中川晃教の歌唱はどう変わった? 自分の歌からフランキーの声へ、そして「作る」先へ

青と緑のカーディガンを着た中川晃教 シンガー
2016年の中川晃教。撮影:横山将勝/出典:SPICE

2025年の『ジャージー・ボーイズ』で、フランキー・ヴァリ役を再び演じた中川晃教は、かつて意識して使い分けていた声の技術が、今は役の声として自然につながるようになったと話しています。
最初からそう歌えたわけではありません。
2016年の日本初演では、自分の高音だけではフランキーになれないと気づき、発声から学び直していました。

中川の歩みをたどると、変わったのは声の高さではなく、その声を誰のために、どんな場面で使うかという判断です。
シンガーソングライターとして自分の言葉を歌い、ミュージカルでは役の人生を歌う。
その二つの活動を続けながら、一つの役の歌にも新しい意味を見つけてきました。

2001年、自分で書いた歌から始まった

中川は2001年、自ら作詞・作曲した「I WILL GET YOUR KISS」でデビューしました。
まず彼が持っていたのは、誰かの声を再現する仕事ではなく、自分の曲を自分で歌う場所です。
高音が注目されても、曲の言葉と音楽を作る本人であることが、活動の出発点でした。

その翌年、ミュージカル『モーツァルト!』の主演に抜てきされます。
きっかけはデビュー後のリハーサルに、東宝の関係者や演出家たちが訪れたことでした。
自作曲を聴かせた後、カバーも聴きたいと頼まれ、ホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」をピアノで弾き語りしたそうです。
中川は後から、それが主演を選ぶ審査だったと知りました。

すでに役者として完成した声を用意していたのではなく、歌手として歌っていた声が、舞台への入り口になったのです。
子供の頃からミュージカルに親しんでいた中川にとって、歌が人物の人生を伝えること自体は遠いものではありませんでした。
ただし、今度は自分がその人物として、物語の時間を生きる立場になります。

本人はミュージカルの経験を重ねて、歌は芝居の中にあるものだと考えるようになりました。
音程や声量を披露するだけでは、登場人物の気持ちは伝わりません。
歌い出す前に何が起き、歌い終わった後に何を選ぶ人なのか。
そうした芝居の流れを声に含めることが、ソロで歌っていた頃にはなかった課題になりました。

2016年、「高音が出る」だけではフランキーになれなかった

転機は『ジャージー・ボーイズ』の日本初演です。
中川が演じるフランキーは、ザ・フォー・シーズンズのリードボーカルとして知られる実在の歌手。
中川なら高い声が出るから似合う、という期待もありました。
しかし本人は、出演の審査に向けた歌唱音源を録る段階で、自分のいつもの歌い方とは違う声が必要だと感じたそうです。

そこで取り組んだのが「トワング」という発声でした。
中川は以前からその響きをまったく使っていなかったわけではありません。
ただ、この役では使う度合いが違ったと振り返っています。
役に合わせて話し声を変える経験はあっても、歌声そのものをここまで意識して変えるのは、新しい挑戦でした。

デモ音源を録る時点では、まだ舞台そのものを観ていなかったといいます。
歌唱指導を受けて声の方向を探り、その後も、狙った響きを自分で扱えるよう精度を高めていく。
2016年の取材では、本人もまだ発展の途中にいると説明していました。
役が決まったことと、毎公演その役を歌えることの間には、さらに積み重ねる仕事があったのです。

フランキーは劇中で、グループの成功も人間関係の亀裂も歌います。
中川は当時、独特の歌唱法を身につけることが、その人物の内面を表す手段になると語っていました。
声の形を借りるための技術が、役の感情を運ぶための技術になろうとしていたのです。

2018年、曲を正しく歌うことから「その場で歌う理由」へ

初演から2年後の再演で、中川は同じ作品を別の角度から見直します。
初演の自分は、求められる歌唱法で曲を歌うことに力を注いでいた。
再演では、各曲が物語のどこで生まれ、何への答えになっているのかが、よりはっきり見えてきたと話しています。

その違いがよく表れるのが「君の瞳に恋してる」です。
独立した曲としては華やかなヒットソングですが、舞台ではフランキーが人生を重ね、仲間たちが曲を世に届けようとしてきた後に鳴ります。
中川は2018年の取材で、客席の拍手を、ただ俳優として受け取るのではなく、フランキー自身が受け止めるものとして語りました。

同じ音符を歌っても、客席の反応を人物の出来事として受けるなら、歌の意味は変わります。
2016年の発声の精度は捨てず、技術の先にいる人物と会場を意識する。
発声の練習で得た声に、曲の前後を生きてきた人物の実感が重なります。

