林原めぐみの歌声の変遷|昔の役と「今の私」が同じ曲で出会うまで

2015年のインタビュー時の林原めぐみ シンガー
2015年のインタビュー時の林原めぐみ。撮影:小坂茂雄/出典:音楽ナタリー。

2018年、林原めぐみは2015年に発表した「もう一人の私」を、今度は『3×3EYES』の登場人物・パイではなく、自分の立場から歌い直しました。
ピアノだけの伴奏で思い浮かべたのは、試験に向かう人、働いている人、子育てで眠れない人。
かつて一人の役として届けた歌を、別の人生にも届く歌にしたのです。

その前年には、演じていたミンキーモモと現在の自分が一緒に歌う版も作っています。
役の歌と本人名義の歌を長く並行してきた林原は、昔の歌を録り直すとき、誰の立場から歌うかをどう選び直したのでしょうか。
1990年の初期作品からたどります。

1990年、役には答えがあっても、自分の歌には迷う

林原は1980年代末、アニメの人物としての歌と、本人名義の歌を並行して始めました。
『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』のイメージソング「夜明けのShooting Star」を経て、1990年には本人名義のミニアルバム『PULSE』で四曲を録音します。

2015年の取材で林原は、キャラクターソングならその人物にとっての正解が見えるが、自分の曲はどこが一番よいのか悩む、と話しました。
『PULSE』の制作時には、年上の演奏家に囲まれ、スタジオの言葉もよく分からず、緊張していたそうです。
役から離れれば自由に歌えるというほど単純ではなかったのです。

その現場を支えたのが、『PULSE』をプロデュースした辛島美登里でした。
「夜明けのShooting Star」で出会ってから変わらず接してくれたことを、林原はよく覚えています。
戸惑いはあっても、制作の雰囲気はよかった。
本人名義で歌う経験も、周囲の音楽家に支えられながら積み重ねていきました。

翌1991年には本人名義のシングル「虹色のSneaker」とアルバム『Half and, Half』を発表。
後者にも、自分の歌と役の歌を半分ずつ入れたいという思いがありました。
林原にとって二つは、片方からもう片方へ卒業するための段階ではありません。

役として歌うときの具体的な作り方は林原めぐみの歌い方の記事で扱っています。
ここで追うのは、その二つの立場と過去の自分を、年月がたってからどう見直したかです。

1996年の『スレイヤーズNEXT』主題歌「Give a reason」で林原の歌を知った人もいるでしょう。
林原は後に、アニメの主題歌では作品を代表して本人として歌い、劇中の歌ならもっと人物の内側へ入ることもある、と説明しています。
彼女の歌は、アニメの登場人物か本人かの二択では収まりませんでした。

2015年、同じ四曲に25年離れた自分を置く

『PULSE』を録ってから25年。
初期作品集『タイムカプセル』には、その四曲の当時の録音と、新しく歌ったセルフカバーの両方が収められました。
昔の曲を今の声だけに置き換えたのではありません。
若い自分の録音を残したうえで、もう一度同じ曲に向き合っています。

林原は古い録音を聴き返し、恥ずかしさも感じたと話します。
それでも、粗さを消して整えるより、歌手としての出発点をそのまま届ける意味があると考えました。
当時の歌を「完成した最高の姿」とは呼ばず、ここから音楽が始まったと伝えたかったのです。

新録の編曲を担ったたかはしごうも、1990年の音にはその年の空気があるのだから、新しい版には2015年の現在を刻みたいと考えました。
ただ流行を避けて無難に仕上げるのでなく、今の音として何を残すか。
林原が伝えた、編曲者の迷いです。
林原自身も、懐かしむためだけのアルバムにはしたくなかったと語っています。

録音現場での立場も変わっていました。
かつて怖く感じた年上の演奏家たちに代わり、新録のメンバーは基本的に年下で、中には『エヴァンゲリオン』の熱心なファンもいたそうです。
林原は、自分の居場所を見つけやすかったと振り返りました。
同じ四曲を歌うスタジオにも、歌い続けてきた25年が表れていたのです。

過去の録音を隠さず、現在の歌と並べる。
『タイムカプセル』は、昔へ戻るだけでなく、この先も歌う人が自分の出発点を見つめる作品になりました。

2017年、ミンキーモモと現在の自分を二人にする

2017年の『with you』は、長く曲を届けてくれた岡崎律子へのトリビュートでした。
2004年の死をすぐには受け止められず、それでも残された歌に何度も励まされたと林原は話します。
その音楽を若い人にも届けたいという思いから、昔の録音に新録曲を組み合わせました。

