鞘師里保の歌唱変遷|歯切れのいい歌から、会話の温度と生の声を選ぶ表現へ

2026年の取材記事に掲載された鞘師里保 シンガー
2026年の取材記事に掲載された鞘師里保

鞘師里保の歌唱は、グループで身につけたリズムを土台に、ソロで表現の幅を広げてきました。
録音でもライブのように歌いたいという試行錯誤があり、楽に声を出せる感覚を学び直した時期もあります。
近年は、言葉を会話に近い温度で届けたり、加工した声と生の歌声のバランスを選んだりするようになりました。

その変化には、得意な歌い方を磨くだけでなく、曲に合う声を探し続ける姿勢があります。
本人が語った録音や公演の経験から、その歩みをたどります。

『I AM』(2026年)のリリックビデオ。

2011〜2015年――仮歌から学ぶ歌い方と、英語の発音への挑戦

鞘師が2011年に加入したグループは、モーニング娘。
2015年末の卒業まで、歌とダンスの経験を重ねました。
2022年の取材では、つんく♂の仮歌を真似して録音に臨む中で、歌い方が変わったと振り返っています。
本人によると、当時は定期的な歌のレッスン以上に、一年を通じて続く公演の中で試す機会が多かったそうです。
マイクを通した自分の声を意識しながら、録音では仮歌から、舞台では実際に歌う経験から学んでいました。

グループ時代の最後には、全編英語の「One and Only」に取り組んでいます。
2015年12月のウォーカープラスの取材で、鞘師はこの録音が大変だったと話しました。
意味を理解して歌っていても、知っている英単語が日本語寄りの発音になってしまい、英語の先生に指摘を受けたそうです。
テイクを重ねて、ようやく乗り越えたと説明しています。

歌詞の意味が分かることと、言葉を求められる音で歌えることは、同じではありませんでした。
グループでの歌唱を重ねた鞘師にも、卒業前の録音で新しく向き合う課題があったのです。

2021年――録音の声を、ライブで歌う自分へ近づける

ソロの最初のEP「DAYBREAK」は、2021年8月に発売されました。
WEBザテレビジョンの取材で鞘師は、以前から録音とライブで声が違うと感じ、もどかしかったことを話しています。
感情によって歌い方が大きく変わるため、動きながら歌える声が、録音では違う声になってしまうという感覚でした。

この作品では、録音した声を、自分が思い描く普段の歌声へ近づけようと試しました。
本人は歌を変えたというより、よりよくしたという捉え方をしています。
約6年ぶりのレコーディングでは、マイクとの距離感にも戸惑ったそうです。
ステージで歌えている感覚を、録音の環境でも再現する必要がありました。

録音では、自分が納得するまで録り直しを申し出たり、調子が出たときに録りたいと伝えたりすることもできました。
目指す声を探すために、自分から制作へ関わるようになっています。

2022年――楽に歌える感覚と、新しい歌詞の世界

2022年5月の取材では、休業中に楽に歌える感覚を得て、その後のレッスンで理由が結びついてきたと話しています。
以前から努力してきた歌を、自分に合う感覚で捉え直していました。
先に声を出しやすい経験があり、なぜそうなるのかを考え、先生の説明と結びつけていった順序です。
言葉で教わったことをそのまま再現しようとしていた段階から、自分の感覚と照らして理解する段階へ進んでいます。

2022年の取材記事に掲載された鞘師里保
2022年の取材記事に掲載された鞘師里保。
画像出典:写真掲載元

同年1月発売のEP「Reflection」では、恋愛の曲「Melt」にも挑んでいます。
タウンワークマガジンの取材で、鞘師は表現の幅を広げたくて、ロマンスの要素を入れたと説明しました。
Michael Kaneko、さらさと一緒に作った曲です。

鞘師は、自分の領域を大切にする主人公が、ある相手には心を開こうとする物語を考えました。
恋愛を描く新しい曲でも、主人公の性格には自分を重ねています。
前作では伝えたいことを書き出すだけでも大変だったのが、今作では一曲の物語を組み立てやすくなったとも語りました。

曲だけを聴いた最初は難しいかもしれないと思ったものの、歌詞を乗せるとしっくりきて、歌い方も自然に思い描いた形になったそうです。
前作の時期なら向き合えなかったかもしれない、今だから歌えた曲だとも話しています。

新しい曲調に声を合わせるだけでなく、歌う人物の言葉を持つことで、自分の歌が見えてくる。
「Melt」は、ソロで一作を経験した鞘師が、その先の表現へ進んだ例です。

『Melt』の公式音源(2021年12月配信、2022年の『Reflection』にも収録)。

2022〜2023年――声だけで向き合う舞台と、客席から受け取る熱

2022年の「UNISON」ツアーでは、冒頭に踊らず歌う場面が設けられました。
音楽と人の宇佐美裕世は、最初のツアーとの違いとして、歌声だけで観客に向き合う姿を取り上げています。

