その曲で声が向かう相手を確かめること。
だからこそ、聴く人が声を重ねたくなるのです。

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