一十三十一の歌唱変遷|声を主役にする表現を、どう育ててきたか

一十三十一(2017年8月31日、ビルボードライブ東京) シンガー
一十三十一(2017年8月31日、ビルボードライブ東京)

一十三十一は、2004年の『フェルマータ』で、メロディーと声を主役にすることを選びました。
その後も、歌う自分と音楽との関係を問い直していきます。
自分の内面へ伴奏を近づけることもあれば、映像の終わりにふさわしい熱量を、歌う曲に求めることもありました。
声を生かす場所をどのように選んできたのか、本人と制作関係者が具体的な作品について語った言葉からたどります。

「DIVE」(『CITY DIVE』収録曲、2012年/公式配信音源)

『フェルマータ』で、声の間に余白を作る

2003年の『360°』について、一十三十一は、音楽を作り始めた十代から当時までの自分をまとめた作品だと話しています。
それに対し、2004年の『フェルマータ』は、その後の自分、最近の自分を表したものだと説明しました。
初めてのアルバムへさまざまな経験を詰め込んだ後、次の作品では、空間や引き算の美しさへ目が向いています。

『bounce』の取材で、本人が主役に挙げたのはメロディーと声でした。
同記事の書き手も、言葉と言葉、声と声の間に残された隙間に注目しています。
どれだけ音を足すかに加え、声が鳴っていない部分をどう残すか。
旋律と声が届くための余白を作ろうとする、初期の選択でした。

一十三十一(2004年公開のインタビュー掲載写真、撮影時期不明)
一十三十一(2004年公開のインタビュー掲載写真、撮影時期不明)。
画像出典:写真掲載元

一人の共作者と向き合い、歌う自分へ音楽を近づける

2007年の『Girlfriend』で選んだのは、ASA-CHANGとアルバム全編にわたって組むことでした。
前作『Synchronized Singing』では、さまざまな編曲者と実験していた一十三十一。
今度は一人の相手と向き合い、シンプルで力強く、それでいて柔らかく新しいポップスを作りたいと考えたそうです。

ASA-CHANGは、一十三十一から新しい歌詞が届くたびに、それを受けて編曲を変えていきました。
決まった伴奏へ歌を乗せるだけではなく、歌う言葉が、周囲の音も動かしていく制作です。
本人はこのやり取りを、自分に合う楽しい録音だったと話しています。

作品の違いについても、本人の説明は具体的です。
前作は、色鮮やかな世界の中を自分が泳いでいるような感覚。
対して『Girlfriend』では、まず自分がいて、音楽が身体へ塗るオイルやクリームのように密着していると表現しました。
自分の赤裸々な部分を出したいという思いが、歌詞と編曲の近い関係にも表れていたのです。

都会的な声を、じっくり聴ける曲へ

2012年の『CITY DIVE』では、一十三十一自身がシティポップへはっきり方向を定めました。
制作に参加したクニモンド瀧口は、本人の声がもともと都会的で、この作品ではその特徴がよく出ていると話しています。
DorianやKASHIFの参加によって、懐かしい要素のある音楽が、当時のダンスミュージックにも近い形になったと捉えていました。

同年のカバー集『YOUR TIME route#1』では、その声を長く味わえる曲も選ばれています。
クニモンドがバラードの例として挙げたのが、ラジの「ブラック・ムーン」です。
歌謡曲の印象が強くなりやすい旋律を、レオン・ウェアを思わせる甘いソウルの編曲へ寄せたと説明しています。

「ブラック・ムーン」(『YOUR TIME route#1』収録曲、2012年/公式配信音源)

一十三十一自身にも、『CITY DIVE』を作った後で、歌いたくなった曲がありました。
松任谷由実の曲を一曲に絞ることを迷っていたものの、同作を通過すると「手のひらの東京タワー」が自然に浮かんだそうです。
一枚を作った経験が、次に自分の声で歌いたい曲を選ぶ感覚につながっていました。

