月ノ美兎の歌い方|可愛い声、囁く声、話す声をどう歌の表情に変えるのか

2020年のメジャーデビュー時の取材に掲載された月ノ美兎 シンガー
2020年のメジャーデビュー時の取材に掲載された月ノ美兎

月ノ美兎の歌には、柔らかい声で包み込む曲もあれば、言葉のリズムで引き込む曲もあります。
「ウラノミト」のポップな歌と、「NOWを」の詩を読むような声は、その分かりやすい対照です。
一つの可愛い声をすべての曲に当てはめる歌い手ではありません。

話す声よりも高く、可愛くするという選択

「それゆけ!学級委員長」について、本人は普段のおしゃべりとは離し、高く可愛いイメージで歌ったと説明しています。
配信の声がそのまま旋律に乗ったのではなく、自己紹介の歌に似合う声を選んだのです。

一方、間奏には初配信の実際の音声が入っています。
今の歌と昔の話し声を一曲の中で行き来できるため、月ノ美兎という同じ人の声でも、場面によって印象が違うことに気づきやすい曲です。

同じような歌への入り方は「あいがたりない」にもあります。
本人が振り返ったのは、可愛らしい曲へ引っ張られて、歌い方も変わっていった経験でした。
先に固定した歌手らしい声を用意するより、曲が持つ雰囲気へ自分の声を近づける。
その結果、話し声をよく知る人にも新鮮に聞こえる歌が生まれます。

囁く声は、曲の音量との関係でも決まる

セラニポージの「ありふれた毎日の歌」をカバーした際には、基本的にウィスパー気味で歌うことと、途中で華やかになるアレンジの釣り合いが話し合われました。
柔らかな声を選ぶだけでなく、その声が伴奏の中でどう届くかまで考えた録音です。

同じ柔らかさでも、曲の場面によって働きは変わります。
2025年の「Paper Rabbit」で歌った「恋星ペリコ」は、オンラインゲームから始まる幼い恋の歌。
囁きに近い甘い声が、少し切ない物語に寄り添う歌唱として描かれています。
声を強く押し出さないことが、ここでは話の親密さにつながります。

月ノ美兎の「Paper Rabbit」のステージ(2025年、©ANYCOLOR, Inc.)
月ノ美兎の「Paper Rabbit」のステージ(2025年、©ANYCOLOR, Inc.)。
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反対に、2021年の「ラブカ?」では、囁くような入り方から力強いサビへ移ります。
弱い声を使う曲、強い声を使う曲と分かれるだけではなく、一曲の中でも両方を選べる。
サビを聴く前の静けさにも、歌の表情を作る役割があります。

囁きに近い声が、静かな伴奏にだけ使われるわけでもありません。
2025年の「Paper Rabbit」で披露した原口沙輔との「贋ト旧称」は、重いビートに揺れるようなウィスパーボイスを合わせた歌唱。
伴奏と同じ強さで声を押し出すのではなく、その上を動く柔らかさが曲の表情になっています。

「贋ト旧称」MV

柔らかな声は、共演者や曲の世界で顔を変える

同じ公演の「百cd融怪点」では、愛らしさと妖しい色気が同居する歌声が、怪談めいた世界を作りました。
可愛い声だから明るい話になる、とは限らない。
背後の音楽や歌う言葉との組み合わせで、親しみやすい声が不穏な側へ近づくところにも、月ノ美兎らしい歌の面白さがあります。

「百cd融怪点」では、ラップから終盤の長く伸ばす声までが、一つの歌唱の中に入ります。
言葉を細かく動かす部分と、声の線を保つ部分。
両方があることで、怪しい雰囲気を作る歌にも展開が生まれています。

「百cd融怪点」MV

柔らかい声同士の組み合わせとしては、2023年の「SYMPHONIA」Day2で、リゼ・ヘルエスタと歌った「少年よ我に帰れ」もあります。
細い声やウィスパー気味の声を持ち味とする二人が、やくしまるえつこの曲を選んだデュエットです。

この組み合わせでは、声の個性を曲の世界へなじませる選曲そのものが効いています。
二人の声と原曲の相性を楽しめる例です。
誰と歌い、どんな原曲を選ぶかによっても、月ノ美兎の柔らかな声の居場所は変わります。

声を伸ばす代わりに、言葉の置き方で引き込む

「NOWを」では、旋律を長く伸ばす歌とは違う難しさが前に出ます。
2021年のワンマンで、本人がタイミングの面で最も難しいと話した曲です。
言葉をどの位置へ置くかが、表現の大きな部分を占めます。

舞台上の孤独を感じさせる言葉から、客席を沸かせる姿へ切り替わる「NOWを」。
内側へ向いた独白と、会場へ投げかける言葉には、相手との距離の違いがあります。
同じ調子で文章を読み進めると失われてしまう、その差を公演の中で見せる曲です。

「NOWを」(2021年のアルバム音源)

「みとらじギャラクティカ」になると、声はラジオの進行役として働きます。
普段の配信で親しまれている話芸を、曲の仕組みそのものへ組み込んだ歌です。
メロディーの美しさに集中する瞬間と、話しかけられる面白さに引かれる瞬間が交代するので、歌とおしゃべりの境目も魅力になります。

2025年のワンマンでは、その呼びかけへ客席が声で応える場面も生まれました。
歌い手だけで完結するフレーズから、聴き手の返事を受け取る声へ。
この曲の活気を考えるときには、発する声の大きさに加えて、誰へ向けて言葉を投げるのかにも注目できます。

「みとらじギャラクティカ」MV

細かな音の移り変わりが特徴的なのは「光る地図」です。
半音で動く複雑な旋律には、声を導くような伴奏のメロディーも付いています。
声と楽器が似た線をたどり、そのわずかな違いも表情になる曲です。

録音で聞こえる変化には、声の加工も加わる

「ウラノミト」について、緑黄色社会の小林壱誓は、声へ効果を加えたようなコーラスが音の奥行きを作っている点に注目しています。
本人はヴォコーダーのような響きとして説明していますが、具体的な機材が確定したという話ではありません。

この曲で歌の印象を考えるなら、主旋律を歌う声と、その周りに配置されたコーラスを分けると整理しやすくなります。
人の声の柔らかさに、電子的な響きが重なることで生まれる奥行き。
完成した録音の不思議な感触を、すべて喉の使い方へ置き換えて説明することはできません。

さらに「ルナティックウォーズ」には、配信で話した声を組み合わせた部分があります。
マサラダが手がけた、声の組み立て方そのものを楽しむ仕掛けです。
月ノ美兎の場合、歌唱、会話、録音された声の再構成が一つの作品に入るため、どの声がどう使われているかを見分けることも大切になります。

「アルクマルチバース」のトレーラーに登場する月ノ美兎(2025年)
「アルクマルチバース」のトレーラーに登場する月ノ美兎(2025年)。
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歌い分けは、録音前の準備から始まっている

「アルクマルチバース」の制作では、枝分かれする曲に合わせて、歌い方のイメージや音程を書き込んで準備したといいます。
ブラジルへ向かうルートの音声は、自宅で録音。
人前では恥ずかしく、普段の感じが出せないと思ったことが理由でした。
どんな声にするかを考え、その声を出しやすい場所まで選んでいます。

曲の分岐ごとに、歌い方のイメージから準備する。
聴き手が進む場面に合わせて声を選ぶ、月ノ美兎の歌が見えてきます。
歌声も、企画の中で起こる出来事の一つなのです。

初期からの変化をたどる月ノ美兎の歌唱変遷も、合わせてご覧ください。

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