小野大輔の歌い方はなぜ曲ごとに違う?声優の言葉と「演じる歌」の作り方

小野大輔 2019年公式アーティスト写真 シンガー

小野大輔の歌い方を「低い声が魅力」で片づけると、曲によって語り手の性格まで変わる面白さが抜けてしまいます。
声優として言葉を伝える力を使いながら、曲によっては、その明瞭さをあえて緩めることもあります。
どの曲でも同じ声を当てるのではなく、歌の人物が誰に何を伝えるかで選択を変えているのです。

いつどんな選択が増えたかは小野大輔の歌唱変遷でたどれます。

明瞭に伝えることは、いつでも同じ強さで言うことではない

声優の歌は、歌詞が聞き取りやすいと言われることがあります。
小野自身も、声優は仕事柄、歌詞をはっきり言う傾向があり、自分にとってもその明瞭さは大事な特徴だと説明しました。
ただ、聞き取りやすさを一曲の唯一の正解にすると、物語の人物が緊張したり迷ったりする余地が狭くなります。

たとえば『Sounds of Love』の「DING DONG」は、大人の恋を扱う曲です。
小野が難しかったと語ったのは、曲に付く短い朗読で「落ち着いた大人」と「恋に初心な人」を同時に表すことでした。
最初は落ち着いた方向に読んだものの、それでは胸の高鳴りが伝わらず、録り直したそうです。
言葉の発音を明瞭にするだけでは人物が立たない。
心が揺れる程度をどこに置くかが、表現の中心になります。

小野は朗読では、人物が見ている景色や、話しかける相手との距離を先に思い浮かべることが重要だとも話しています。
これは「声優だから歌も上手い」という単純な説明より、歌の前に誰の視点を置くかを考える手がかりです。
「DING DONG」の朗読と歌の並びでは、静かな語りが曲の人物像を用意し、曲がその先の感情を受け持つ構成になっています。

羽多野渉との「SUPER SHOCK」は、本人同士のけんかではない

羽多野渉との「SUPER SHOCK」は、仲の良い二人が一緒に歌う曲というだけではありません。
小野は羽多野を、声優として切磋琢磨してきた相手と説明し、その関係を曲の発想にしました。
ただし、完成した歌でぶつかるのは本人同士ではなく、二人が演じる役です。
小野は、自分たちは普段争いを好まないからこそ、役者として対立する人物を作ったと語っています。

ここで声を聴くときには、現実の二人の仲をそのまま探すより、どちらの人物が相手に向けて言葉を投げているかに注目すると、曲の構造が分かりやすくなります。
朗読には、一人の女性を巡って争うライバルの物語が添えられました。
小野はその朗読に、役者を始めたころの負けたくない気持ちを使ったそうです。
自分の経験を材料にしつつ、歌の中では別の人物へ組み替えるのが、この曲の歌い方です。

「また会う時は」では、歌い手を一人で完結させない

同じ『Sounds of Love』でも、上田麗奈との「また会う時は」は、対決のための二人ではありません。
コトリンゴが書いたデュエット曲で、別れ際の「また会う」という言葉をめぐる場面を二人の声で作ります。
「SUPER SHOCK」で相手が競う役なら、この曲では相手がいるからこそ成立する会話が核です。

この曲には、コロナ禍にアフレコの現場で感じた、小野自身の思いが重なっています。
共演者とゆっくり話せず、すれ違いざまに短く挨拶するだけでも、次に会えることを願う気持ちは渡せる。
小野は、そんな別れ際の「またね」を表現したいと制作側に伝えたそうです。
収録には上田とともに入り、コトリンゴのディレクションを受けました。

