マイケル・ブーブレの歌い方|滑らかな声に、強さと親密さを宿す方法

マイケル・ブーブレ、NBC特番『Bublé!』(2019年、写真:Chris Haston/NBC) シンガー
マイケル・ブーブレ、NBC特番『Bublé!』(2019年、写真:Chris Haston/NBC)

マイケル・ブーブレの歌声には、滑らかさと大きな力が共にあります。
本人が大切にする心地よい音色と、ライブの音響スタッフが語る豊かな声量。
その両方を知ると、あの歌を、いつも小さな声でそっと歌うスタイルと考えるだけでは捉えきれなくなります。

さらに面白いのは、曲ごとに歌う相手や場面を思い描いていることです。
大きな映画の主人公として歌うのか、家族に向けた思いを声へ残すのか。
声の出し方を支える力と、その声をどんな気持ちで使うかを、具体的な歌から見ていきます。

滑らかな声を、弱い声と取り違えない

ブーブレはクルーニングを、滑らかで心地よい音色で歌うこととして説明しています。
古い恋愛歌だけに限らず、エルヴィス・プレスリーやシールの歌にも通じるものと捉えていました。
ジャンルの名前より、声がどんな感触で聴き手へ届くかを見ているのです。

一方、2019年のツアーで本人のモニター音響を担当したマーク・デプラットは、ブーブレを大きな声を持つ歌手として説明しています。
自分の声を耳で聴くだけでなく、体でも感じられるよう、イヤーモニターに加えて床置きのスピーカーも使っていました。
柔らかな印象と、発する声の力は分けて考える必要があります。

客席側の音を担当するクレイグ・ダベットも、ブーブレの声量とマイクの動きへの対応を語っています。
マイクとの距離によって変わる声の音色を、音響側で調整する。
会場へ届く滑らかさは、本人の歌唱を、その動きごと受け止める仕事にも支えられています。

本人が聴く音についても、大きな音と小さな音の差を圧縮しすぎることを好まず、気づけば指摘するとスタッフは話しています。
イヤーモニターを外したときにも、背後の生演奏との間に違和感がないようにする。
力強いバンドの音を感じながら歌えることが、本人の求める環境でした。

客席側のステージで歌うマイケル・ブーブレ(2019年4月3日オークランド公演、写真:Jay Blakesberg)
客席側のステージで歌うマイケル・ブーブレ(2019年4月3日オークランド公演、写真:Jay Blakesberg)。
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母音と声の揺れに、憧れの歌手を聴いていた

本人が先人について話すときは、声の細かな違いにも目を向けています。
ディーン・マーティンでは声の低さや速い揺れに、シナトラでは母音を中心に歌うことに言及しました。
ビブラートは伸ばした声に生まれる揺れ、母音は言葉の中で長く響かせられる音です。

ただし、それぞれの特徴をそのまま全曲へ当てはめている、という意味ではありません。
ブーブレは特定の一人の複製になることを望まず、ボビー・ダーリンの、バラードからスウィングまで歌える幅にもひかれていました。
滑らかな声という共通点の中に、曲を変えられる余地を求めています。

音色を似せることだけに注目すると、なぜその歌をそのように歌うのかが抜け落ちます。
ブーブレの場合、声の表情を決める前に、歌の言葉を誰へ向けるのかという問いがあるのです。

恋愛歌を、自分が信じられる言葉にする

2003年の「Put Your Head on My Shoulder」の録音では、作者のポール・アンカが見守る中、昔好きだった相手を思い浮かべて歌いました。
目を閉じて、その人へ話しかけるつもりになる。
自分が言葉を信じていなければ伝わらないという、俳優にも通じる取り組みでした。

長く歌ってきたスタンダードでも、歌い慣れたことが安心になるだけではありません。
言葉を考えず、機械的に歌う危険もあります。
相手を思い描き直すことは、知っている旋律をなぞる歌から、その場で言葉を伝える歌へ戻る方法でした。

逆に、言葉を自分のものとして信じられない曲は、すぐには選びません。
2013年に「My Way」を歌わないと話したのは、人生を振り返るその歌に、自分の経験がまだ追いついていないと考えたからです。
音程を取れることと、その人物として声を出せることは、本人にとって別の問題でした。

映画のような歌と、写真へ向けた歌

「Feeling Good」の構想を説明するとき、ブーブレはジェームズ・ボンドの映画を挙げています。
ニーナ・シモンの歌にひかれ、自分なら映画的な世界へ広げたいと考え、そのイメージをフォスターへ伝えました。
編曲を受け取ってから表情を考えるだけでなく、どんな場面で歌う声なのかを、制作の出発点に置いていたのです。

対照的なのが「God Only Knows」です。
照明を落とし、子どもたちの写真を見て一度通して歌い、弦楽四重奏は後から加えました。
本人が気に入っていたのは、声に笑顔や感情が残っていることでした。

映画の主人公になる歌と、子どもの写真へ向かう歌。
声を動かす想像の距離が違います。

マイケル・ブーブレとバンド、NBC特番『Bublé!』(2019年、写真:Chris Haston/NBC)
マイケル・ブーブレとバンド、NBC特番『Bublé!』(2019年、写真:Chris Haston/NBC)。
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同じ曲でも、別の声の居場所を探す

カバー曲で先行する名唱があるときも、ブーブレは自分の形を探します。
『Higher』の「Make You Feel My Love」では、アデルの歌があることに迷いましたが、レニー・クラヴィッツの曲から連想した、1960年代のソウルのような弦の響きを手掛かりにしました。
既存の歌唱へ近づけるのでなく、自分が歌いたい音の景色を探したのです。

「My Valentine」では、作者のポール・マッカートニーと制作することで、歌に新たな細部を見つけています。
本人は、ポールが現場の空気を明るくし、歌から豊かな表情を引き出したと振り返りました。

一人で歌の世界へ入り込む時間も、他人の提案を受けて声を変える時間も必要になる。
滑らかな声を維持することと、毎回同じ表現へ落ち着くことは、同じではありません。

大きな編成の中でも、一人へ届く歌にする

2013年の公演では、有線のマイクを使い、長いケーブルを引く動きもステージ上の個性にしていました。
その一方で、客席の後方に設けた小さなステージへ出て歌う場面では、無線のマイクへ持ち替えています。
近くの観客だけに向けて歌うのではなく、大きな会場の中で、歌う相手との距離を変えていました。

2019年のテレビ特番では、ブーブレはカメラのレンズへ直接歌い、物語を届けたいと説明しています。
演奏を細かい編集で飾り立てるより、見る人が歌に向き合える時間を残す。
大きなオーケストラを伴う場でも、親密さは声量の小ささだけで作るものではありませんでした。

マイケル・ブーブレの歌い方を特徴づけるのは、滑らかな音色を、大きな表現にも近い語りかけにも使えることです。
先人の声に学びながら、歌う相手や場面を具体的に思い描く。
整った声の中に人の気配があるのは、そんな選択を重ねているからでしょう。

録音や制作への向き合い方が変わってきた過程は、マイケル・ブーブレの歌唱変遷でたどっています。

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