安田レイの歌を作るのは、声を大きく出す力だけではありません。
「Not the End」の強い歌い出しと、「It’s you」で誰かの耳元へ向ける声。
どちらも本人が意図して選んだ歌い方で、その振り幅が、力強さと親密さを一人の歌手の中で両立させています。
息をどこで吸い、言葉をどこまで明瞭にして、どの瞬間に感情を開くのか。
本人と制作側の具体的なやり取りからたどると、曲に合った声へ近づくための選択が見えてきます。
強く始めても、同じ強さで押し切らない
「Not the End」は、英語のサビから始まる曲です。
安田はそこで強く入り、Aメロではいったん落とすという組み立てを、録音前から考えていました。
声の種類と強弱を場面ごとに動かすことで、失われるものへの悲しさと、それでも生きようとする思いの両方を表しています。
本人は、息や語尾の扱いも大切にしていると話しています。
家でピアノを弾きながら声色を試し、曲の世界をどう表せるかを探す。
勢いよく声を出す部分と、その後に残る感情を作る部分を、別々に考えているわけです。
対照的なのが、2025年の「BROKEN GLASS」です。
尖った言葉を優しい声で包んでしまうと、曲の意味が変わってしまう。
そこで本人は、冒頭から平静ではいられない人物の感情を出そうとしました。
強い歌い方は、常に出てしまう癖ではなく、曲の人物に合わせて選ぶ表現にもなっています。
「歌わないで」と言われて見つけた近さ
「It’s you」の録音では、JQが「歌わないで!」と伝えたといいます。
いつものように十分な準備をして、歌うぞと構えた安田に求めたのは、マイクを誰かの耳と想像することでした。
大きな声を当てるのではなく、その人へ思いを話すように届ける。
この具体的な相手の像が、声の加減を変える手がかりになりました。
近い相手を思い描く歌は、「きみのうた」にもあります。
本人が選んだのは、もういない人へ遠くから呼びかける声より、隣にいる人へささやくような声でした。
初めは抑え、そこから抑えきれない感情が出てくる流れを作ります。
小さく歌うだけで終わらず、後半へ動くための小ささなのです。
この曲では、気持ちを切らしたくないという理由で、冒頭から最後まで通して録音したと話しています。
短く区切れば整えやすい部分があっても、本人が残したかったのは、一つの物語をたどる感情の波でした。
声の表情を考える際に、録り方もその一部になっています。

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息継ぎの位置と、言葉の輪郭を両方守る
『PRISM』の「シグナル」は、サビの言葉が多く、息を吸える場所が少ない曲でした。
安田はブレスの位置を繰り返し確認し、一語ずつが埋もれないよう、明瞭に歌うことを意識しています。
勢いのある曲を流れのまま乗り切るのではなく、呼吸と発音を準備していたことが分かります。
柔らかな曲では、逆の難しさが出ます。
「声のカケラ」を歌うときは優しいニュアンスを大切にしましたが、本人にとって、柔らかく歌うと日本語の輪郭まで曖昧になりやすい。
そこで優しさを残しながら、言葉もしっかり届ける加減を探しました。
声の当たりを和らげることと、何を言っているか分からなくすることは、同じではないのです。
英語の歌に親しんできた本人は、日本語では発音に気を取られると感情が乗りにくく、気持ちに任せると意味が伝わりにくくなると語っています。
録音を聴き返して発音を直す作業も、その間を埋める研究でした。
伸ばす声と、会話するような声
「HOME THERAPY」で熊木幸丸と組んだときには、歌とラップの間を行くような歌い回しや、会話調の掛け合いへ挑戦しました。
経験がなく、最初は熊木のまねをしようとしたところ、自分のままでよいと促されたといいます。
そこから本人なりの形を探し、新しい歌い方をつかんでいきました。
この曲の題材は、家で仲間と気持ちを話し、解きほぐす時間です。
安田は録音でも、体を動かしながら歌えたと話しています。
長い旋律を朗々と伸ばすだけでなく、言葉をやり取りする軽さを出すことが、曲の楽しさにつながっています。
一方、「Circle」を共作したYaffleは、安田の声の存在感を、強く歌うことだけで生まれるものとは捉えていません。
まず歌が中心に立ち、その周囲を音で支えられる歌手だと評価しています。
掛け合いの軽さへ進んでも、主役として歌を成立させる芯を捨てる必要はありません。

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声のトーンで、景色が開くまでを描く
「光のすみか」では、イントロやAメロのコーラスに、自然への怖さや、新しい世界へ踏み出す不安を重ねました。
そしてサビでは、広がった世界の美しさを感じる。
本人は、その流れを声のトーンで表すことを意識したと説明しています。
初めから明るく解放された声で歌えば、まだ見知らぬ場所にいる人物の緊張は薄くなります。
曲の進み方に合わせて声の表情を動かすことで、好奇心のそばにある不安も、そこから先へ出た喜びも、一つの歌に残せるのです。
「恋詩」では、歌詞の意味を調べながら、危うい恋の主人公へ近づきました。
ドラマの世界に合わせ、最初のポップな歌から、さらに情熱を強める方向へ録り方を変えています。
同じ歌詞でも、人物がどんな状況にいるかを捉え直すと、声の選択も動きます。
自分の声を使うために、毎回選び直す
同じアルバムでも、本人は「Sunny」では考え込みすぎずにまっすぐ歌い、「アシンメトリー」では声質を生かす方向を選んだと説明しています。
同じ声で、曲への入り方を変えているのです。
「through the dark」では、英語を多く使ったサビに導かれ、最後のサビの前で、自分でも驚くようなシャウトが出たと話しています。
日本語の意味を明瞭に届けようとする歌と、英語の音の流れに感情を乗せる歌。
その違いも、新しい声を見つけるきっかけになりました。
また、言葉の意味だけでなく、耳へ入る音の気持ちよさにも目を向けるようになりました。
英語と日本語の配分や韻を考えることも、歌詞を書く段階から、歌う流れを整える作業になっています。
安田レイの歌い方の面白さは、迫力のある声を持つ人が、その力を毎回同じ方向へ使わないところにあります。
息を吸う場所を決める、言葉の輪郭を守る、相手の近さを思い描く。
そうした細かな選択が、強く歌う瞬間の意味も、静かな声の説得力も作っています。
歌声と表現への向き合い方が変わってきた過程は、安田レイの歌唱変遷で紹介しています。







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