アッティラ・ドルンの歌唱変遷|合唱を率いる声から、感情と物語を担う歌へ

アッティラ・ドルン/Wacken Open Air 2017(Markus Felix撮影) アッティラ・ドルン(Powerwolf)
アッティラ・ドルン/Wacken Open Air 2017(Markus Felix撮影)

Powerwolfのアッティラ・ドルンには、合唱を率いて大勢を一つにする歌手、という印象があります。
ただ、その声が担ってきた役割は、最初から今と同じだったわけではありません。
初期のオペラ風の試みから、メタルの曲に声をなじませる準備、ピアノと向き合うバラード、物語を進める歌へ。
歩みをたどると、声の迫力を増すだけでなく、同じ歌手の声を別の角度から届ける方法を探してきたことが分かります。

2005年、声の個性をどこまで前に出すか

初アルバム『Return in Bloodred』の「Son of the Morning Star」では、オペラを思わせる歌が試されています。
アッティラは、オルガンを中心とした曲に歌を重ねるうちに、その方向が生まれたと説明していました。
一方で、ほかの収録曲から離れすぎないよう、オペラの要素を抑える意識もあったといいます。

ここには、後の歌を考えるうえでも大切な出発点があります。
特徴のある声を持っていることと、その特徴を曲の中でどれだけ使うかは、別の問題でした。
最初期から、アッティラの歌は、声の個性とバンドの曲との接点を探していたのです。

2007〜2009年、準備を重ねた独唱が合唱と出会う

『Lupus Dei』(2007年)では、歌の準備が一段と進みます。
マシュー・グレイウルフは、アッティラが歌唱指導者と集中的に取り組み、収録曲をよく準備してスタジオへ入ったと振り返っています。
その結果、歌の録音は予定よりも大幅に早く終わりました。
ファンの反応から得た自信と、実際の練習の積み重ねが、録音の仕事に結びついた時期だったのです。

続く『Bible of the Beast』(2009年)の歌は、アッティラの指導者の個人スタジオで録音されました。
この頃のバンドは、ライブを重ねて得た勢いを曲へ持ち込みつつ、覚えやすさを保ったまま合唱の使い方も広げようとしていました。

マシューは、このアルバムの歌が以前より荒々しく、攻撃的になったとも説明しています。
ライブを終えて間を置かずに制作へ入ったため、舞台での歌い方が録音にも持ち込まれたのです。
整った響きだけでなく、その場の熱を声へ残す方向が加わりました。

このアルバムでは、ザールブリュッケンの音楽大学で、男女25人による合唱を8曲分録音しています。
指揮と合唱編曲はフランチェスコ・コットーネが担当しました。
アッティラ自身も、専門的な訓練を受けた歌い手たちの声が曲へ加わることを喜んでいます。
独唱の存在感に、集団の声の厚みが組み合わさる形が、具体的な制作体制として育っていきました。

アッティラ・ドルン/Knock Out Festival 2012、カールスルーエ(Florian Stangl撮影)
アッティラ・ドルン/Knock Out Festival 2012、カールスルーエ(Florian Stangl撮影)。
画像出典:画像掲載元/CC BY 2.0

2010年代半ば、合唱の大きさを調整できるようになる

『Blessed & Possessed』(2015年)では、合唱の録り方にも工夫がありました。
以前のように複数人をまとめて一つの録音へ入れる方法から、35人の声を個別に録る方法へ進んだのです。
これなら、場面によって少人数を選ぶことも、全員を重ねることもできます。
人数を増やすだけでなく、主役の歌に対して周囲の声をどう配置するか、その選択肢が広がりました。

ただ、当時のバンドは、変化を増やすこと自体を目標にはしていませんでした。
2013年にはフォーク・マリア・シュレーゲルが、バラードやアコースティックギターは必要ない、という趣旨の発言をしています。
自分たちの様式を大切にする姿勢は強く、後のバラードも、当初から決めていた路線とはいえません。

