トゥエンティ・ワン・パイロッツのタイラー・ジョセフは、ラップ、歌、叫びを一つの曲の中で行き来するシンガーです。
その歩みには、声を張ることから少し離れたとき、新しい歌い方が見つかった転機があります。
自宅で録った声を残した初期から、裏声を積極的に生かした『Trench』、慣れた旋律の動きを崩した『Breach』へ。
表現の幅が広がった後も、いつもの自分なら選ばない声を探してきました。
自宅の録音から始まった、歌とラップの往復
2012年の時点で、タイラーはジャンルを問わずメロディに惹かれると話しています。
オペラ歌手アンドレア・ボチェッリの歌を取り込んでラップした「Time to Say Goodbye」も、旋律と歌詞に引きつけられたことが出発点でした。
歌とラップは別々の看板というより、伝えたいことへ近づくための選択肢だったのです。
当時の録音場所は自宅の地下室。
後に本人が振り返ったところでは、歌の録り方を覚えている最中で、配管を流れる生活音まで入った録音もありました。
録り直したい気持ちがある一方、その時代の自分を残す意味も感じている。
初期の声は、後から修正すべき未完成品とだけ捉えられていたわけではありません。
2013年の『Vessel』を象徴する「Ode to Sleep」では、電子音楽、ポップ、ヒップホップが一曲の中で移り変わります。
こうした作りには、自分で機材を買い、録音を学んできたタイラーの背景もあります。
一つの歌唱法に曲を合わせるより、曲が必要とするところで声の役割を変える。
後にも残る特徴が、すでに作品の中心にありました。
2013年、大きな音になっても自宅で録った歌を残す
『Vessel』では、グレッグ・ウェルズらと本格的なスタジオ制作に入りました。
ジョシュ・ダンは、自宅なら音も方向も自分たちで決められたため、初めは不安だったと説明しています。
しかし、ウェルズは既存のプログラミングだけでなく、地下室で録った歌のテイクも一部残しました。
生のドラムを捉え、音を大きく豊かにしながら、歌の出発点まで消してしまわない制作だったのです。
「Car Radio」は、その時期の声と言葉の関係をよく示します。
カーラジオを盗まれ、沈黙の中で考え事が巡る状況を、少ないピアノの音に乗せたラップで描く曲です。
後の大きな合唱へつながるバンドにも、こうして一人の思考を追わせる歌がありました。
2015〜2016年、内面の声を観客と交わす
『Blurryface』は、ツアー中に得た刺激を多く含む作品でした。
ジョシュによれば、オランダで観たレゲエバンドも曲作りのきっかけになっています。
同時に、レーベルやラジオ、以前からのファンにどう受け取られるかという不安が強まり、その思いを人格化したのがブラーリーフェイスでした。
音の種類が広がるほど、歌う本人の迷いも作品の中で具体的な姿を持ち始めます。
その内面の歌が、ライブでは客席とのやり取りになります。
2016年3月9日の新木場STUDIO COAST公演では、「Stressed Out」のサビでタイラーと観客が掛け合い、「Holding On to You」では本人が客席の中に立って歌いました。
一人の不安から生まれた言葉を、大勢が同じ場で返してくる。
録音での表現と並行して、歌を受け渡す規模も変わっていったのです。

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2018年、声をいたわって試した裏声が曲に残る
『Trench』の制作では、歌い方そのものが旋律を変えるきっかけになりました。
長いツアーで声が疲れていたタイラーは、声をいたわるつもりで裏声を使っていたと話しています。
後で本格的に歌う段階になっても、最初の歌い方のほうが曲に合っていたため、その表現を残したのです。
張らない声が、曲の中心になりました。
「My Blood」のサビは、その裏声を確かめやすい一曲です。
支えを失った相手に寄り添う内容を、軽く高い声で歌う。
ディスコを思わせるリズムの上で、強く呼びかける言葉と、裏声の軽い質感が組み合わされています。
一方で、『Trench』から叫ぶ表現が消えたわけではありません。
「Jumpsuit」は、ツアーのリハーサルでジョシュのドラムに合わせて弾いたベースから生まれた曲です。
タイラーは、成功による自信と自己不信が同じ勢いで増えたことを曲の背景として語っています。
裏声へ全面的に移行した時期と見るより、重い演奏とシャウトの隣に、新たな柔らかさを置けるようになった時期と捉えると分かりやすいでしょう。
2021〜2022年、自分の内側から、ほかの声との制作へ
2021年の『Scaled and Icy』では、閉塞した日常へさらに暗さを加えることを避け、別の明るさを作ろうとしました。
「Shy Away」は、弟に曲作りを見せるうち、音楽へ進もうとする彼を励ます歌になった作品です。
本人も、内向的な歌が多い中で、相手へ向かう曲と説明しています。
翌年の『MTV Unplugged』では、慣れた演奏の仕方からも離れました。
普段は録音済みのトラックに合わせ、歌や客席との交流へ集中するところを、この公演ではその場で各パートを演奏し、ループさせながら曲を組み立てています。
録音で作った曲を、声も含めて舞台で組み立て直す試みでした。

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「Stressed Out」にはジョシュのバックボーカルも加わります。
タイラーは、二人で歌の練習をし、失敗する夢について電話したことも明かしていました。
すでに何度も歌った代表曲を、相手の声と一緒に練習し直す。
成功した形を保つだけでなく、二人でできる表現を増やす機会になったのです。
2024〜2025年、声の幅を使い、慣れた旋律からも離れる
2024年の『Clancy』で最初に完成したのは「Overcompensate」でした。
タイラーは、この曲をほかの収録曲の音を判断する基準にしたと話しています。
一方、「Next Semester」も、作曲の出発点はウクレレでした。
曲を生んだ小さな楽器の感触と、完成した歌の勢いを同じものに固定していません。
同じ作品には、「Vignette」の裏声によるサビとラップ、妻へ向けた「The Craving (Jenna’s Version)」の飾りを抑えた歌唱が並びます。
『Trench』で広がった柔らかな高音も、初期からの言葉を刻む声も、今の曲の中で使い直している。
過去の歌い方を一つずつ捨てて進む、という変化ではありません。
2025年の『Breach』に収めた「The Contract」では、その慣れた歌い回しにも手を入れました。
タイラーは、コードに合わせて自然に出てくる旋律が、すでに使ったもののように感じられたと説明しています。
そこでサビでは、もっと早く高いところへ跳び、戻ってくる動きを試しました。
以前の自分なら選ばなかった旋律へ、意識して歌を動かしたのです。
同年の本人は、会場によって歌う感覚が変わることも話しています。
小さな会場では目の前の顔が言葉へ重みを与え、アリーナでは何千人もの人が同じ一節を選んで歌う。
大きな会場では、伝えたいことを明確にする必要がある。
声を磨くことと、その声を誰へ届けるかを考えることが、今も結びついています。
2026年8月のAll Points Eastでは、「Robot Voices」にエミ・グレースを迎え、終盤に「Let It Be」をつないで観客の合唱を引き出しました。
その後も、ステージで歌を組み替える試みは続いています。
タイラーの変遷を貫くのは、残す声と変える声を、その都度選び直す姿勢です。
地下室のテイクは残す。
試しに歌った裏声も、曲に合えば残す。
けれど、慣れた旋律には別の動きを試す。
叫びと柔らかな歌を両方持つ現在の声には、その積み重ねがあります。
裏声やラップ、重唱を曲ごとに掘り下げたタイラー・ジョセフ(twenty one pilots)の歌い方もあわせてどうぞ。

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