「またね」は、言葉だけなら短い挨拶です。
しかし、次も会えると思って相手に手渡す言葉として捉えると、歌うときに置く相手や感情が具体的になります。
小野の歌を一人の声質だけで説明しきれない理由がここにあります。
共演者を打ち負かす場面では強い対立が要り、再会を願う場面では相手の言葉を受ける余白が要る。
同じ「二人で歌う」でも、曲に必要な距離が違います。
どちらも2022年の同じ作品に入っているため、年齢による声の変化と決めつけず、場面の設計の違いとして比べられます。

TRDでは言葉を削ることが、伝える選択になった

近藤孝行とのTRDの「Take You Higher」では、曲のリズムに合わせ、日本語の語頭の音をあえて出さない箇所がありました。
作曲家R・O・Nの指示を受け、何度も録音を試したと小野は語っています。
普段の声優の仕事なら、言葉を落とすのは考えにくい。
それでも曲の中では、一音ずつ正確に区切るより、言葉が伴奏と一緒に進むことを優先しました。

本人が例に挙げたのは、1番のAメロです。
「一歩」「踏み出す」といった言葉の頭を、そのまま全部発音しなくてよいと指示されたといいます。
日本語を一音ずつ立てる習慣がある小野には、英語のように聞こえるこの処理が新鮮でした。
一度で全ての言葉が分かる明瞭さを少し譲り、リズムと一体になった歌を何度も聴いてもらう。
声優として身につけた長所を、曲のために調整した例です。

聞き手に内容を一度で分からせたい朗読と、言葉自体をリズムに溶け込ませたいダンス曲では、求められる伝わり方が違います。
小野はどちらの方法も使い、曲に合わせて選んでいます。

大きなステージと、ギター一本の「Dear」

2021年のライブでは、ダンサーとともに見せる「Firebird」について、歌と踊りの両立が難しかったと小野は振り返っています。
一方、「Dear」をアコースティックギターと歌った場面は、歌うことを根本から考え直す経験になったそうです。
前者は身体の動きと歌を同時に届ける課題、後者はシンプルな伴奏の中で声をどう置くかという課題です。

「Firebird」では動きながら歌を成立させ、「Dear」では少ない音の中で歌の存在を確かめる。
曲と場所の条件が変わるたびに、歌い手が解かなければならない問題も変わります。

小野大輔 高知放送掲載アーティスト写真
高知放送掲載の小野大輔アーティスト写真。
画像出典:公式掲載元

「だいすき」から「Self Satisfaction」へ――役を演じても自分の言葉が残る

デビュー作『ひねもす』の「だいすき」は小野が詞を書いた曲です。
2022年の「Self Satisfaction」は、豊永利行に依頼し、その曲の現在版を作る発想から生まれました。
ただのセルフカバーではありません。
小野によれば、元の曲の「だいすき」は最終的に自分の名前の「大輔」へ行き着く遊びでした。
新曲では、駄じゃれで終わらせず、「自分が大好き」と堂々と言う歌にしたかったといいます。

小野は取材で、自分に自信を持つのは簡単ではないからこそ、歌の中では自分を愛すると言いたかったと話しました。
歌の末尾には長いせりふを入れ、笑いを含むステージの表現まで考えています。
発想のきっかけは、鳥海浩輔のライブで見た、間奏で愛をささやきながら肝心なことを言う直前に歌へ戻る演出でした。
小野はその面白さを豊永に伝え、曲を作ってもらったそうです。
歌とせりふの切り替えも、聴き手とのやり取りを生むための表現になっています。
明るい言葉を勢いで言い切る曲に見えても、その明るさは本人が選んだ役割であり、本人の迷いが消えたという証明ではありません。

人物を演じる歌と、本人の言葉を歌う曲は、小野の活動の中で片方がもう片方を消したわけではありません。
「SUPER SHOCK」では役同士の対決を選び、「Self Satisfaction」では過去の自分の歌に新しい答えを与えています。
小野大輔の歌い方を聴くときは、まずその曲がどんな人物、どんな相手、どんな距離を置いているかを確かめると、一つの声の中にある複数の選択が見えてきます。

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