峯田和伸の歌い方|叫び、語り、旋律を自分の声にする

2020年の取材に掲載された峯田和伸 シンガー
2020年の取材に掲載された峯田和伸

峯田和伸の歌には、きれいに旋律をなぞるだけでは生まれない強さがあります。
けれど、その強さを大声だけで説明することもできません。
他人が書いた曲を自分の歌へ変える時、語りかける言葉を歌へ運ぶ時、仲間の声を前へ出す時。
何をどう歌うかという選択から、この声の個性を考えてみます。

仮歌を気に入っても、その通りには歌わない

KERENMIの「名前を忘れたままのあの日の鼓動」で、峯田は制作した蔦谷好位置の仮歌を気に入っていました。
ところが録音が始まると、その歌い方をなぞらず、一部のメロディーまで変えて歌います。
蔦谷は、そのほとんどを採用しました。

同じ曲でも、声の出し方だけでなく、旋律の運びまで変わった録音です。
蔦谷が評価したのも、声そのものと、長く舞台に立ってきた人ならではのシャウトの説得力でした。
短い掛け声さえ、誰が出しても同じ働きになるわけではないのです。

曲の表情に合わせて、荒々しさも選ぶ

峯田自身、曲ごとに歌い方が違うことを、その曲の表情として捉えています。
一つの声色を全曲へ当てはめるのでなく、それぞれの歌で違う表情を見せる。
荒い声を出せるかどうかだけでは、この歌い分けを捉えられません。

「ちえのわ」の録音では、整ったホーンの響きの中へ、荒っぽい熱を持つ声を置きました。
峯田は何度か歌い直しても、選んだ歌い方を大きく変えずに通しています。
録音するたびに偶然荒れてしまったという話ではなく、曲に合うと考えた声を繰り返し出していたのです。

2019年のフジロックで歌う峯田和伸(撮影:古川喜隆)
2019年のフジロックで歌う峯田和伸(撮影:古川喜隆)。
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静かな歌い出しから、バンドへ声をぶつける

2019年のフジロックで歌った「生きたい」は、アコースティックギターと鍵盤、歌という小さな編成で始まりました。
現地で取材したあたそは、ゆっくり丁寧に言葉を歌う始まりと、途中で大きなバンドの音に向き合って歌う姿を描いています。
同じ曲の中に、言葉を一つずつ置く時間と、演奏の勢いへ声をぶつける時間があったのです。

続く「NO FUTURE NO CRY」は、言葉を聞き取るのが難しいほど叫びに近かったとも評されています。
言葉の明瞭さを保つ歌だけが、この日の表現ではありませんでした。
聴き手が文意を追う時と、声の切迫感を受け取る時を、ライブの中で行き来させていたことが分かります。

言葉を置いてから、旋律へ入っていく

2020年12月の無観客配信では、「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」へ入る前に、峯田が歌詞の一部を朗読のように発する場面がありました。
初めから伴奏と旋律へ全てを預けず、まず言葉として相手へ差し出し、それから歌へ進む形です。
曲の意味を先に近くへ置くことで、同じ言葉が音楽の中へ入った時の重みも変わります。

この日の「骨」では、弾き語りで始めた後、ドラムをきっかけにバンドと仲間のコーラスが加わりました。
一人の声で始まった歌が、複数の声を持つ場へ広がる。
峯田の存在感は、最初から最後まで一人で声を張ることでしか生まれないものではありません。

2020年12月26日のライブ。

「アーメン・ザーメン・メリーチェイン」を録音する際、本人は速すぎず、歌いやすいテンポを意識していました。
イギリスでザ・リバティーンズのライブを見た時、周囲の観客が演奏を覆うほど歌っていたことが、大きな刺激になったからです。
曲が一人ひとりのものになる光景を、自分の音楽でも生み出したかったのです。

峯田にとって、聴き手の声が自分の声より大きくなることは、歌が負けることではありません。
一緒に歌える速さを選ぶのも、声の届け方の一部です。
自分の感情だけを早口で吐き出すのではなく、相手が声を重ねられる時間を曲の中に残しています。

2020年のアルバム収録版。

「骨」では、自分がコーラスへ回ることもある

同じ「骨」でも、2022年3月14日のアコースティック公演では、ドラマーの岡山健二がリードを取り、峯田がコーラスへ回りました。
曲の中心を歌う声を入れ替える、思い切った選択です。
自分が作った歌を、自分の声だけで完成させる必要はないと分かります。

この公演の「夢で逢えたら」について、ライブを取材した荒金良介は、アコースティックの編成によってメロディーの魅力が際立ったと評しています。
伴奏を変えることは、単に音を小さくすることではありません。
何を歌の中心として聴いてもらうかを変え、峯田自身の声も、その中の一つとして置き直すことなのです。

同じ歌声でも、録音の中での見え方は変わる

「ぽあだむ」のクボタタケシによるリミックスでは、歌の音量を上げ、声に曲を引っ張ってもらう作りが選ばれました。
華やかな音を重ねても、もとのメロディーの良さを消さないためです。
峯田の声に新しい印象が生まれる時、歌い直しだけが理由とは限りません。
声と周囲の音の関係を変えることでも、歌の聞こえ方は変わります。

反対に、音が激しく割れて聞こえるからといって、声だけが歪んでいるとも限りません。
「叫ぶ声」「大きく録られた声」「楽器のノイズに囲まれた声」は、重なりながらも別のものです。
声を聴く時には、言葉の発し方に加えて、前後で伴奏がどう変わったか、別の声が入ったかにも目を向けると、歌手が担う部分を捉えやすくなります。

2014年、豊田道倫との対談に臨む峯田和伸(右)
2014年、豊田道倫との対談に臨む峯田和伸(右)。
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自分の声だからこそ残る、歌の癖

峯田がYUKIへ書いた「Dreamin'」の制作では、二人で歌いながらキーを調整しました。
YUKIは、峯田の歌の節回しと自分の歌い癖の両方があるため、歌うのが難しかったと話しています。
書かれた音程が同じでも、言葉を運ぶ癖まで同じにはならないのです。
峯田の個性は、荒い声の場面だけでなく、人に渡すメロディーにも残っています。

また、豊田道倫との対話で峯田が強く惹かれていたのも、技巧の名前より、その人ならではの声でした。
その人の身体から出る声と、それをどんな環境で鳴らすかに、その歌手らしさがあるという考えです。
大声を似せれば同じ歌になるわけではない、ということを、他の歌手を聴く側としても感じていました。

峯田の歌い方を知るには、叫びだけを抜き出すより、語りから歌へ移る瞬間、旋律を自分の形へ変える瞬間、仲間へ主役を渡す瞬間を追うほうが、多くのことが分かります。
声の強さは、全てを同じ勢いで歌うことから生まれるのではなく、必要な場所へ置くことで伝わるのです。
こうした選び方が育ってきた過程は、峯田和伸の歌唱変遷にまとめています。

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