欧陽菲菲の歌い方|録音室でも、舞台のつもりで歌う

2010年1月23日の台北公演で観客に応える欧陽菲菲 シンガー
2010年1月23日の台北公演で観客に応える欧陽菲菲

欧陽菲菲は、録音でも舞台に立つように歌っていました。
制作をともにした吳大衛によると、大きな録音室を選んだのは、歌いながら十分に体を動かすためでした。
その一方で、別れを歌う曲には、相手へ話しかけるような表現もあります。
声の勢いと、ことばの向け方から、歌い方を見ていきます。

「雨の御堂筋」と「ラヴ・イズ・オーヴァー」は、『エッセンシャル・ベスト 1200 欧陽菲菲』にも収められています。

一番大きな録音室を選ぶ理由

吳大衛は、欧陽菲菲が最も大きな録音室を選ぶことを、最初はスターならではの注文だと思ったそうです。
ところが一緒に仕事をすると、体を伸び伸び動かして歌うために、その広さが必要だと分かりました。

2010年の取材で吳は、一回の録音でも、彼女は大勢の観客の前にいるように、最初から最後まで歌い、踊ると説明しています。
何度も録れば、小さなコンサート一回分のように体力を使う。
録音室で声だけを整えるのではなく、体の動きも含めた一曲の表現を、その都度作っていたのです。

この証言で興味深いのは、動きが観客へ見せるためだけのものではない点です。
録音された声だけが届く場面でも、本人は舞台と同じように体を動かしていました。
一曲の始まりから終わりまでの気持ちを、身体表現も含めて作る。
その取り組み方を知ると、声の勢いにも、曲を通して表現を保とうとする姿勢が見えてきます。

「恋の追跡」と「恋の十字路」で、声の伸ばし方を比べる

勢いのある声にも、曲によって違う表情があります。
音楽ブログ「帝都熱烈音盤解放戦線」の筆者は、「恋の追跡」について、ホーンやギターの演奏に重なる派手な歌唱を評価しています。
その一方で、初期の声の印象を、乾いた感触で、ビブラートを抑えたものとして捉えています。
迫力を、長く揺らす声だけで説明していない点が興味深いところです。

同じ筆者が別の例に挙げるのが、「恋の十字路」です。
こちらでは、ワルツのリズムの中で、必要な場所にビブラートを使い、声を伸ばすところと切るところを分けていると評しています。
一曲ごとに伸ばす長さや揺らし方を変えることで、声の持ち味を保ちながら、演奏の違いに応えられるという見方です。

二曲を聴き比べるなら、声の大きさだけでなく、一つの言葉がどう終わるかに注目したいところです。
音を残して次へつなぐのか、言葉を切って伴奏に場所を渡すのか。
その違いを追うと、華やかな印象の中にも、歌の流れを区切ったり、余韻を作ったりする選択があることを考えられます。

語りかける前半と、最後に高まる「ラヴ・イズ・オーヴァー」

「ラヴ・イズ・オーヴァー」は、別れを告げる女性の強さと悲しみが重なる曲です。
この曲を歌う際の解釈として、門松みゆきは、前半では本当に相手へ話しているように、息や、ことばを少し投げるような表情を使うと説明しています。
これは欧陽菲菲本人の発声解説ではなく、別の歌手がこの作品に見いだした表現の手がかりです。

相手に話すように歌うという見方では、聴く人との距離も変わります。
別れの気持ちを大勢に説明するというより、その場にいる一人へ言葉を渡す。
弱くした声や息を含んだ言葉も、音量を抑えること自体が目的ではなく、相手へどんな調子で伝えるかという問題になります。
門松の解釈は、悲しい曲だから最初から最後まで同じように嘆く、という歌い方にしないための手がかりです。

所属先が掲載する欧陽菲菲の写真(撮影年不明)
所属先が掲載する欧陽菲菲の写真(撮影年不明)。
画像出典:写真掲載元

曲の作りにも、語るだけでは終わらない展開があります。
音楽家の青沼詩郎は、繰り返される題名のフレーズが、歌い終わりでは高い音域へ移り、リズムも細かくなると分析しています。
同じことばが、最後には違う切迫感を持つ。
前半の語りかけと終わりの高まりを分けて捉えると、この曲の中にある感情の幅が見えてきます。

青沼は、題名の言葉が曲の冒頭と結びの両方に置かれていることにも注目しています。
最初に告げたことを、曲の中でいくつもの思いを伝えたあと、もう一度歌う構成です。
同じ言葉でも、それまでの歌を聴いたあとでは、受け取る重さが変わります。
高い音へ進む終結部は、声の見せ場であると同時に、語ってきた気持ちが集まる場所とも考えられます。

そのため、この曲を一部分だけの印象で捉えるのは惜しいことです。
静かな語りかけから、伸びる旋律へ進み、最後に題名の言葉へ戻る。
前半の声と最後の声をつなげて聴くことで、勢いだけでは見えなかった感情の運びに耳を向けられます。

歌の熱を、客席との間で育てる

2013年10月の六本木公演では、「恋の追跡」からステージが始まりました。
公演記事は、「雨の御堂筋」や「雨のエアポート」で、生バンドにソウルフルな歌声を重ねた様子を伝えています。
欧陽菲菲自身も、出会えたことへの感謝と、心を込めて歌う思いを客席へ伝えました。

この日の曲目には、「テネシーワルツ」や「SWANEE」も並んでいました。
さらに、作詞・作曲者の伊藤薫らを交えた「ラヴ・イズ・オーヴァー」のセッションも行われています。
代表曲を一人で歌い上げるだけでなく、他の人と音楽を交わす場面も、同じステージの中にありました。

大きな会場で見せる姿とは違う距離で、バンドや共演者とのやり取りが届くのも、ライブハウスの魅力です。
録音室でも観客を想定する欧陽菲菲の姿勢が、実際の客席のある場では、歌への反応を受け止める表現につながります。
曲の強弱に加えて、誰と、どんな距離で歌を共有するかも、その場の印象を作ります。

伴奏がなくても届く「感恩的心」

声だけが前に出る場面にも、欧陽菲菲の歌を知る手がかりがあります。
2023年7月、台湾の金曲奨で特別貢献賞を受けた際には、挨拶に続いて「感恩的心」を無伴奏で歌いました。
現地を取材した中央社は、その声を厚みのある響きとして伝えています。
受賞への言葉をそのまま歌につなぐ形で、客席へ気持ちを伝えた場面です。

生バンドと一緒に熱を高める公演と、声だけで感謝を伝える場面。
どちらにも、声を向ける相手がいます。
踊りや演奏の迫力がある歌だけでなく、こうした短い歌唱も合わせて見ると、華やかさの奥にある声の存在感を、別の角度から捉えられます。

録音室では、目の前にいない観客を思い描いて、一曲を通して歌う。
舞台では、実際の客席と生バンドの間で、その歌を届ける。
大きな声が出るというだけでなく、歌う瞬間から相手を想定していることが、彼女の表現を考えるうえでの大切な手がかりです。

同じヒット曲を歌い直した際の選択は、欧陽菲菲の歌唱変遷でたどっています。

シンガー人気投票。投票ページはこちら

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました