セバスチャン・バックの前で、彼の歌を歌ってみせる人がいるそうです。
Skid Rowのあの声を再現しようとして、力いっぱい叫ぶ。ところが、本人からすると、叫びすぎているのだといいます。
高音を思いきり伸ばす姿が印象に残る歌手なのに、なぜそんなことを言うのでしょうか。
バックは、自分の歌い方について、言葉を分かってもらうための、話す声に近い歌い方だと説明しています。
強烈な高音を出す場面のために、力を残しておくのだそうです。
1989年のアルバム『Skid Row』に収められた「I Remember You」も、彼を代表するバラードです。
あの高音へ向かうまでに、何を歌として伝えようとしているのか。そこを考えると、バックの声の魅力がもう少し具体的に分かってきます。
ずっと叫ぶ歌と、叫ぶ場面がある歌
バックが注意しているのは、高音そのものを出すことではありません。
彼の歌をまねようとすると、叫ぶ声の印象が強すぎて、それ以外の部分まで同じ勢いで歌ってしまう。その歌い方に違和感があるのです。
本人が挙げた優先順位は、まず、何を言っているのかが伝わることでした。
そして、大きな高音が必要な場面で力を使う。
話すように歌うという説明も、曲全体を小声で済ませるという意味ではなく、言葉を相手に届ける感覚を歌の基本にしている、と読むと分かりやすくなります。
高い音だけを思い出して歌うと、その前にある言葉まで、高音を出すための準備に見えてしまいます。
けれど、歌を聴く人にとっては、その言葉も曲の一部です。
何を訴えていた歌が、最後にあの声へたどり着いたのか。その順番があって、激しく歌う場面にも意味が生まれます。

高い声を目指していた青年に、ジョン・ボン・ジョヴィが言ったこと
バックも、最初からこう考えていたわけではありません。
1987年にSkid Rowへ加わった頃は、ロブ・ハルフォードたちに憧れ、できるだけ高く歌おうとしていたと振り返っています。
そんな彼に、ジョン・ボン・ジョヴィは、歌詞が何を語っているのかを伝えるよう助言しました。
声でどこまでできるかより、いま歌っている言葉に集中する。
バックにとって、それは歌手としての考え方を変える言葉だったそうです。
まだ高音を出すことに夢中だった若い頃に、その声で何を伝えるのかを教わったのです。
後年の「叫びすぎ」という指摘にも、この考え方がつながっています。
たとえば、聴き手を驚かせることだけが目的なら、声が出た時点で成功かもしれません。
しかし、歌詞を伝えたいのなら、驚いたあとに何が残るかも大切です。
バックの話からは、高音を得意技として持ちながら、それだけで一曲を終わらせたくないという姿勢が見えてきます。
「I Remember You」を歌うには、曲を好きであることが必要だった
言葉を伝えるというと、感情を細かく計算して歌う姿を思い浮かべるかもしれません。
バックの場合は、その前に、本人がその曲に夢中になれるかどうかという問題がありました。
彼は「I Remember You」を、心から大切に思って歌ったと話しています。
Skid Rowに加わった頃、「18 and Life」を聴いたときにも、この曲はもう完成していると感じたそうです。
自分が歌いたいと思える曲が、そこにあったのでした。
反対に、気に入らない曲を歌おうとしたリハーサルでは、歌い出しても口が止まってしまったことがあるといいます。
協力しようとは思っていたのに、気恥ずかしくなって歌えなかった。
どの曲でも、あの声を出せば同じように熱く歌える、というわけではなかったのです。
バックは、自分の感じていることが聴き手にも伝わるのだと考えています。
「I Remember You」への思い入れも、単に好きな曲を挙げた話ではありません。
好きな曲には気持ちを込められるのに、そう思えない曲では歌うことまで気恥ずかしくなる。本人の思い入れが、歌うときの積極性にも表れていました。
ジョンの助言が「何を伝えるか」を考えるきっかけだったとすれば、この話は「本当にそう思って歌えるか」という問題です。
言葉を伝えようとする歌い方には、その両方が関わっています。
低い声のためには、朝まで選んだ
そのこだわりは、高い声を出す場面に限りません。
2011年のソロ作『Kicking & Screaming』に入った「Dream Forever」では、歌い始めの低音のために、録音する時間を選んでいます。
バックによると、自分の声は一日が進むにつれて高くなっていくため、低く歌いたいときは起きてすぐに録るそうです。
まだ誰とも話さないうちにマイクへ向かい、プロデューサーにも来てもらう。
「Dream Forever」の冒頭は、そうして得た低い声だと説明しています。
自分の声が変わる時間帯を知っていたからこそ、選べた録り方です。
強く歌えるかどうかに関心が集まりやすい彼が、ここでは低い声の質感を欲しがっている。
欲しい声が違えば、気合いを増やすのではなく、録る時間から変えていたのです。

高音を出す場面で力を使うことも、低音のために朝を選ぶことも、一曲のどこで、どんな声が必要なのかを考えた結果です。
その使い分けを知ると、バックの歌を、常に全力で押し続ける歌としては捉えにくくなります。
あの高音の前にも、歌がある
バックが「叫びすぎ」と感じたのは、彼らしい高音を出そうとするあまり、その前後の歌まで叫び声になっていたからでした。
本人は、思い入れのある曲の言葉を伝え、必要なところで大きな高音を使おうとしています。
あの声が出るかどうかは、もちろん大きな聴きどころです。
ただ、「I Remember You」の高音だけを切り離して考えると、彼がその曲に心を込めたという話も、ジョンに教わったことも見えなくなります。
歌詞を伝えようとする歌が続いた先に、あの高音がある。その順序を残して聴きたい歌手です。
もっとも、バック自身にも、得意な高く澄んだ歌い方を避けた時期がありました。
そこから再び自分の声を使おうとするまでの経緯は、セバスチャン・バックの歌声の変遷でたどっています。
こちらの記事もおすすめ






コメント