安田レイの歌声の変遷|歌い切る強さから、距離を選べる声へ

安田レイ(『Circle』発表期の取材/2023年) シンガー
安田レイ(『Circle』発表期の取材/2023年)

頑張り続けてきた安田レイが、二十代後半に考え始めたのは、引くことでした。
繊細さも残しながら、必要な瞬間には強く出る。
声の使い道が広がっていきます。

2013年のソロデビューから、「Not the End」「Circle」、2025年の「光のすみか」「BROKEN GLASS」まで。
声そのものの変化と、どんな自分を歌に出してよいかという意識の変化が、少しずつ重なってきました。

キャラクターの声から、自分が立つ舞台へ

ソロ以前、安田は元気ロケッツのLumiとして活動していました。
複数の歌い手の声から作品を作り、ステージにはホログラムが登場するプロジェクトです。
本人が客席の前で歌う経験とは異なり、ソロになってからは、録音で歌えることとライブで伝えることの違いにも向き合う必要がありました。

2013年、初めて大きな会場のステージに立ったときは、最高の姿を見せなければと身構えて、体が震えたと振り返っています。
次の機会にはリラックスを心がけ、客席の一人一人を見る余裕が生まれました。
念願のソロ活動は、夢がかなった瞬間に完成したのではなく、目の前の人へ歌う方法を覚える出発点でもあったのです。

デビュー曲「Best of my Love」では、自身の失恋の記憶を、別れた相手への感謝に重ねて歌いました。
自分の名で発表するからこそ、自分から発信したい。
カップリングの作詞にも加わり、実際に経験した感情を歌へつなげています。

一方で、もともとは録音された自分の声が好きではありませんでした。
思い描いていた透明で甘い声と違うことに、戸惑った時期があったのです。
それが2014年の『Will』発表時には、ライブでの反応や歌えることの広がりを通して、自分の声を肯定できるようになったと話しています。

安田レイ(ソロデビュー期の取材/2013年)
安田レイ(ソロデビュー期の取材/2013年)。
画像出典:画像掲載元

2015〜2017年、曲の人物に合わせて変えた距離

2015年の「恋詩」は、いきものがかりの楽曲をドラマ『美しき罠~残花繚乱~』に合わせてカバーした曲です。
最初はもっとポップに歌っていましたが、ドラマに重ねると、さらに情熱的で力強い歌唱が求められました。
危うい恋をする人物を思い描き、歌詞を理解し直しながら、その要望へ応えています。

普段の曲を聴く人が戸惑うほど、大人の人物へ踏み込んだ歌になったと本人は説明しています。
歌う対象に合わせ、声の印象も変えていく実践でした。

2016年の『PRISM』には、「Mirror」「あしたいろ」のアコースティック版も収録されました。
伴奏がシンプルになると、言葉が近く感じられ、わずかな気持ちの揺れも表へ出る。
そのため歌い方が丁寧になったといいます。
大きな会場で届ける力と、近い距離で見える細部を整える力を、並行して育てていました。

その近さが、2017年の「きみのうた」では別れの表現になります。
もう会えない人を遠くへ呼ぶのではなく、隣にいると想像して、抑えた声から気持ちがあふれる形を選びました。
祖父やかつて大切だった人との記憶を、声を張ることだけに頼らず届けようとしています。

2020年、明るい自分の外側にあった歌

2020年のアルバム『Re:I』では、本人が作詞・作曲した「赤信号」が一つの節目になります。
繰り返すコードやビートを軸にしたR&Bへ踏み込み、前向きで強い主人公だけでなく、自分をうまく制御できない人物も描きました。
それまでの安田レイ像を守ろうとする気持ちから、違う面も差し出そうとする気持ちへ動いています。

続く「through the dark」を発表した頃、本人は、常に何かを足して頑張るだけでなく、引いてもよいと考え始めたことを語りました。
曲は静かな部分から壮大な展開へ向かい、強さの内側にある繊細さも意識しています。
力を減らすことは、曲全体の熱量を捨てることとは違っていました。

明るく元気な自分が嘘だったわけでもありません。
本人は2021年、そうした面に加えて、それまで出し方の分からなかった暗い面も伝えたかったと説明しています。
聴く音楽や人との出会いが広がり、もう一つの自分を作品にする方法が見えてきたのです。

声の変化を受け入れ、共作者と新しい歌へ

2021年には「Not the End」を発表し、コラボレーションEP『It’s you』へ進みます。
JQ、TENDREらとの制作は、外から来た音を歌うだけの機会ではありませんでした。
本人が書いた「blank sky」では、TENDREの編曲に加え、その声も欲しいと自ら頼み、コーラスが加わっています。
自分の歌を包む音や声との関係まで、作品の表情になりました。

2022年には、昔より声のトーンが下がり、過去曲を歌うとキーの高さに驚くこともあると話しています。
ただし、それを否定的には受け止めていませんでした。
その時期だからこそできる表現を選ぶ、という考え方です。
生きてきた時間がにじみ、きれいに整えるだけでは終わらない声を理想としていました。

この年の「風の中」は、そうした姿勢が明るい曲にも戻ってくる一例です。
THE CHARM PARKとは、単に励ます曲にせず、個人の内側まで表す音にしたいと話し合いました。
内省的な曲を歌った経験を経て、爽快さを選ぶときにも、表したい人間の奥行きが広がっています。

安田レイ(「風の中」発表期の取材/2022年)
安田レイ(「風の中」発表期の取材/2022年)。
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「Circle」で、準備した歌の先へ出る

新たな共作は、次のアルバム『Circle』へ続きました。
「HOME THERAPY」では熊木幸丸と組み、歌とラップの間を行く表現にも挑戦しています。
本人は、JQとの制作で感じたコラボレーションの楽しさが、表現をさらに広げる確信につながったと振り返りました。

2023年の「Circle」をYaffleと作った際には、録音の進め方にも新しい刺激がありました。
準備してきた歌を完成させるだけでなく、その場の提案を受けて旋律を崩し、さらに別の歌い回しを試す。
旋律を崩すフェイクが終盤で重なり、コーラスのように育っていきました。

Yaffleは、歌い手が出した即興を受け取り、そこから曲を組み立てると説明しています。
準備した歌に加え、相手と試しながら予想外の歌を見つける楽しさが生まれました。

2024年のEPに収められた『With ensemble』との共演では、「Not the End」と「Circle」をオーケストラの中で歌いました。
普段頼るドラムの拍がない、流れる音の中では、歌う感覚も変わる。
その編成だから出てくる声を面白く感じたと振り返っています。

力を抜けるようになった人が、激しさも選ぶ

2025年、安田は二十代の自分を、一生懸命に明るい面を出そうとしていた時期と振り返りました。
肩の力を抜き、弱い部分も認めて歌えるようになったことを、本人は成長として捉えています。

だからといって、現在の歌がすべて穏やかになったわけではありません。
「BROKEN GLASS」では、壊れていく関係を描いた歌詞に合わせ、攻撃的なニュアンスを選びました。
以前ならきれいにまとめようとした言葉も、三十代の今はその形のまま歌にできるといいます。

安田レイの変化は、強さを失って柔らかくなったという一本道ではありません。
自分の声を受け入れ、近づく声や揺れる声を覚え、必要な曲ではまた強く出す。
声をどれだけ出すかに加えて、どんな距離と感情で届けるかを選べるようになったことが、その歩みをつないでいます。

曲ごとの強弱や、息と言葉の扱いは、安田レイの歌い方で掘り下げています。

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