カート・コバーン(Nirvana)の歌い方|ざらつく声と静かな声が、どちらも強く届く理由

uDiscoverに掲載されたカート・コバーン(Kevin Mazur/WireImage撮影) カート・コバーン
uDiscoverに掲載されたカート・コバーン(Kevin Mazur/WireImage撮影)

カート・コバーンの歌は、叫びの迫力だけでは捉えきれません。
声を小さくしたときにも、近くで何かを訴えているような切実さが残ります。
制作を担当したブッチ・ヴィグも、ざらついた叫びと、静かで親密な歌を行き来できる声だったと振り返っています。

その違いは、歌手が出す声の質感と、録音で声を届ける方法の両方から考えられます。
「Smells Like Teen Spirit」のような曲を支える声の重なりと、「Something In The Way」の静かな録音は、同じ歌手の声を違う形で生かした例です。

「Smells Like Teen Spirit」公式MV(1991年)。

ざらついた強い声と、近く感じる小さな声

ヴィグは1997年のSound On Soundの取材で、カートの叫びには独特のざらつきと音色があり、同時に、とても静かで親密な歌にもできたと説明しています。
声の大きさが変わると、歌が相手へ迫る距離の感じ方も変わる。
カートの場合、その静かな側にも、強く心を動かす表情があったという制作当事者の見方です。

その声を届ける録音では、響きを遠くへ広げすぎないことも重視されました。
ヴィグによると、多少のエコーなどを加えた曲はあっても、歌声は全体として、残響の少ない仕上げを目指したそうです。
声が部屋の遠くへ溶けていく感じを抑えることで、小さく歌う部分の音色や言葉にも耳を向けやすくなります。

ここでは、声を小さくすることと、存在感を小さくすることが同じではありません。
強い声から静かな声へ移ったときに、どんな質感や言葉が残るか。
そこが、カートの歌を聴く一つの手がかりになります。

静けさから激しさへ、その途中にも表情がある

カート自身も、強弱の幅を歌の課題として考えていました。
1994年に掲載されたRolling Stoneの取材では、静かに始めて大きく爆発する作りに慣れすぎたと話し、その間を行き来する展開を探したいと語っています。
「Dumb」や「All Apologies」のような曲をもっと書きたかったとも答えました。

この発言を手がかりにすると、カートの静かな歌を、サビで叫ぶための待ち時間としてだけ聴くのはもったいなく感じます。
穏やかな旋律の中で、言葉に重みが乗る瞬間や、声が少し強まるところに注目する。
大きな切り替わりの間にある細かな表情も、歌の流れを作る要素として捉えられます。

声を重ねて作る厚みは、一回の歌唱の強さと分けて考える

ヴィグは1997年のSound On Soundの取材で、特にサビの歌を二重にする方法を好み、『Nevermind』でも取り入れたと話しています。
別々に歌ったテイクを重ねると、一つの旋律を複数の声で支えることになります。
録音された歌の厚みには、こうした制作上の選択も関わっています。

その重なりを可能にしたのは、歌い方の再現性でもありました。
ヴィグは2016年の取材で、カートに複数回歌ってもらうと、別々のテイクがよくそろっていたため、同時に鳴らして重ねられたと説明しています。
すでに録った自分の声を聴きながら、そこへ合わせて歌う通常のやり方には乗り気でなかったとも振り返りました。

荒々しい音色でも、旋律や言葉の運びが毎回ばらばらだったわけではないのです。
一つのフレーズをどう始め、どこで伸ばし、どこで切るかという形がそろうと、別の歌唱を重ねても曲の輪郭を保ちやすくなります。
感情の強さと、同じ歌をもう一度形にできる確かさが、録音の中で結びついていたと考えられます。

カートが一度に出す声の迫力と、重ねた歌が作る響きは、それぞれに働く要素です。
大きな音に聞こえる理由を、歌手が強く声を出したことだけへ結びつけると、録音で作られた部分を見落としてしまいます。
声のざらつき、旋律の形、重ねる歌を一緒に捉えると、力強さの作り方がより具体的になります。

ユニバーサル ミュージック公式プロフィールに掲載されたニルヴァーナ
ユニバーサル ミュージック公式プロフィールに掲載されたニルヴァーナ。
画像出典:画像掲載元

ハーモニーも含めて、歌声の届き方を考える

声を重ねるといっても、同じ旋律を二重にすることと、別の音程でハーモニーを付けることでは役割が変わります。
前者は主旋律の厚みを増し、後者は主旋律を別の動きで支える方法です。
カートは、その仕上がりにも関心を持っていました。

1993年のジム・デロガティスによる取材では、『In Utero』について、歌のハーモニーをもう少し加えたかったと本人が話しています。
録音中には満足していても、最終的なミックスでは歌声の出方に不満が残ったとも説明しました。
自分たちは歌を重視するバンドだという発言には、演奏の中で声をどう届けたいかという意識が表れています。

歌う瞬間の勢いだけでなく、伴奏との釣り合いや、支える声の有無まで含めて一曲の表情になる。
主旋律に耳を向けたあと、その後ろで何が歌を支えているかを追うと、カートが求めた歌中心の響きも考えやすくなります。

「Something In The Way」――静かな歌を出発点にした録音

「Something In The Way」は、歌を起点に伴奏を重ねていった曲です。
ヴィグはHeadlinerの取材で、まずカートのギターと歌を録り、そこへ音を加えたと説明しています。
バンド全体で録った演奏に歌を載せる方法とは、出発点が違います。

別の取材では、当初のバンド録音では親密な雰囲気が出ず、コントロールルームでギターと歌を録ることになったとも振り返りました。
静かな声に、初めから大きな演奏へ対抗する役目を持たせず、その歌の感触に合わせて曲を組み上げたわけです。

これは、小さな声を強く聞かせるために、歌だけを変える以外の選択があった例です。
声を取り巻く音の作り方によっても、同じ歌手の表情を引き出せることが分かります。

「Something In The Way」公式公開音源(原曲1991年・2021年リマスター版)。

「Where Did You Sleep Last Night」――一節へ向かう息と集中

1993年の『MTV Unplugged』で最後に歌った「Where Did You Sleep Last Night」には、制作側が鮮明に覚えていた瞬間があります。
番組プロデューサーのアレックス・コレッティは、最後の一節の前、カートが息を吸うところを強く記憶していると語りました。

次の一節へ向かう準備までが、制作側には表現として届いていたのです。
歌詞を歌っている時間だけでなく、次の言葉へ向かう間にも、歌の流れは続いています。
カートの声の迫力を考えるときには、その集中が積み重なる過程にも耳を向けたくなります。

「Where Did You Sleep Last Night」MTV Unplugged公演・公式未編集版(1993年の演奏)。

ざらついた声を出すこと、静かな声を近く届けること、録音で声を重ねること、最後の一節へ向かうこと。
カートの歌の強さには、こうした異なる働きが重なっています。
叫びの印象から一歩広げて捉えると、穏やかな歌にも引き込まれる理由が見えてきます。

時期ごとの背景は、カート・コバーンの歌声の変遷でたどっています。

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