「ウィーアー!」を歌い続けて12年。2011年に同曲を録り直したきただにひろしは、作曲した田中公平から旋律の違いを指摘されました。何度もステージで歌ううちに、本人も気づかず変えていた部分があったのです。初代『ONE PIECE』主題歌を歌った人が、その声を保存するのではなく、歌うたびに自分の曲にしてきた。再録の裏にはそんな時間がありました。
その後も彼は、高音なら力強く押し切るという一つの正解には留まりません。2019年には、出せる高さをあえて裏声で歌い、2024年には普段ほとんど使わなかった高いシャウトに挑みます。2025年には他の歌手が歌ってきた『ONE PIECE』の曲を引き受けました。最初の一曲から何を残し、どんな選択を増やしてきたのでしょうか。
1999年「ウィーアー!」――ロック歌手が笑顔で録った最初のアニソン
きただには1994年にロック系のユニットでデビューし、Lapis Lazuliのボーカルとしても活動していました。しかし『ONE PIECE』の初代オープニング曲「ウィーアー!」を歌う話は、最初から彼への正式なオファーではありません。田中公平が書いた曲の仮歌を頼まれ、その録音が選考を経て採用されました。以前のレコード会社との契約を失い、先行きを考えていた時期の、予想外の転機でした。
本人が後年語ったレコーディングの場面は、いかにも勇ましい歌の印象と少し違います。スーツ姿の関係者が集まるブースで緊張し、歌うたびに向こうで話し合う姿を見て不安になった。田中から、全国に夢と希望を届ける曲なのだから笑って歌うよう促され、笑顔で録ったところOKが出たと振り返っています。ロックの勢いを封じた話ではありません。自分の声を、物語の出発を喜ぶ声として届けるために、表情を変えたのです。
「ウィーアー!」の跳ねる歌い出しにも、この作品ならではの仕掛けがあります。本人によれば、歌詞の小さな「っ」があのメロディーを生む発想につながりました。1999年の原曲は、後に公開された映像の撮影日やYouTubeへの投稿年とは区別して聴きたい出発点です。
2011年「ウィーゴー!」と再録――12年間に本人も気づかなかった変化
2011年の「ウィーゴー!」は、物語が新世界へ進むときに作られた「ウィーアー!」のアンサーソングです。きただに自身も当時、1999年の自分ならてこずったはずだと語りました。速いテンポに加えて転調が多く、Bメロの終わりからサビの頭まで同じ一文字がつながる。息をどこで使うかに苦労し、練習を重ねて録音に臨んだといいます。
そのシングルには「ウィーアー! for the new world」も収められています。単なる懐かしい曲の再演ではありません。録音中、田中から旋律が少し変わっていないかと尋ねられ、きただには長年歌ううちに無意識の解釈が入っていたと気づきました。田中はそれを歌手の持ち味として受け止め、一部を直したうえで録音したそうです。きただに本人も、初回と再録では歌の技術や声の太さが変わったと語っています。
したがって原曲と2011年版の違いを、年齢による声の変化だけで説明することはできません。後者はアレンジも異なる再録です。それでも、毎回同じ譜面に戻っているつもりだった歌手の中に、12年のステージで育った解釈が残っていたという本人の証言は、二つの録音を結ぶ具体的な変化です。
2016年「ウィーキャン!」――一人で担った主題歌をデュエットに開く
「ウィーゴー!」の次にきただにが『ONE PIECE』のオープニングへ戻った2016年、相手は氣志團でした。「ウィーキャン!」は、作詞・作曲・歌唱で組んできた「ウィーアー!」のチームとは異なる制作です。本人は個人名義で誰かと歌うことが初めての試みだったと話しています。
この曲で、1999年から続く歌を一人で再現する道だけでなく、別の歌い手と一曲を分け合う道ができました。ただし、このデュエットだけから声質そのものが変わったとは言えません。次の2019年に本人が語る、声の使い方の変化と区別しておきます。
2019年「OVER THE TOP」――高く出せる音を、あえて裏声にした
