KEIKOは「夕闇のうた」の低い部分で、声を明るくする意識を持って歌っています。
言葉が伴奏へ埋もれないように、得意な低音を調整する。
この選択に、KEIKOの歌い方の面白さがあります。
重厚な響きが必要な曲もあれば、響きを浅くしたい曲もある。
声の芯を弱めることや、高音で力を加えすぎないことが、表情につながる場合もあります。
特徴的な低音を、いつも同じ厚さで使わない人なのです。
低音を明るくする――「夕闇のうた」の言葉を届ける工夫
「夕闇のうた」は低域から高域まで広がる曲です。
言葉が隠れないように、KEIKOは譜面へ明るさを意識するメモを入れ、少し大げさに感じるくらい試しました。
それでも聴き返すと、自然な程度に収まることがあったそうです。
低い音であることと、暗い声であることは、分けて考えられます。
コーラスを下から支える力を持っていても、独唱で言葉を伝える時には、周囲の音に合わせた明るさが要る。
自分の声だけを立派に響かせるのでなく、伴奏の中で何が聞こえるかまで確かめる歌い方です。
重なる声を聴く――低音は、三人の中で形が決まる
Kalafinaの「to the beginning」では、KEIKOは主にアルトを受け持ちます。
冒頭から歌い出し、三人の旋律が複雑に重なる中で、WakanaとHikaruの歌を聴きながら自分の役割を組み立てました。
主旋律に付き添うところ、違う動きをする旋律を重ねるところで、声の置き方も考える必要があります。
本人は、発音や曲中の要点を梶浦と確認して録音したと話しています。
低い声を大きく鳴らせば、それだけで曲を支えられるわけではありません。
別の声がどんな言葉をどのタイミングで歌っているかを受け取り、自分の音を重ねる。
声の強さと、相手を聴く細かさが結びついています。
2010年には、リハーサルを録音し、聴き直して、また合わせることを繰り返していると説明しています。
歌っている時の感覚と、録音から聞こえる全体を行き来する。
自分の声を鍛える練習に、他の二人と一緒になった時の確認が加わっていました。
ライブでも、勢いに任せることはしませんでした。
盛り上がる曲の途中にも、三人のハーモニーを成立させる冷静な部分が必要だと説明しています。
観客の熱気に応える力と、音の重なりへ注意を戻す力。
その切り替えがあるから、低音の存在感を全体の歌につなげられます。

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低音を浅くする――「とんぼ」で悲しさを重くしすぎない
同じKalafinaでも、「とんぼ」では別の声を選びます。
ピアノと歌の静かな曲だからと、低音を深く響かせ続けるわけではありません。
KEIKOは、悲しい言葉を必要以上に悲壮にしたくないと考え、低音を浅めに出しました。
聴き手が自分の居場所にいるような、身近な感覚を大切にしたのです。
録音では、ピアニストの櫻田泰啓と三人が互いの息づかいを感じながら、一続きで演奏しています。
前の人の歌を受けて、自分がその先を歌う。
言葉の意味だけでなく、渡された時間の流れにも声を合わせる曲でした。
重い低音に寄せすぎない選択は、この近さともつながっています。
力を抜く声にも、異なる作り方がある
ソロの「夕顔」では、眠りに入っていくような、浮遊する感覚が歌の手がかりになりました。
KEIKOは、歌うために必要な分だけの力を残すような、リラックスした歌唱を探しています。
長く培ってきた声の存在感を前へ押し出すより、聴く人の気持ちを静める方向です。
この曲は、初アルバム『Lantana』の制作で最後に録音した曲でした。
美しい旋律の曲がそろう中で、儚さや切なさに寄り添い、そのまま眠ってもらえるような短い曲も欲しいと考えたのです。
小さな声を使うのは、強く歌えないからではなく、アルバムの中に違う休息の時間を作るためでした。
一方、「Nobody Knows You」で試したのは、声の芯を抑えたウィスパーです。
大きな音のライブでは届きにくい声でも、録音なら細かな表情として残せる。
同じ静かな歌い方でも、「夕顔」が目指すくつろぎと、この曲で選んだ声の質感は、別々の着眼点です。
KEIKOは、発表する場まで含めて声を選んでいます。
言葉が先に出る声――「Alcohol」の芯を弱める
「Alcohol」では、声に芯を作りすぎることが邪魔になると感じていました。
肩の力を抜き、手をポケットに入れるような気分で歌う。
本人が求めたのは、きちんと声を立てて歌い上げる姿から離れた、気負いのない状態です。
この曲でつかんだのは、先に言葉が出て、音符がついてくる感覚でした。
旋律に言葉を押し込むより、話すような動きを先に考える。
声の厚みを示すことより、その人が何を言っているかが前へ出ます。
「夜の嘘と」では、曲のキーも少し下げました。
歌の中の女性の内面を、無理のない優しい声で表したかったからです。
高い音を力で押して歌うことと、その人物らしく聞こえることが一致しない時、歌いやすい高さへ整える。
声の使い分けは、録音中の強弱だけでなく、歌う前の設定にもあります。
ただし、優しく歌うだけでは十分でもありません。
「Close to you」では、声が弱すぎると言葉が届かない難しさを感じました。
山場が少ない曲に、穏やかなまま表情をつける。
前作の頃から一年置いて録音した曲です。
「キライ。」の台詞にも、自然に話す難しさがありました。
最初は抵抗を感じたものの、録音では、歌詞を歌う部分と大きく構えを変えずに話せたといいます。
歌声と台詞を別々の見せ場にするより、言葉に違和感を残さないことを大切にしました。
音程のある部分でもない部分でも、その人物の声として聞こえることが目標なのです。

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高音で押し通さない――曲に必要な強さを残す
「夕闇のうた」の高いところでは、地声の勢いだけで進む必要はありませんでした。
梶浦との制作では、本人の言うミックスや強めのファルセットなど、心地よく出せる声も使っています。
同じシングルの「燈命」では、サビを大きく歌い上げるのを抑えています。
出せる声を全部出すより、聴き手にどう届くかを考えた選択でした。
KEIKOは、曲を聴いて浮かぶイメージから声の響きや音色を探し、自分でも新鮮に感じる声に出会うと話しています。
先に決まった声色があって、どの曲もそこへ近づけるわけではありません。
歌う曲が変わるたびに、持っている声のどの部分を生かすかを確かめているのです。
三人の中では重なりを聴き、独唱では言葉が隠れない明るさを作る。
悲しみを重くしすぎたくない時には低音を浅くし、会話に近づけたい時には声の芯を弱める。
KEIKOの低音を魅力的にしているのは、深さを持ちながら、その深さを毎回使い切らない判断でもあります。
Kalafinaからソロ活動へ、こうした声の選択を増やした歩みは、KEIKO(Kalafina)の歌唱変遷でたどっています。

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