赤い衣装で舞台に立つジャージー・ボーイズのチームWHITE、中川晃教は左から2人目
2018年『ジャージー・ボーイズ』チームWHITE。
左から福井晶一、中川晃教、中河内雅貴、海宝直人。
提供:東宝演劇部/出典:映画.com

2018年の舞台はハイライトのライヴ盤として収録され、翌2019年に発売されました。
曲順には「君の瞳に恋してる」もあります。
初演で形にした歌を、再演の物語の中でどう生かすか。
中川が語った変化は、この同じ曲を歌い続けたからこそ見えてきたものです。

2022年、同じ役を客席から見る

再演までの時間は、同じ舞台を毎年繰り返していたわけではありません。
2020年には予定していた本公演が中止され、その後にコンサート形式で届ける機会もありました。
中川は2025年の取材で、初演のシアタークリエから全国公演へ、さらにコンサートへと形を変えたことも、新鮮さを保てた理由に挙げています。
役を持ち続けながら、届ける場所や方法は変わっていたのです。

2018年の再演から4年を経た2022年の公演では、フランキー役を花村想太と分け合うことになりました。
中川は、出演していない回に客席へ座り、自分が演じてきた役を初めて観客として見たと語っています。
自分が歌う時には追えない流れや相手役の姿を、劇場の外側から受け取る経験でした。

発声の練習も止めていたわけではありません。
中川は2018年以降もトワングを磨いていたと話しています。
ただ、積み重ねたのは技術だけではありません。
劇中でフランキーが娘を失う場面について、2016年には想像して演じた感情を、その後の自分の人生を経て別の重さで受け止めるようになったとも語りました。
同じ役の同じ場面でも、年齢を重ねた本人の理解は固定されません。

2025年、作った声が役の中で自然につながる

2025年の中川は、初演の頃を振り返り、地声、ファルセット、トワング、ミックスを意識してコントロールしていたと説明しています。
長年演じる中で力みが抜け、いまは自分の中にフランキーを演じる時の声がある、とも語りました。
2016年の練習が不要になったという意味ではありません。
舞台で繰り返し選んできた声が、ひとつの人物の歌として使えるようになったということです。

本人に残っているのは、初演を観に来た『グランドホテル』の演出家トム・サザーランドとの会話です。
フランキーの声を単なる発声技術に還元しないよう示され、考えさせられたといいます。
トワングを覚えるのは必要だった。
でもその人の声は、技術の名前だけではできていません。
2018年には曲の置かれた場面、2022年には役を客席から見る経験や自身の人生が、その声に関わってきました。

2025年には小林唯も加わり、中川のほかに花村想太らもフランキーを演じました。
かつて一人で担った役を、それぞれの俳優が歌うようになっても、中川が初演から問い続けたのは同じことです。
どうすれば、この人物が歌っていると伝わるのか。
年月を経て、その答えを声の技術だけに求めなくなりました。

役を離れても、自分の歌を歌い直す

もう一つ、中川が守ってきた線があります。
2013年に始めたソロコンサート『I Sing』は、ミュージカルの役を離れて、自分自身の歌へ戻る場です。
2017年の取材では、歌手と俳優という二つの道に悩み、長くスタジオ作品を出せなかった時期を振り返っています。
その間もライブで新しい曲を育て、2016年のアルバム『decade』へつなげていました。
『I Sing』は、与えられた役を果たす場から、自分で次の音楽を作る場へ戻るためにも必要だったのです。

2019年の取材では、デビュー曲も発表した時のまま止まった歌ではなく、歌う自分とともに育っていくものだと話していました。
その年のツアーではピアノ、クラリネット、チェロと回り、初めて訪れた土地の人に歌で向き合いました。
一方、同年の『I Sing』ではドラム、ベース、鍵盤、ギターを選び、リズムのある編成で自分の音楽を探ろうとしています。
同じ曲でも、伴奏のリズムが変われば言葉の届き方が変わる。
その違いを使って、今の自分と客席にふさわしい歌を作っていたのです。

白いパーカを着て椅子に座る中川晃教
2019年『I Sing』の取材時の中川晃教。
撮影:五月女菜穂/出典:SPICE

フランキーの歌を作り続けることと、自分の曲を歌い直すことは、どちらかを卒業すれば終わる関係ではありません。
2001年には自分の言葉から始まり、2016年には役のために新しい発声を学び、2018年以降は同じ役の場面と客席をいっそう深く受け取ってきた。
技術を意識して組み立てた声が、役の人生を伝える声へと育った一方で、自分の歌も現在形のまま残っています。

フランキーとして歌う一曲の中で、声をどう切り替え、芝居の感情を保つのか。
その一場面に絞った話は中川晃教の歌い方の記事で扱います。

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