ワノ国編の主題歌「OVER THE TOP」で、きただには新しい選択を試します。田中は長年知る彼がよく響かせられる音域や持ち味を曲に織り込みました。その一方で、きただに本人によれば、これまであまり用いなかったファルセット(裏声)を使う難題も入っていました。
驚くべき点は、高音が出なくなったから裏声に逃がしたわけではないことです。本人は、通常の声で届く高さをあえてファルセットにしたことで別のよさが生まれ、裏声も自分の武器になると気づいたと述べています。「ウィーアー!」から「ウィーゴー!」では声の勢いと持続が前に出ました。ここでは、同じ高さにどの音色を置くかを選ぶ自由が増えています。
録音版が出た後、感染症の流行で披露の機会は限られたと本人は振り返っています。映像にあるアニメの場面や編曲の迫力を、そのまま歌手の発声の変化と取り違えず、本人が明言したファルセットの選択に焦点を当てると、この時期の転機が見えます。
2024年「あーーっす!」――これまでの高音とは違うシャウト
エッグヘッド編の「あーーっす!」には、同じ田中公平と藤林聖子、きただにが再集結しました。本人は初め、転調の少ない反復的な曲をすぐには好きになれなかったと打ち明けています。しかし聴き重ねるうちに魅力が見え、録音では言葉ごとに異なる表情を求められました。たとえば退屈を示す箇所はその気分が伝わるように、別の言葉は勢いよく叫ぶよう指示されたそうです。
曲末の高音についても、本人は従来の「ウィーアー!」「ウィーゴー!」のタイトルコールより高い音を挙げ、これは地声の延長ではなくシャウトだと区別しています。過去のJAM Projectの曲で似た声を使ったことはあるものの、ほとんど試してこなかった方法だったといいます。音名だけを並べて声域の記録が伸びたと断じるより、「通常の歌声ではない高音の表現を選んだ」という説明のほうが、本人の言葉に忠実です。
同じ2024年に公開された「ウィーアー!」の『THE FIRST TAKE』は、1999年の原盤とは別の録音です。本人のバンドとホーン隊を伴う一発撮りで、緊張のあまり演奏開始時にはヘッドホンの線が手に絡んだと明かしています。それでも、何千回も歌った曲を仲間と新しい編成で届けました。原盤、2011年の再録、この一発撮りを同じ条件の声の測定結果として扱うことはできませんが、一曲を歌い続けながら表現を更新してきた経過はたどれます。

2025年のカバー――裏声を「半分の曲」で使うところまで
2025年の『ONE PIECE COVER SONGS〜仲間の印×〜』では、他の歌手やグループが担ってきた主題歌を、きただにが一人で歌いました。選曲では好きな曲だけでなく、自分の声に合うか、原曲の印象をキー変更で損なわないかを考えたそうです。Da-iCEの二人やAAAの七人で歌う曲を一人で成立させるため、ライブでの息継ぎまで想定したと語っています。
中でも「私は最強」では、半分ほどをファルセットで歌うことに不安がありました。家でプリプロを録り、どの鳴らし方なら歌として成立するかを考え、原曲と同じキーを選んだといいます。2019年に一曲の中で見つけた裏声という武器を、今度は長い区間を支える歌い方として使ったわけです。同じアルバムの「新時代」は逆に、力強い地声で締められるようキーを一つ下げたと説明しています。高く歌うこと自体を目標にせず、曲の表情に合わせて声と高さを決めています。
1999年の笑顔の「ウィーアー!」から、2011年の息の配分、2019年の裏声、2024年のシャウト、2025年のカバーへ。変わらないのは『ONE PIECE』の冒険へ聴き手を連れていく明るさです。ただ、その明るさを出す手段は一つずつ増えました。12年歌って初めて本人が気づいた旋律の変化は、完成した持ち歌を守るだけではない、きただにひろしの歌の歩みをよく表しています。
一曲の中で言葉をどう跳ねさせ、息と表情を切り替えるのかは、きただにひろしの歌い方で詳しく見ていきます。

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