ハンズィ・キアシュ (Blind Guardian) の歌い方|荒さのある声で、緻密なメロディーを歌える理由

2019年のオーケストラ作品発表期のハンズィ・キアシュ(左)とアンドレ・オルブリッチ シンガー
2019年のオーケストラ作品発表期のハンズィ・キアシュ(左)とアンドレ・オルブリッチ

ハンズィ・キアシュの歌は、荒々しい声と、細かく作られたメロディーが同居しています。
声のざらつきが強さを伝える一方、その強さだけでは、重なり合う合唱や繊細な曲を支えきれません。
鍵になるのは、声の質感、旋律の動き、周囲の響きを一緒に扱うことです。
「Blood of the Elves」のような激しい曲から、オーケストラと向き合う歌までを見ると、力を出す場面と、力加減を変える場面がつながってきます。

ざらついた音色は、旋律を消さずに強さを残す

ハンズィ自身は、自分の声を荒さやざらつきのある声として捉え、歪んだリズム・ギターがあると歌いやすいと話しています。
ただし、激しい曲ほど自由に押し切れるわけではありません。
「Blood of the Elves」の歌の部分には厳密な型があり、メロディーと強度を両立することが課題でした。
勢いを保ち、決まった動きへ収める必要があります。

ここで分けて考えたいのは、音色の荒さと、旋律の大まかさです。
ざらつきのある声でも、歌の線まで曖昧にする必要はありません。
むしろ、きっちりした曲の動きの中に荒さが残ることで、整然とした演奏と歌手の熱が一緒に伝わります。
ハンズィの歌の迫力は、この両立から考えると分かりやすくなります。

その個性は、レッスンで消そうとしたものでもありません。
独学から始めたハンズィは、自分の特徴を残して声の幅を広げる指導を受けました。
舞台では、複雑な歌を保てる範囲でどれほど動けるかも、身につける必要があったと話しています。
激しく動くことと、歌を強く届けることを区別しています。

一人の太い声と、何本も重ねた声は別の働きをする

「And Then There Was Silence」の大きな合唱感には、多数の録音を重ねる作り方があります。
ハンズィは『A Night at the Opera』では通常でも十六ほどの声の層があったと説明しました。
一人がその場で出す声の大きさだけで、完成した録音の厚みを説明することはできません。

And Then There Was Silence|2002年録音・2017年リマスター

主旋律を引き受ける声と、その周囲を満たす声を分けると、歌の捉え方も変わります。
前へ出る一本の歌には、言葉とメロディーを進める役割がある。
重なる声には、その進行を大きな場面に変える役割がある。
同じ歌手の持ち味を含んでいても、録音の中で担う仕事は違います。

それでは、重なった歌をライブでどう表すのでしょうか。
ハンズィは、まず曲の中心となる要素を選び、その後に原曲へ近づくための要素を加えると説明しています。
スタジオ版と違う部分があっても、同じ曲としての魅力を届ける方法です。
録音したものを一つ残らず並べるより、聞き手にその曲だと伝わる核を見つける。
音の多い歌を、実際の舞台で歌うための考え方がここにあります。

一方、「The Ninth Wave」の導入では、本人の声を重ねるだけでなく、複数の合唱団が使われました。
同じ声の反復では得られない、人が集まった響きを求めたためです。
Blind Guardianの合唱が、すべてハンズィ一人の多重録音というわけでもありません。
個人の声の特徴と、合唱を組み立てる発想の両方が、あの規模を支えています。

2013年の取材に掲載されたハンズィ・キアシュのポートレート
2013年の取材に掲載されたハンズィ・キアシュのポートレート。
画像出典:画像掲載元

オーケストラの前では、荒さの量を考え直す

『Legacy of the Dark Lands』では、打ち込みの伴奏で歌えていた部分も、実際に録ると同じようにはいきませんでした。
ホールの響きを含む演奏には、歌に合わせて簡単には動かせない性格があります。
難しかったのは、歪みをあまり必要としない伴奏と、自分らしい粗さを持つ歌との釣り合いでした。

ざらつきを強く出せば、いつも歌がよく伝わるわけではない。
しかし、滑らかにそろえるだけでも、ハンズィが歌う意味は薄くなってしまう。
この間で、どの程度の強さと粗さを残すかを探したことが、この作品の歌唱の面白さです。
普段の持ち味を捨てるのではなく、伴奏の性格に合わせて、持ち味の出し方を変えています。

「This Storm」や「Dark Cloud’s Rising」では、以前から描いていた人物像や気分を保ちながら、強弱や表現を細かくできたと本人は話しています。
曲の世界に入り込むことと、歌声をずっと同じ強さで押し出すことは別です。
同じ人物を表していても、声の出方には幅を持たせられるのです。

声に合う言葉を、メロディーの中から探す

ハンズィの曲作りでは、歌詞より先に音楽とメロディーが生まれます。
歌の線や重なりを自由に歌いながら、その場に浮かぶ言葉も試していく。
「Twilight of the Gods」は、そうした歌い方の中から、後に使う言葉が現れた例でした。
最初に完成した文章を旋律へ押し込むだけの作り方ではありません。

アンドレとのやり取りにも、その特徴が出ています。
仮の歌詞に響きのよい言葉があると、正式な歌詞へ直す際にも、その言葉を残してほしいと意見がぶつかることがありました。
「Blood of the Elves」のサビでも、歌詞を重視するハンズィと、すでにできたリズムやメロディーを保ちたいアンドレの間で議論が起きています。

言葉は意味を伝えるだけでなく、旋律の中で音として働きます。
物語の情報を増やすほど、歌として口に残るよさが増すとは限らない。
ハンズィの歌では、その両方を確かめる作業が、声を出す前の段階から続いています。
複雑な背景を持つ曲でも、歌う言葉は、メロディーの流れの中で選び直されているのです。

静かな曲では、声を支えるものを変える

「Miracle Machine」を作り始めたとき、ハンズィはベースで基本の和音を鳴らし、それに合わせて歌っていました。
そのままベースを中心にした曲にする案も出ましたが、最終的にはピアノが心地よいと感じています。
歌いやすい伴奏を探した一例です。

静かな歌に必要なことは、激しい曲の音量を下げることだけではありません。
声の周囲に何が鳴るかで、歌手自身の歌いやすさも、聞き手が言葉へ向ける注意も変わります。
ハンズィが伴奏を選び直した過程には、声をどう出すかと、声を何で支えるかを一緒に考える姿勢が見えます。

2025年北米ツアーの取材時のハンズィ・キアシュ/写真:Karyn Burleigh
2025年北米ツアーの取材時のハンズィ・キアシュ/写真:Karyn Burleigh。
画像出典:画像掲載元

ライブの「The Bard’s Song – In the Forest」では、客席の歌も大きな存在です。
ハンズィ自身も、この合唱を特別な瞬間と捉えています。

2025年の北米ツアーの終盤には、疲れているほど、観客の力が大きくなるとも話しました。
歌手が一方的に力を出すだけの場所ではない。
客席から返ってくる熱が、次の歌を支えているのです。

The Bard’s Song – In the Forest|2025年・Summer Breeze

ハンズィの歌い方を支えているのは、荒い音色をいつも最大にする発想ではありません。
厳密な旋律の中に荒さを残す。
一本の歌と、重なった歌の役割を分ける。
オーケストラの響きや、ピアノの伴奏に合わせて、声の置き方を選ぶ。
その細かな選択があるから、力強い声が、合唱の壮大さにも、近くで語るような歌にもつながっていくのです。

声を重ねる録音から、オーケストラや再録へ進んだ歩みは、ハンズィ・キアシュ(Blind Guardian)の歌唱変遷でたどっています。

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