歌いたいメロディーを作った本人が、その曲を歌う難しさに悩む。
将の歩みには、そんな場面が何度も出てきます。
アリス九號.のボーカルとして歌を磨き、DIAWOLFでは激しさへ踏み込み、現在はVerde/で新しい仲間と演奏する。
活動の名前が変わるたびに別人になったというより、理想の歌に追いつくための課題が変わってきた歌手です。
2006年、上手に歌おうとする力をほどく
将が歌うアリス九號.は、2004年に活動を始めた五人組です。
バンド名の表記をAlice Nine、A9へと変え、2019年にはアリス九號.へ戻りました。
その長い活動の中で、歌はメンバーが持ち寄る曲と一緒に育っていきます。
2006年の『絶景色』で、将は、それまで上手く歌おうとして力が入りすぎていたことを振り返っています。
この作品では、音を楽しみ、生まれる感情を声にすることへ意識を向けました。
ヒロトの「FANTASY」や「光環」の難しさにも応えながら、感情を声にする方法を探っていました。
力を抜くという言葉だけでは、この時期の変化を説明しきれません。
作曲者が思い描く歌を実現しようとする緊張感は残りながら、録音に向かう気持ちを変えていたからです。
完成度を気にするあまり、曲に反応する自分を小さくしない。
その課題は、後の作品にもつながっていきます。
2011年、昔の曲をライブの経験で歌い直す
2011年の「虹の雪」には、「闇に散る桜」のセルフカバーが収められました。
将は、最初の制作では衝動が先に立って整理できなかった部分を、より伝わる形へ進められたと振り返っています。
再録では語りも加わりました。
長くライブで扱ってきた曲だったため、本人は録音をスムーズに感じていた一方、演奏側は速くなったテンポの難しさも語っています。
初期の衝動を消して大人しくするのではなく、ステージで育った勢いを、もう一度作品へ戻した歌い直しでした。
2012〜2014年、言葉を置く技術と、自分で録る選択
2012年の『“9”』では、岡野ハジメとの制作が歌の捉え方を変えました。
最後に「ハロー、ワールド」を録ったとき、将は約三週間の制作中の成長を実感しています。
変わったのは、旋律を理解し、言葉を置く意識でした。
同じ声でも、言葉とメロディーの関係を整えることで、伝わり方を変えられるようになっていたのです。
2013年の「Daybreak」では、以前教わった韻の考え方に向き合い直しました。
将は、母音や子音の位置を揃え、言いたいことと覚えやすい響きを両立させようとしています。
昔は応えられなかった注文が、自分の表現に使える技術へ変わっていました。
録音する場所にも選択肢が増えます。
2014年の『Supernova』では、歌の多くを自宅で録りました。
「秘密」から始まった流れで、スタジオ録音の「shooting star」と、自宅録音の「Affection」を使い分けています。
良い歌を残せる環境を、自分でも選ぶようになった時期です。
2015年、DIAWOLFで激しい音楽への衝動を開く
2015年には、虎とDIAWOLFを始めます。
ここでの名義はSHOW OHARAです。
将にとって、激しい音楽は突然見つけた別の趣味ではありませんでした。
最初に組んだバンドはSlipknotのコピーから入り、アリス九號.以前にもヘヴィな歌を経験しています。
DIAWOLFは、十代の頃に自分を夢中にさせた音楽へ、改めて向き合う場所になりました。
最初のEP『Rebellion』では、その衝動に電子音を組み合わせます。
表題曲は将が持ち込んだ曲を先に仕上げ、虎のギターとDJのアレンジを交えて形にしました。
「Heavenly Dark」では、ゴシック・メタルとダブステップを組み合わせる発想も出てきます。
歌の周囲にある音が変われば、声を置く景色も変わる。
バンドで培ったメロディーの感覚を、さらに重い演奏の中へ持ち出した試みです。
同年の『Turbulence』では、ライブを経て、まず二人でバンドとして成立する形を作り、電子音を加える方法へ進みます。
将と虎が象徴的な曲として挙げた「Fallen」は、サビをメロディアスに保ちながら、周囲の展開を崩す自由がある曲でした。
歌の旋律を際立たせるために、その手前で思い切った展開を作れるようになったのです。
原点を訪ね直し、2022年には終わりを意識して歌う
2016年の『LIGHT AND DARKNESS』では、裏声を多く使う歌も生まれます。
激しさへ進む一方で、演奏に溶け込む声も選んでいました。
A9での活動も続いていました。
2016年の結成十二周年公演で初期曲を演奏したことは、翌年の「MEMENTO」へつながります。
将が取り戻そうとしたのは、昔の作品に似せることではなく、過去作と比較せずに曲を生み出していた感覚でした。
新作のたびに前作との差を作ろうとすると、かえって過去に縛られる。
初期の歌を現在のステージで扱ったことが、その制作の循環を見直すきっかけになりました。

