ハンズィ・キアシュ (Blind Guardian) の歌声の変遷|巨大な合唱を築いた歌手が、歌い直しで確かめたこと

2025年北米ツアー終盤のハンズィ・キアシュ(2026年1月掲載) シンガー
2025年北米ツアー終盤のハンズィ・キアシュ(2026年1月掲載)

一人の歌手の声が、何人もの登場人物や大きな合唱になる。
Blind Guardianのハンズィ・キアシュは、そうした歌の世界を広げてきました。
ところが、声を重ねる経験を十分に積んだ後にも、歌い方を決められず、何度も録り直す作品に出会います。
メタルの演奏を離れ、オーケストラだけを相手にしたときでした。
彼の歩みには、声でできることを増やす過程と、その声を作品の中へどう置くかを学び直す過程があります。

速いメタルから、歌が物語を広げる1990年代へ

1984年に前身バンドが生まれ、Blind Guardianは1988年に『Battalions of Fear』でアルバム・デビューします。
当時のハンズィは、歌とベースを兼任していました。
1990年の『Tales from the Twilight World』、1992年の『Somewhere Far Beyond』を経て、バンドは日本でも支持を広げていきます。

もともと、ハンズィの音楽の入り口はメタルだけではありませんでした。
十歳頃にはQueenやGenesisなどに引かれ、十二歳でDeep Purpleの『24 Carat Purple』に衝撃を受けています。
速い曲に取り組んでいた歌手の中には、それ以前に出会った、幅のあるロックの記憶もあったのです。

1989年のツアーでは、Queenへの情熱を再発見します。
オーケストラ的な発想を取り込み、やがてフォークの要素にも向かいました。

「Theatre of Pain」は、そうした広がりを考えるうえで大切な曲です。
ハンズィは、この1992年の曲を、本格的にクラシック的なものへ取り組んだ最初の例として挙げています。
1995年の「A Past and Future Secret」では、その試みがさらに進みました。
速さや攻撃性だけでは、歌が担う役割を説明しきれなくなっていきます。

ここで広がったのは、単に曲調の種類だけではありません。
大きな演奏に乗って力を出す歌も、物語を近くで語るような歌も、同じ歌手が引き受けるようになったことです。
後の大作へ向かう道は、声を豪華に飾るだけでなく、歌を置く場面を増やす道でもありました。

1997年の歌唱専念――楽器を手放しても、すぐには自由になれなかった

『Imaginations from the Other Side』の時期には、歌とベースを同時にこなす難しさが増していました。
ハンズィは、この作品では両方を録音できたものの、複雑になったベースの動きと歌を舞台で両立しにくくなったと説明しています。
別の奏者へ任せる判断には、音楽の変化がありました。

1997年、ハンズィはヴォーカルに専念することを決意します。
翌1998年には、トールキンの『シルマリルの物語』を題材にした『Nightfall in Middle-Earth』を発表しました。
歌手として物語を背負う役割が、いっそうはっきりした時期です。

ただし、ベースがなくなれば、すぐに伸び伸びと歌えたわけではありません。
『Nightfall』の制作から宣伝、ツアーへと続き、楽器を持たない自分が舞台でどう振る舞うかを考える余裕がなかったのです。
本人は当初、動き回るフロントマンより、楽器を持って歌う人に自分を重ねていました。
歌に専念することと、歌手として客席の前に立つことは、別々の課題でした。

1998年の最初の公演を、ハンズィは厳しい経験として覚えています。
手応えが変わり始めたのは2002年頃で、2006年以降には、それまでの舞台上の不安を感じなくなったと話しました。
担当を変えるという一度の決断の後に、自分の立ち方を身につける年月が続いていたのです。

声を重ねた2002年、もう一度録り直した2012年

2002年の『A Night at the Opera』では、声の重なりが大きく発展します。
「And Then There Was Silence」について、ハンズィは、ある箇所では32ほどの声を重ね、さらにバック・ヴォーカルも加えたと説明しています。
一つの旋律を歌うだけでなく、複数の声を組み合わせて、大きな展開を作っていました。

And Then There Was Silence|2002年録音・2017年リマスター

その後の『A Twist in the Myth』(2006年)でも、声を中心に置く発想は続きます。
一方で「Skalds and Shadows」は、シングルのアコースティック版と、合唱やクラシック楽器を加えたアルバム版で、基本の曲の性格を保った作品でした。
声や楽器の数を増やすことと、歌の核を変えることは同じではなかったのです。

2015年の取材に掲載されたハンズィ・キアシュ/写真:Hans-Martin Issler
2015年の取材に掲載されたハンズィ・キアシュ/写真:Hans-Martin Issler。
画像出典:画像掲載元

2012年の『Memories of a Time to Come』では、過去の録音を見直します。
「Valhalla」や「The Bard’s Song – The Hobbit」は、昔の意図に近づきながら録り直し、今の自分たちがどこへたどり着くかを確かめる対象でした。
「And Then There Was Silence」も、新たな好みや構想を実現しようと再録しています。
こちらは、思ったほど簡単には進まなかったとハンズィは振り返りました。

And Then There Was Silence|2012年再録

経験を積めば、以前の歌をすべて簡単に更新できる。
そんな一直線の成長ではありません。
作り込んだ曲を歌い直すほど、何を残し、何を変えればその曲になるのかが問題になります。
この問いは、後のオーケストラ作品でも別の形で現れます。

2015年の大合唱から、2019年のオーケストラとの格闘へ

『Beyond the Red Mirror』(2015年)の「The Ninth Wave」では、導入部に複数の合唱団が参加しました。
求めたのは、同じ声を何度も重ねるだけでは得られない、人が集まった合唱の大きさです。
本人の多重録音と、多人数の合唱が、別の役割を持っています。

そして2019年、Blind Guardian Twilight Orchestra名義の『Legacy of the Dark Lands』が完成します。
「This Storm」の着想は、1996年末から1997年初め頃にまでさかのぼるものでした。
構想を、メタル・バンドを入れずに形にした作品です。
しかし、打ち込みからホールで録った実演へ移ると、歌の居場所は変わりました。

仮の伴奏でうまくいった声を、完成した伴奏へそのまま乗せることはできない。
ここでは、以前より高く歌えるか、長く伸ばせるかとは別の能力が問われています。
周囲の響きと強弱を受け止め、その中で自分の声がどう聞こえるかを選ぶ力です。

ハンズィは、この作品では各曲をほぼ三通りずつ完成させるほど歌い直したと、後に明かしています。
もっと強くすべきか、柔らかくすべきかが決まらず、録った後にも判断を揺さぶられました。
オーケストラの強弱の中で、声の位置を探したのです。

それでも、長い制作期間を、昔の声を失っていく時間として語ってはいません。
「This Storm」や「Dark Cloud’s Rising」では、『Nightfall』の頃に描いた気分や人物像へ戻れたと話しています。
声の強弱や表現は、より細かくなったと捉えていました。

2022年のバンドへの帰還と、2024年の再録

『The God Machine』(2022年)では、バンドの演奏が再び中心になります。
アンドレ・オルブリッチは、ギターの音を見直し、歌手がより際立つ空間を作ったと説明しました。
伴奏も変わり、歌を前へ出す条件が整えられていたのです。

この時期に語った自身の歩みには、長く続けた歌のレッスンもあります。
ハンズィが恵まれていたと考えるのは、十三、十四年ほど学んだ教師が、声の個性を別のものへ変えようとしなかったことでした。
持ち味を残して声を守り、歌える幅を広げてきました。

2025年北米ツアー時のハンズィ・キアシュ/写真:Karyn Burleigh
2025年北米ツアー時のハンズィ・キアシュ/写真:Karyn Burleigh。
画像出典:画像掲載元

2024年の『Somewhere Far Beyond Revisited』は、1992年のアルバムを、2022~2023年に録り直したものです。
出発点は記念公演のリハーサルでした。
そこでの録音に満足できず、作品全体の再録へ進みます。
ハンズィが目指したのは、大きく作り替えることより、若さで行っていたことを経験で補いながら、当時の意欲を取り戻すことでした。

2025年の北米ツアーでも、このアルバムを全曲演奏しています。
ハンズィは、長く一緒に育ってきた曲だから自然に取り組めると話す一方、『A Night at the Opera』の全曲演奏なら、さらに大きな挑戦になると区別しました。
昔の作品だから一律に易しい、あるいは年を重ねたから一律に難しい、という捉え方ではありません。

声を重ねて巨大な音楽を作り、その後には、大きな響きの中で声の強弱を選び直した。
ハンズィの変遷は、できることが増えるたびに、曲との関係を問い直す歩みでした。
若い頃の録音が持つ勢いも、今の歌が持つ経験も、それぞれの作品に残っています。
同じ曲を再び歌う行為さえ、過去を消すのではなく、自分の歌を確かめる機会になっているのです。

曲や伴奏に応じた声の使い分けは、ハンズィ・キアシュ(Blind Guardian)の歌い方で掘り下げています。

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