高橋愛の歌唱変遷|舞台で学び直した発声と、楽しんで歌う声の表情

2021年のORICON NEWSの取材に掲載された高橋愛 シンガー
2021年のORICON NEWSの取材に掲載された高橋愛

高橋愛は、グループで歌い続けた後、ミュージカルでポップスとは違う発声を学びました。
歌い慣れた声があっても、次の場所では新しい課題が待っていたのです。
さらに年月を経てユニットで歌ったときには、上達を示すこと以上に、歌やコンサートを楽しむ気持ちを語っています。

仲間と重ねる声、役のために学ぶ声、面白い歌詞を本気で歌う表現。
その歩みをたどると、高橋が歌う場面ごとに、何を大切にしてきたかが見えてきます。

『わさびじゃないのよ鰹は』(2022年)のMV。

2011年まで――グループで磨いた歌と、二人で重ねる声

高橋が2001年に加入したのは、モーニング娘。
その後、10年間にわたってグループで活動しました。
入る前には、宝塚を目指して歌の練習になると思い、中学の合唱部に入ったと振り返っています。
歌うことへの憧れを持って、グループの活動へ進んだ人でした。

加入翌年の「Do it! Now」には、好きな歌を自分の声で表す難しさも残っています。
2021年のリアルサウンドの取材で高橋は、曲調が大好きで、つんく♂の仮歌を繰り返し聴いていたと振り返りました。
ところが自分のパートをうまく歌えず、録音には四時間かかったそうです。
気に入ったメロディーを知っていることと、その表情を自分で出せることは、別の課題でした。

『Do it! Now』(2002年)のMV。

リーダーを務めた時期には、つんく♂から今こそレベルを上げるよう促され、ライブ映像を何度も見返して練習したそうです。
2021年のORICON NEWSの取材で高橋は、グループを続けるために必死だったと話しています。
ステージで見せる自分たちを確かめながら、表現を磨いていました。

2011年の「この愛を重ねて」は、同期の新垣里沙とのデュオ曲です。
つんく♂は、少し跳ねるリズムをゆったり歌う必要がある曲として、二人の成長と、安心して録音できることを評価しました。
勢いを出すだけでなく、リズムの動きを感じながら落ち着いて歌う表現が、制作する側にも認められていたのです。

同年のBillboard JAPANの取材では、高橋自身も、新垣と互いのメロディーを信頼できるからハモりが成り立ち、ライブでも気持ちよく歌えると話しています。
長く一緒に歌った相手と、声を重ねる感覚が育っていました。

『この愛を重ねて』(2011年)の公式音源。

最後のシングル「この地球の平和を本気で願ってるんだよ!」では、表情を作ろうと考えていた以前と違い、歌っているうちに自然に笑えたそうです。
曲のメッセージに自分も励まされ、歌う表情が生まれる。
卒業を前にした高橋は、そんな歌との関係も言葉にしています。

2011年の卒業後――ポップスとは違う発声を学ぶ

グループを卒業した高橋は、ミュージカル「ダンス・オブ・ヴァンパイア」の舞台へ進みました。
2019年に振り返った話では、卒業を考え始めていた頃に、帝国劇場でヒロインを演じる話が来たそうです。
大きな舞台のための稽古とグループ活動を両立するのは難しく、自分ではこの機会に進むべきだと判断しました。
舞台への憧れを、仕事として引き受ける選択だったのです。

2012年1月の公式ブログでは、この作品の歌い方について問われ、発声法を習っていたと答えています。
ポップスの歌い方とは違い、かなり大変だったという説明です。

グループ卒業後のasianbeatの取材に掲載された高橋愛
グループ卒業後のasianbeatの取材に掲載された高橋愛。
画像出典:写真掲載元

長年の歌唱経験を持つ高橋も、この作品では別の発声を習う必要がありました。
新しい歌い方に取り組む難しさが、卒業直後の本人の言葉に残っています。

asianbeatの取材では、帝国劇場の初日に非常に緊張したことも語りました。
長年リーダーとしてステージに立ってきた人が、違う分野では新しく学ぶ側になる。
周囲のダンサーたちが高い実力を持ちながら練習を重ねる姿にも、強い刺激を受けていたそうです。

2019年のLIFULL STORIESの取材では、卒業後の現場で歌い方がアイドルだと指摘されたことも振り返っています。
自分にも思い当たることがあり、悔しさを感じたそうです。
グループの高橋愛から、一人の高橋愛にならなければと思い、卒業から3年はがむしゃらに取り組んだと話しました。

グループでは、足りないところを仲間が補ってくれていたとも説明しています。
卒業後はその支え方が変わり、自分で役を担い、次にも呼んでもらえる仕事をしなければならない。
発声を学び直すことは、そうした働き方の変化の中にも置かれていました。
歌う力を持っていることと、新しい現場で求められる表現を出せること。
その間にある距離を、本人も強く意識していたのです。

2013年――「雨の降らない星では愛せないだろう?」を歌い直す

2013年には、中孝介のカバーアルバムで「雨の降らない星では愛せないだろう?」を一緒に歌いました。
グループで大切にしてきた曲を、卒業後に別の相手と歌う機会です。

この曲には、国が違っても歌でつながれるという思いを込めていたと、高橋は対談で話しています。
中国出身のジュンジュン、リンリンがいた当時には、中国語でも歌い、アジアツアーでも大切にしてきました。
もとはシングル候補として受け取ったバラードで、アルバム曲になってからも、ツアーで歌い続けた曲だったそうです。

高橋は録音について、ジュンジュンやリンリンの歌い方、表情を思い出しながら歌っていたと話しています。
仲間と歌った頃の記憶を、新しい録音にも持っていきました。
曲を受け継ぐことは、歌っていた人の姿を思い浮かべることでもあったのです。

中は、自分のカバーに元の歌い手にも参加してもらい、曲の力をさらに引き出したいと考えていました。
高橋も、中の表現には自分たちだけでは出しきれないものを感じ、この機会に曲の良さを広く知ってほしいと話しています。
大切な曲を久しぶりに歌い、自分とは違う歌い手を通して、その曲の可能性も見直す録音になりました。

同じ取材で高橋は、歌手として歌うことも演じることも、自分の中では表現としてつながっていると説明しました。
この曲でも、主人公になって歌っているという考えです。
舞台で違う発声を学びながらも、曲の中の人物として歌う姿勢は、グループ時代から続いていました。

中孝介feat.高橋愛による2013年のMV(短縮版)。

2022年――力強い歌声から見えてきた、大人の表情と楽しさ

高橋愛・田中れいな・夏焼雅のアルバム「ラフ・アンド・ピース」は、2022年4月に発売されました。
面白い歌詞を持つ曲を、三人が本気で歌う作品です。
高橋はananの取材で、恥ずかしがらず全力で歌うことで笑ってもらえると思い、真剣に取り組んだと話しています。

誰かと一緒に録音し、MVを撮ることには、懐かしさも感じていたそうです。
一方、田中も夏焼も年月を重ね、それぞれの歌に新しい発見がある。
以前の関係をなぞるだけでなく、今の三人が持つ表現を楽しむ場になっていました。

2022年のアルバム発売時の取材に掲載された高橋愛
2022年のアルバム発売時の取材に掲載された高橋愛。
画像出典:写真掲載元

共演した夏焼は、以前から高橋に力強い歌声の印象を持っていた一方、この作品では大人の女性らしさや色っぽい歌い方を感じたと、WEBザテレビジョンで語りました。
面白い歌詞でも、高橋が歌うと、その歌詞を忘れるほど引き込まれるという評価です。
声の力強さに加えて、歌う人物の表情を感じさせる面が、共演者にも印象を残していました。

田中は「ケッコン!~残りものには福がある~」の台詞を、芝居が好きな高橋の豊かな表情が出る例として挙げています。
また、高橋が以前から歌いたかった「誤爆~We Can’t Go Back~」は、女子高校生の設定を変えずに歌うことになりました。
自分の現在の生活とは違う人物にも入り込み、面白い歌詞を本気で表現する。
舞台で役を担ってきた歩みの先に、歌と台詞の両方で人物を見せる作品が加わったのです。

『ケッコン!~残りものには福がある~』(2022年)の公式音源。

ただ、高橋自身は、卒業後にあまり歌っていなかったため、歌唱が向上しているかは分からないとも話しています。
当時強かったのは、レベルを上げた姿を見せようという意識より、歌うことやコンサートを楽しむ気持ちでした。
新しい声の表情への共演者の評価と、本人の楽しさの実感が、同じ活動の中にあったのです。

グループで仲間と声を重ね、舞台では発声を学び直し、歌い慣れた曲も別の相手と表現し直す。
そして再び複数の歌い手と集まったときには、歌の面白さを思い切り楽しむ。
高橋愛の歌唱の歩みには、身につけた表現を大切にしながら、その場で必要な声と歌う気持ちを選び直す姿があります。

ハモりや曲の主人公としての表現、発声への向き合い方は、高橋愛の歌い方で詳しく扱っています。

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