本人は、夏らしい『CITY DIVE』に対し、秋に発売するカバー集は、穏やかで艶のある仕上がりになったと話しています。
声の個性を生かしながら、選曲や伴奏によって、歌が似合う景色を変えていく時期でした。

「手のひらの東京タワー」(『YOUR TIME route#1』収録のカバー、2012年/公式配信音源)

『Talio』では、終わりに残す歌の熱量を選び直す

2020年には、流線形との『Talio』で、ドラマ『タリオ 復讐代行の2人』の音楽を手がけます。
本格的な劇伴制作は初めてでしたが、それまでの自分のアルバムにも、映画のサウンドトラックを作るような感覚があったと説明しています。
『THE MEMORY HOTEL』では、実際に脚本を用意し、場面に合わせて曲を作っていたそうです。

ストライプに赤い線の入ったジャケットを着た一十三十一
一十三十一(2020年『Talio』のインタビュー掲載写真、撮影時期不明)。
画像出典:Real Sound

ここでは、自分の声を聴かせるだけでなく、ドラマのどこに、誰の歌を置くかを考えています。
自分がエンディングを歌うなら、オープニングは男性に歌ってほしい。
その相手として、初めから堀込泰行を思い描いていたと話しました。

エンディングの「悲しいくらいダイヤモンド」については、最初に届いた落ち着いた曲の案から、より熱のある方向へ作り直してもらっています。
格好よい案ではあったものの、終わりには感情のある、勢いのよい曲を置きたいと考え直したためです。
歌詞も、オープニングとの対照を意識しながら書いていました。

「悲しいくらいダイヤモンド」(『Talio』収録曲、2020年/MV)

さらに「嘘つき手品」では、堀込とデュエットしています。
Aメロを同じ旋律で歌った結果、二人それぞれの個性が出たとクニモンドは評価しました。
一十三十一は、正反対だと思っていた声を、クニモンドから意外と近い部分もあると言われたそうです。
ミックスで苦労しながら、二人のバランスを探っていました。
歌う場面、曲の熱量、隣に置く声まで、作品全体の中で選ぶ経験でした。

「嘘つき手品 feat. 堀込泰行」(『Talio』収録曲、2020年/公式配信音源)

2025年、季節や言語を決めすぎない共作へ

2025年の『Telepa Telepa』では、先に細かな場面を決める作り方から、再び距離を取っています。
『CITY DIVE』以降は、脚本を書くように作品の設定を詰めていました。
今回は季節や状況を限定せず、一曲ずつ違う人と作りたいと考えたそうです。

「Like A First Kiss」で組んだワイルド・ナッシングのジャック・テイタムには、自分のシティポップのイメージへ寄せすぎず、彼自身の今の音楽を作ってほしいと伝えました。
ジャックが書いた英語の歌詞へ、一十三十一が日本語を加えています。
一つの言語へ統一するより、初めから混ざり合う歌を望んだ共作でした。

「Like A First Kiss feat. Wild Nothing」(『Telepa Telepa』収録曲、2025年/MV)

メキシコのフアンパリートスチノスを迎えた「あなたとContigo」でも、相手には母語のスペイン語で歌ってほしいと考えていました。
日本語と別の言語が混ざることを、新しい歌の魅力として受け止めています。
自分の声を置く世界をすべて先に決めるのではなく、相手から届く音や言葉を受けて、その形を探すようになっていました。

「あなたとContigo feat. Juanpalitoschinos」(『Telepa Telepa』収録曲、2025年/公式配信音源)

初期の声のための余白、内面へ密着する編曲、映像の中で役割を担う歌、言語をまたぐ共作。
一十三十一の歩みには、声の持ち味を生かすために、声を囲む音楽との関係を選び直してきた流れがあります。

吐息を含む音色や、言葉の発音の特徴については、一十三十一の歌い方で扱っています。

シンガー人気投票。投票ページはこちら

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました