タイラー・ジョセフの歌い方|裏声、ラップ、叫びで曲の表情を変える

2022年のMTV Unplugged。右がタイラー・ジョセフ、左がジョシュ・ダン(写真:Matt Winkelmeyer/Getty Images for MTV) シンガー
2022年のMTV Unplugged。右がタイラー・ジョセフ、左がジョシュ・ダン(写真:Matt Winkelmeyer/Getty Images for MTV)

「My Blood」で高い裏声を響かせる人と、「Car Radio」で言葉を追い込んでいく人が、同じタイラー・ジョセフである。
トゥエンティ・ワン・パイロッツの歌の面白さは、音域の広さ以上に、声の出し方が曲の気分を切り替えるところにあります。
声を軽くするのか、言葉の輪郭を前へ出すのか、ほかの声と厚みを作るのか。
曲ごとの選択をたどると、激しい歌と親密な歌がどうつながっているかが見えてきます。

「My Blood」の高音は、押し切る声とは違う

「My Blood」のサビで使われるのはファルセット、つまり裏声です。
太い声で高音を押し出す方向とは異なり、軽い質感で旋律を届けます。
相手を支えようとする歌詞にこの声が重なるため、励ます場面にも柔らかさが残る。
音の高さと、呼びかけの強さを同じ物差しで捉えないことが、この歌を理解する手掛かりになります。

同じ「My Blood」は、2018年のBBC Radio 1 Live Loungeではピアノ弾き語りで披露されました。
踊れるリズムを持つ録音版に対し、声と鍵盤へ焦点を絞った形です。
同じ曲でも、周りの音を変えると歌の聴きどころが変わる。
この二つの版は、声と伴奏の関係を考える際にもよい組み合わせです。

本人も『Trench』では、仮に裏声で歌っていた形のほうが曲に合い、そのまま残したと説明しています。
本番では必ず力強い声へ置き換える、という判断をしていないのです。

「Vignette」では、裏声のサビとラップが同じ曲に入ります。
高い旋律を歌う時間と、言葉を細かく刻む時間があることで、一曲の中にも表情の差が生まれる。
裏声を単なる高音対策として捉えるより、曲の途中で質感を変える方法として考えると、タイラーらしい使い方が分かります。

「Car Radio」は、旋律より先に言葉を追わせる

「Car Radio」のラップは、少ないピアノの音を背景に、ラジオを失った車内で巡る考えをたどっていきます。
伸ばした音の美しさへ耳を向けさせる歌とは、注意の集め方が違います。
次にどんな言葉が来るかを追っているうちに、考えから逃れられない時間へ引き込む。
ラップの役割が、速さを見せることだけではないと分かる例です。

初期からジョシュは、「Holding On to You」のラップと、感情的で耳に残るブリッジの組み合わせを、バンドを代表する特徴として挙げていました。
言葉を刻んだ後に、旋律として受け止められる声へ移る。
歌とラップの境目が、そのまま曲の展開を作るのです。

「Ode to Sleep」も、電子音楽からポップ、ヒップホップへと曲の様子が大きく動きます。
タイラーの歌い方は、その動きと切り離せません。
一曲を通して同じ声色を保つことより、いま言葉を急がせるのか、旋律を聴かせるのかを変えて、曲全体の起伏を作っています。

長いサビでも、音の高さとリズムは別の課題になる

「Backslide」のサビについて、タイラーは長いサビであり、そのリズムをつかむには何度か聴く必要がある、と説明しています。
続いていく言葉と旋律を一まとまりとして運び、どこで先へ進むかを感じさせる。
本人が誇りにしているのも、その長さを持ったサビの形でした。

「The Contract」では、サビの旋律が素早く高いところへ跳び、戻る動きを本人が意識して作っています。
いつもの歌いやすい動きに従わず、先に旋律の選択を変えてみる。
高低を移る速さも、声の印象を変えています。

同じステージで、ラップと裏声と静かな歌を使い分ける

2019年6月4日のブルックリン公演では、「Lane Boy」の速いラップ、「My Blood」の裏声、「Bandito」のピアノに寄り添う歌が、同じライブで披露されました。
「Nico and the Niners」のレゲエ寄りのリズムも加わり、声が担う仕事は曲ごとに変わります。
勢いを保つことと、すべてを同じ強さで歌うことが違うと分かる組み合わせです。

この公演の「Holding On to You」では、前方の観客に支えられながら歌う場面もありました。
動きの大きな見せ場と、ピアノに寄り添う「Bandito」。
同じ人の声でも、客席へ向かって歌う場面と、伴奏とともに聴かせる場面を分けて考えると、その幅をつかみやすくなります。

2019年6月4日、Barclays Centerのタイラー・ジョセフ(写真:Killian Young)
2019年6月4日、Barclays Centerのタイラー・ジョセフ(写真:Killian Young)。
画像出典:画像掲載元

大きな会場での歌を支えるのは、本人の声だけではありません。
2016年のツアーでは、声の音量差や鋭い子音を整える音響処理が組み込まれていました。
ステージ上の聴こえ方も調整され、イヤホンを片方外したときには客席の声がより入ってくるようにしています。
観客へ近づくパフォーマンスの裏にも、自分と相手の声を受け取るための環境がありました。

二人や集団の声が入ると、厚みの意味も変わる

「No Chances」では、弟とその友人たちを集めて声を録りました。
部屋の真ん中にマイクを置き、タイラーが発する言葉や叫び方を指示したといいます。
イメージしたのは、相手を圧倒する地元のスポーツ観客の力。
一人の太い声とは異なる、集団ならではの厚みです。

2022年の『MTV Unplugged』の「Stressed Out」では、鍵盤とドラムパッドを用いた演奏にジョシュのバックボーカルも加わります。
聴き慣れた曲へもう一人の声が加わると、響きの作り方も変わります。
二人で歌の練習をした、という準備の話も、その場の響きを理解する助けになります。

この公演では、各パートをその場で作り、ループさせながら演奏しています。
少人数だから音も常に薄い、とは限りません。
いま歌っている声と、繰り返される音が重なって曲が育っていく。
声の出し方に加えて、重ね方を変えることも、この二人にとっての歌い直しなのです。

叫びの勢いを、次の歌い方へつなぐ

2018年9月12日のロンドン、ブリクストン公演は「Jumpsuit」で始まり、タイラーは力強い叫びを響かせました。
続く「Levitate」では、曲を通してラップを展開しています。
叫びの迫力をそのまま保つのではなく、次の曲では言葉を刻む声へ切り替える。
激しさの質を変えることで、ステージの勢いをつないでいるのです。

本人は、小さな会場では歌う相手の顔が見えることで、一つひとつの言葉に重みが出るとも話しています。
大きな合唱を導く歌手であっても、声の行き先は具体的な人です。
激しさから静けさへ移るときも、その相手との距離が変わると考えると自然でしょう。

タイラーの声を聴くときは、「My Blood」の軽い高音と、「Car Radio」の思考を運ぶラップを行き来してみると、違いがよく分かります。
さらに「Backslide」のサビの長さや、『MTV Unplugged』の重唱へ目を向ける。
声を張る強さ、言葉を運ぶ細かさ、声を重ねる厚みを別々に捉えることで、一曲の中で表情が急に変わる理由も見えてきます。

初期の録音から裏声の採用、旋律の選び直しまでの歩みは、タイラー・ジョセフ(twenty one pilots)の歌唱変遷でたどっています。

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