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2019年の「革命開花」では、歌詞の書き方にも原点を求めます。
将は、活動の中で角が取れていった言葉を見直し、初期に目指した文学的な表現へ戻ろうとしました。
その背景には、歌舞伎に触れ、自分が書いてきた無常観との近さを感じた出来事もあります。
洗練させてきたものを、そのまま一方向に磨くのではない。
一度離れた表現を、今の自分で選び直す時期でもありました。
2022年の『GRACE』になると、歌が向かう先に切実な変化が生まれます。
将は、バンドが終わるかもしれないという思いと向き合いながら、言葉を書いていました。
「Living Dead」には、歌の旋律に乗せるだけでなく、語りで意思を残す場面があります。
一方、後半の「Roar」や「Farewell Flowers」では、長く活動を支えたファンへの思いが強くなっていく。
終わりを意識することが、聴き手へ何を伝えるかという問いを、さらに切実にしたのです。
Verde/で、歌いたい旋律と仲間にもう一度鍛えられる
2023年9月の活動凍結を経て、将はVerde/を始めます。
当初は裏方へ回ることも考えていましたが、周囲の後押しを受けて歌い続ける道を選びました。
2024年の「Kafka/」では、自分が歌いたい美しいメロディーを優先した結果、本人にとっても難しい歌になっています。
自分で作るから楽に歌える、というわけではない。
ソロでも、理想の旋律が歌い手に課題を突きつけていました。

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2025年の『OBSIDIAN/』では、優介ら、共に演奏する仲間の力を生かす方向が明確になります。
「Burning/」は、最初と最後で旋律の流れをひっくり返す発想から生まれました。
この仲間だから生まれる歌へ。
ソロ活動が、バンドとしての応酬を強めていきます。
2026年、増えたシャウトやグロウルについて、将は初期の激しいバンド経験を挙げています。
そうした声の方が自然に出せる感覚があった一方、KEN'ICHIからは歌のリズムを指摘されることもある。
激しい声を出すことと、精密な演奏の中で歌うことは、今も別々に磨く課題なのです。
同じ年、初期のVerde/曲「Red/」や「Hope/」を歌う気持ちも変わりました。
当初はバンドへの未練を抱え、自分を説得する面があった。
現在の作品への自信ができたことで、その重さを下ろし、伸びやかに歌えるようになったと振り返っています。
新しい曲を手にしたことが、すでにあった曲の歌い方にも返ってきたのです。
将の変化は、昔より強い声を出せるようになった、という一本の線には収まりません。
曲に素直に反応すること、言葉を旋律へ置くこと、激しい音の中で歌うこと。
そして、長年の経験を持っていても、仲間から歌を指摘される場所へ身を置くこと。
美しいメロディーを追い続ける姿勢が変わらないからこそ、そのメロディーに応える歌い手として、何度も学び直しているのです。
発声や曲ごとの声の使い方は、将(アリス九號./A9/ALICE NINE.)の歌い方で詳しく掘り下げています。

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