レイ(RAYE)の歌い方は、大きく張る高音だけを追うと捉えきれません。
言葉を目立たせるために音の動きを減らすこともあれば、短いフレーズに声を何層も重ねることもあります。
声を伸ばす、細かく動かす、語りに近づける。
その選択が曲の物語をどう変えるのか、具体的な歌を通して見ていきます。
2023年、ロイヤル・アルバート・ホール公演。
「Oscar Winning Tears.」の高音は、本人にとっても難しい
RAYEは「Oscar Winning Tears.」を歌うことが好きである一方、毎晩のように歌うと、ある高音に来るたび身構えるとも話しています。
壮大さは保ちたいが、無理を重ねる出し方にはしたくない。
そのため、本人の感覚として声を置く場所を変えられないか、探っていました。
堂々と届く高音の裏に、歌い続けるための試行錯誤があるのです。
クリスティーナ・アギレラは、RAYEのビブラートと音の選び方を高く評価しています。
RAYE自身も、アギレラの『バーレスク』での細かな音の動きを、繰り返し練習したと明かしました。
大きく声を出すことと、一音ずつを自在につなぐこと。
その両方を磨いてきた歌い手です。
ビブラートは伸ばす声を揺らす表現で、ランは一つの言葉や母音の中で複数の音を素早くたどる歌い回しです。
長く保つ場面と、短く音を切り替える場面では、聴き手に残る動きが違います。
「Oscar Winning Tears.」でも、最高音だけを切り取るより、そこへ至る動きと、伸ばした後の収め方を一続きとして追うと、歌の大きさが見えてきます。
「Escapism.」では、あえて旋律を動かさない
「Escapism.」では、RAYEは情景をはっきり浮かばせるため、言葉を旋律より優先しました。
語るような箇所をほぼ一つの音に寄せ、細かな言葉の流れを前へ出しています。
その後、サビで旋律と感情の柔らかさを差し出す。
声の動きを抑えた部分があるから、歌い開く場面にも役割が生まれます。
重ねる声も、豊かなら多いほどよいとは考えていませんでした。
ある箇所には三声、四声のハーモニーを作ったものの、荒々しさが薄まり、柔らかくなりすぎるため減らしています。
必要な言葉をむき出しにするため、きれいに整える要素を取り除く選択でした。
この曲の歌い方を考えるときは、音程の幅と、表現の強さを分けて捉えると分かりやすくなります。
音を上下させなくても、言葉の数や切れ目によって勢いは作れる。
旋律をあまり動かさない部分からサビへ移ることで、声の使い方そのものが場面の切り替えになります。
伴奏が止まった後も、声で次の展開を作る
2024年6月のiHeartRadio LIVEで歌った「The Thrill Is Gone.」では、いったん伴奏を離れ、アカペラで高い声を聴かせた後、再びバンドが入ると歌の動きを増やして締めくくりました。
終わったと思わせて、もう一段展開する。
その場面では、高い音を出すことが、曲の終わり方を演出する働きも持っています。
「Five Star Hotels.」へ移る際には、残響を強めた即興の歌も使っていました。
声の近さと、空間に残る響きを変えながら次の曲へ導く。
歌い回しと音響が組み合わさる例です。
録音や配信で聴こえる響きの長さを、すべて本人の息や声量だけで説明することはできません。
伴奏があるときと、声だけになったときでは、同じ一音の目立ち方も変わります。
どこで声を残し、どこから楽器と一緒に進むのか。
RAYEのライブでは、一曲の中の編成の変化も、歌い方を理解する手掛かりになります。

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重ねた歌を、一人の強い声のようにまとめる
「WHERE IS MY HUSBAND!」の録音では、最初に置いた主旋律の声がうまく収まらず、複数の歌を重ねる方向を選びました。
マイク・サバスの説明では、ヴァースは四つ、サビは八つのボーカルを使い、左右への配置を調整しています。
広く包み込む響きと、主役の歌としてのまとまりを両立させようとしたのです。
複雑なブリッジは、サバスが席を外している間に、RAYEとエンジニアのアレックス・ロビンソンが形にしました。
管楽器も歌の細かな音の動きに合わせています。
速く歌えるという能力を、そのまま裸で聴かせるのではなく、別の声や楽器と重ねて、短い箇所に密度を作っています。
本人は終盤の歌についても、舞台で試すうちに、母音だけで歌う形では物足りなくなり、言葉を加えたと説明しています。
響きの厚さに、言葉の忙しさも足す選択でした。
ここでの厚さは、一回の歌唱で同時に何種類もの声を出しているという意味ではありません。
別々に歌った声を録音上で組み合わせています。
一声の強さと、重ね方による迫力を分けると、RAYEが歌い手としても作り手としても声を扱っていることが分かります。
大きく歌った先に、小さな声の動きを残す
2026年の「Nightingale Lane.」は、失恋の記憶を語りながら、終盤でオペラを思わせる大きな盛り上がりに達し、そこから小さな声の動きへ戻る曲として評されています。
頂点に達して終わるだけでなく、膨らませた感情をどう収めるかも聴きどころです。
同じアルバムにも、電子的な響きを取り込む「Life Boat.」、ジャズに近い艶を持つ「I Hate the Way I Look Today.」など、異なる声の見せ方があります。
「Nightingale Lane.」の大きな歌唱を、どの曲にも当てはめる必要はありません。
声をどの音楽の中へ置くかによって、表に出す性格を変えています。
そうした選択は、気分に任せた一発の歌だけで決まるわけでもありません。
「Genesis.」で歌を何度も録り直した理由について、本人は、求める音と感触へのこだわりを挙げています。
曲に必要な気持ちまで、声に残そうとしていたのです。
一人で歌い切るだけでなく、客席の声も動かす
Tiny Desk Concertの「Buss It Down.」では、観客へ短い歌の指導をしてから、呼びかけと応答を始めています。
歌詞のない音で旋律を動かすスキャットや、ゴスペル、ブルースの節回しを交えた公演の終わりに、客席も歌の一部にしたのでした。
合唱とのやり取りは、舞台上だけに限りません。
2024年のMTV EMAで共演したFlames Collectiveのメンバーは、本番前のウォームアップにRAYEが加わり、即興の合唱になった場面を振り返っています。
仲間の声を聴き、一緒に歌う時間も、彼女の活動の中にあります。
RAYEの歌い方を通して見えてくるのは、声の持つ選択肢を、場面ごとに使う姿勢です。
高音を張る曲ではその負担にも向き合い、言葉を前へ出す曲では音の動きやハーモニーを減らす。
一方で、声を重ね、楽器や客席と掛け合うときには、響きを大きく広げます。
迫力があるのは、いつも同じ強さで歌うからではなく、その曲のどこに強さを置くかを選んでいるからなのです。
こうした歌の選択を広げてきた歩みは、レイ(RAYE)の歌唱変遷でたどっています。

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