鞘師自身は、歌への不安を克服するために決めた演出だったわけではないと話しました。
前のツアーでしていないことをしようという提案から実現し、歌だけで臨むことには不安もあったそうです。
曲数が増え、踊る場面も多くなる公演だからこそ、最初を歌だけにして、後のダンスを引き立てる狙いがありました。
歌とダンスの配分を変えることが、ツアー全体の見せ方にもつながっています。

その公演で手応えを感じた曲は「WE THE ONES」でした。
録音後には声色が曲に合っているか心配だったものの、客席の反応に助けられ、気分を曲へ乗せられたと説明しています。
自分で録音を評価するときの不安が、観客と歌う時間の中で変わった経験です。

『WE THE ONES』(2022年)の公式音源。

2022年12月29日の『UNISON』ツアーより、公式ライブ映像。

2023年のビルボードライブ公演を前にした取材では、踊らずに歌う別の表現も考えていました。
編成や客席との近さに合わせ、柔らかく、語りかけるように歌うイメージを語っています。
録音にあるストリングスを使わない編成で、より親しみのある雰囲気を思い描いていました。
バンドなら、演奏の一部を8小節延ばすような変更もできる。
客席の反応に応じて歌い方を変えたいという考えは、完成した音源を再現するだけではない公演への関心を示しています。
ダンスと歌で押し出す舞台に加え、聴く人との距離に応じた声の届け方を探り始めていました。

2024年――「paradise」で、話すようなラップを選ぶ

2024年7月のアルバム「Symbolized」には、新曲「paradise」が収録されています。
鞘師は音楽ナタリーの取材で、ラップのあるダンス曲を歌いたいという希望から始まったと話しました。

この曲では、yaccoと初めて作曲にも取り組んでいます。
鞘師が曲や日本語の歌詞の方向を伝え、80KIDZのラフなトラックを基に制作を進めました。
yaccoが考えた展開を聴きながら、自分も小さな声でメロディを試し、それを二人で形にしていったそうです。
歌い方を考える前の、旋律を作る段階から声を使って参加していました。

ここで選んだのは、会話に近い感じのラップです。
「UNISON」までなら、もっとダンス曲らしいテンションになっていたと思う、と以前の表現との違いも説明しています。
ラップを入れるという新しい要素だけでなく、言葉をどんな温度で出すかを選び直していました。

リズムを強く示して曲を引っ張る歌い方を持ちながら、自然に話すような表現も試す。
歌う曲の幅とともに、声の使い方にも新しい選択が加わっています。

『paradise』(2024年)の公式音源。

2025年――歯切れのよさを生かし、グルーヴへ広げる

2025年には「Super Red」を発表し、EP「Too much!」を発売しました。
この時期のめざましmediaの取材で、鞘師は今の自分に合い、長く歌い続けられる歌い方へ、癖を変えていると話しています。

グループで身につけた16ビートは、新しい制作相手にも気づかれるほど残っていました。
ただ、それをどう表現するかは、曲によって変える必要があるという考えです。
以前は歯切れのいい歌い方を意識していた一方、この頃はグルーヴで表現できるよう取り組んでいると説明しました。

身につけたリズムの、曲の中での見せ方を広げていく。
慣れた歌い方にも手を入れる姿勢が、ソロの活動を重ねた本人の言葉に表れています。

2026年――「I AM」で、生の声が前に出る形を選ぶ

2026年9月発売のEP「OWN」では、自分の声を録音の素材として扱う試みもしています。
「I AM」について、鞘師はencoreの取材で、サビを自分の声だけで構成し、加工した声をトラックのように使ったと話しました。

2026年の取材記事に掲載された鞘師里保
2026年の取材記事に掲載された鞘師里保。
画像出典:写真掲載元

一方、仕上げでは音を足すだけでなく、削ることも選んでいます。
飾らない自分を表す歌詞に合わせ、生の歌声が前に出る構成にしたかったためです。
声を重ねる面白さと、歌そのものを聴かせることを、同じ録音の中で考えていました。
制作相手のVelaと意見を交わしながら進め、ライブでバンドと演奏するときの形も思い描いていたそうです。
数年前には自分のバンドツアーを想像できなかったという本人にとって、録音で作る音と、生の舞台で届ける歌を一緒に考えることも変化でした。

また、本人は「I AM」や「どっち?」で、不完全な自分を語る言葉を自然に歌えていることが、以前の曲とは違うと感じています。
前ならためらったかもしれない内容を、そのまま歌えるようになったという説明です。
声を出す方法を探してきた歩みは、どんな自分の言葉を歌えるかという変化にもつながっています。

『どっち?』(2026年)の公式音源。

鞘師里保は、グループで学んだ歌を土台に、録音の声、ライブの熱、言葉の温度を選び直してきました。
身につけた歌い方を繰り返すだけでなく、曲ごとに必要な表現を見つけることが、ソロでの変化を支えています。

発声の感覚や声量、リズムと言葉の扱い方は、鞘師里保の歌い方で詳しく見ています。

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