2018年、ピアノと歌を中心にした最初のバラード

その考え方を広げた経験の一つが、カバー集『Metallum Nostrum』でした。
異なる作風の曲を取り上げても、Powerwolfらしさが失われないと実感したことが、次の曲作りを自由にしたのです。
自分たちの音を守るために選択肢を狭める必要はない、という手応えが、『The Sacrament of Sin』(2018年)へつながりました。

同作の「Where the Wild Wolves Have Gone」は、バンド初のバラードです。
フォークは、それ以前にピアノを交えて演奏した経験から、ピアノとアッティラの声の相性に気づいていたと話しています。
メンバーにはもともと、Bon JoviやScorpionsのバラードへの愛着もありました。
突然、別の歌手になろうとしたのではなく、好きだった表現を、自分たちの声で成立させる試みだったのです。

「Where the Wild Wolves Have Gone」/2018年のまとめ映像

速い曲の流れの中で、合唱とともに聴き手を引っ張る声。
その声がピアノのそばに置かれると、一人の歌を受け止める時間が生まれます。
この変化は、音域が広がったという話よりも、アッティラの歌に任される感情の幅が広がった出来事として捉えるほうが自然でしょう。

2020〜2021年、昔の歌を作り直し、バラードを深める

『Best of the Blessed』(2020年)では、初期の曲を再録しています。
「Kiss of the Cobra King」は、昔の曲をそのまま歌い直すだけではありませんでした。
マシューは、サビの歌の線を残しながら、2019年の自分たちならどう書くかを考えて作り直したと説明しています。
初期の歌と後年の歌を比べる際には、歌手の声だけでなく、その声が入る曲自体も変わっていることを忘れたくありません。

「Kiss of the Cobra King」/2019年再録版

『Call of the Wild』(2021年)には、次のバラード「Alive or Undead」が収められました。
最初のバラードがライブで強く受け入れられた一方、マシューには、同じ成果を簡単に繰り返せないという思いもありました。
そこで新たに生まれたピアノの曲を、アッティラが後押しします。
前作の複製にせず、違う雰囲気を持つバラードにすることが大切にされました。

最初の挑戦が成功したから、毎回同じ歌を入れる。
そうした流れではなく、もう一度歌いたいという歌手の意思と、新しい曲の性格がかみ合ったのです。
迫力のある曲の間で感情を受け止める役割が、一度限りの例外から、選べる表現へ変わっていきました。

アッティラ・ドルン/Wacken Open Air 2019(Markus Felix撮影)
アッティラ・ドルン/Wacken Open Air 2019(Markus Felix撮影)。
画像出典:画像掲載元/CC BY-SA 4.0

2024年、歌が物語を進める「1589」へ

『Wake Up the Wicked』(2024年)の「1589」は、まずピアノで曲が書かれました。
マシューがアッティラに託したのは、物語の語り手として歌う役割です。
アッティラはその発想を楽しみ、歌を置いた後から、バンドの音やほかの要素が加えられていきました。

アルバム全体でも、前作のように多くの要素を重ね続けるのではなく、バンドの音とオーケストラの音にそれぞれ出番を与える考え方が取られています。
「1589」は収録曲の中でもテンポが遅く、語り手としての歌を生かす場所になりました。

ピアノを使う点はバラードと共通していても、歌に求めるものは同じではありません。
感情に浸る時間を作るだけでなく、出来事を次へ運ぶことが主役になります。
声の大きさで全体を押し切る歌手、という見方では届かないところまで、役割が広がってきたのです。

一人の声から、会場へ渡していく歌

2026年のライブ作品『Wildlive』には、2024年のミュンヘン公演が収められています。
新しい作品の年と、記録された歌唱の年を分けておくと、ここまでの歩みの着地点が見えやすくなります。

フォークは「Armata Strigoi」で大勢が歌い返す場面に、ライブの力が表れていると語っています。

「Armata Strigoi」/2024年ミュンヘン公演・公式公開版

初期のオペラ風の試み、準備を重ねた録音、合唱、バラード、語り手としての歌。
アッティラの変遷は、声の特徴を捨てて変身する歴史ではありません。
同じ特徴を持つ声に、曲ごとに違う仕事を任せられるようになった歴史です。
曲の中での発声や声の選択については、アッティラ・ドルン(Powerwolf)の歌い方で掘り下げています。

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