『魔法のプリンセス ミンキーモモ』の歌「好きより大好きミンキースマイル!」を〈Grow up Version〉として新録し、「約束」には〈MOMO & MEGU Version〉を作りました。
後者の題名には、昔演じたモモと現在の林原めぐみが並んでいます。

「好きより大好きミンキースマイル!」の歌い直しを思いついたのは、仕上げの直前でした。
曲順に聴くとモモの印象が強すぎると感じ、大人に変身したモモがバンドを従えて歌う姿を思い描きます。
若い頃は意識しなかった曲のジャズらしさにも、改めて気づいたそうです。
役を捨てるのでなく、役が大人になった場面を想像することで、今の自分が歌う場所を作りました。

同年の初めての単独ライブも、林原がモモへ手紙を送り、会場へ招く物語で始まりました。
「約束」では、無人のマイクに明かりが当たるとモモの歌が流れ、もう一本のマイクの前で林原が歌います。
二人の会話も交わされる演出でした。
昔の曲をただ現在の歌手一人で歌うのでなく、役を現在の自分と出会わせたのです。

2017年の初単独ライブで歌う林原めぐみ
2017年、中野サンプラザでの初単独ライブ。
撮影:釘野孝宏/出典:KING RECORDS公式ライブレポート。

ライブ後の本人取材で林原は、ラジオドラマの収録中、モモを演じていた頃の気持ちには一瞬で戻れたと振り返りました。
一方、声を完全に昔どおり再現しようとしても、聴く人には年齢が感じられるかもしれないとも話しています。
役へ戻る感覚と、今の声で歌う現実を、同じ舞台に置く。
新録と公演の両方で、昔のモモとのつながりを保ちながら、現在の歌を届けていました。

2018年、パイの歌を林原めぐみとして歌う

『3×3EYES』の「もう一人の私」では、さらに歌う立場を変えました。
2015年のシングル「サンハーラ~聖なる力~」に収めた初めの録音は、ヒロインのパイとして作品の世界に入り込んだ歌でした。

それから3年後、アルバム『Fifty~Fifty』には「もう1人の私 MEGU Version」を収めます。
今度はピアノを伴奏に、林原自身として歌ったと本人が説明しています。

そのとき林原が思い浮かべたのは、アニメの登場人物だけではありません。
受験生、工事現場で働く人、夜泣きする子をあやす母親など、もう少し前へ進もうとしている人たちです。
同じ歌詞を歌っても、誰に向かって、誰の立場で歌うかが変わる。
初期の自分名義の録音で戸惑っていた人が、過去の役の歌を自分の視点から受け取り直しました。

本人が明かしたのは、歌うときに心の中へ置いた人々の違いです。
モモと自分を二人にした前年の公演に続き、今度は役の歌からもっと広い聴き手の日常へと視線を移しました。

2023年、役の物語を聴き手の時間へつなぐ

『エヴァンゲリオン』に関わる2023年のシングル「終結の槍/終結のはじまり」では、林原自身が二曲の詞を書きました。
「終結の槍」はかつての主題歌「残酷な天使のテーゼ」の言葉を組み替え、「終結のはじまり」には、シンジを思う気持ちを込めたと語っています。
綾波レイを演じた人として作品を知りながら、一人の役の台詞をそのまま歌詞にしたわけではありません。

林原の中には、テレビ版のレイ、新劇場版のレイ、シンジの母・ユイなど、演じてきた人物の視点が重なっています。
「終結のはじまり」では、多くを背負ったシンジが自分で決めて進むことを大切にしたかったと話しました。
長い作品との関わりを、一人の主人公へ向けた言葉に結び直したのです。

本人は、作品を思い出した聴き手が、14歳だった自分と今の自分を重ね、もう一歩進むきっかけになればとも話しました。
昔の自分、昔の役、そして今その歌を受け取る人。
それぞれを一つの歌から切り離さず、聴く人の時間へも歌の視点を開いています。

林原めぐみは過去の録音と役を残しながら、「誰が、誰に向けて歌うか」をその都度考えてきました。
その選び直しによって、長く知っている曲にも、今歌う理由が生まれています。

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