葉月(lynch.)の歌唱には、過去の自分の声と向き合い直す場面が何度もあります。
古い曲を録り直すと、当時と同じビブラートやシャウトがすぐには出てこない。
そこで歌い方を探る過程が、今の声に何が加わり、何が変わったのかを浮かび上がらせています。
lynch.とソロ活動を行き来しながら、どのように声の表現を広げてきたのでしょうか。
本人が語った録音の工夫と、過去曲の再演からたどります。
lynch.「QUARTER LIFE」公式音源(2025年の再録版、配信は4月30日)。
2011年、低いデス声も、シャウトも、ファルセットも歌いたかった
メジャーデビュー作『I BELIEVE IN ME』を発表した2011年、葉月は、さまざまな声を使う理由を尋ねられています。
その答えは、低いデス声も高いシャウトも、きれいなファルセットも、全部好きで全部やりたいというものでした。
lynch.「I BELIEVE IN ME」公式MV(2011年)。
後から歌える声を増やしてきた一方で、幅広い声を使いたいという志向は、この時点ですでに明確でした。
激しい声と旋律を歌う声の両方を、自分の音楽に置いておきたい。
この姿勢が、その後の試行錯誤の出発点になっています。
もっとも、思い描いた歌が、録音すればそのまま形になったわけではありません。
同作の「UNTIL I DIE」では、曲ができたはずなのに、実際に歌うと印象が変わってしまったと振り返っています。
ミックスの最終段階まで何度も歌を録り直し、終わったときには心から安心したそうです。
多彩な声を持っていても、その曲に合う歌を見つけるには試す時間が必要でした。
lynch.「UNTIL I DIE」公式音源(2011年『I BELIEVE IN ME』収録、2016年投稿)。
2020年「EROS」、低い歌とファルセットを重ねる
2020年のアルバム『ULTIMA』には、声の組み合わせを工夫した「EROS」があります。
葉月は、静かに歌いたい曲の雰囲気を守るため、低く歌った声にファルセットを足したと説明しています。
lynch.「EROS」公式音源(2020年)。
一つのメロディーをどう歌うかに加え、異なる声をどう重ねるか。
本人が実験的な作り方だったと振り返ったこの録音には、歌の表情を作る方法を広げようとする姿勢が表れています。
2020年のソロ録音、クラシック編成にも激しい声を持ち込む
同じ年のソロ作『葬艶-FUNERAL-』では、バンドとは違う楽器の響きの中でも、自分の声をどう生かすかを探っていました。
この作品には、lynch.の「PHOENIX」「D.A.R.K.」などのセルフカバーも収められています。
葉月「PHOENIX」公式MV(2020年ソロ作『葬艶-FUNERAL-』収録版)。
Real Soundの取材で本人が振り返ったきっかけは、2018年の公演「奏艶」にティンパニを取り入れたことでした。
その迫力を生かすアレンジを作り、さらに音源では、ライブで使わなかったシャウトも加えたと説明しています。
シャウトを入れるかどうかは迷ったそうです。
曲の邪魔になるのではないかとエンジニアに相談し、入れたほうがよいと背中を押されました。
実際に加えると、静かなバラードを想像しがちな編成でも、こんな表現ができるのかという発見があったといいます。
低い歌に裏声を重ねた「EROS」と、クラシック編成に激しい声も持ち込んだソロ録音。
2020年の二つの仕事では、声を置く場所と組み合わせ方を変えることで、表現が広がっていました。

画像出典:Real Sound
2023年「CRYSTALIZE」、昔のビブラートを再現しないという選択
2013年のシングル『BALLAD』に収録された「CRYSTALIZE」は、2023年のソロ作『蓮華鏡』で再び録音されました。
同じ曲の歌い方の変化を考えるうえで、手がかりになる2つの音源です。
lynch.「CRYSTALIZE」公式音源(2013年のバンド版、2019年投稿)。
葉月「CRYSTALIZE」公式音源(『蓮華鏡』収録の2023年ソロ版)。
葉月は、以前と同じ箇所、同じ速さでビブラートをかけようとしても、歌いづらかったと明かしています。
最初は、原盤と同じように歌うべきなのかと思っていたそうです。
そこから、伴奏も違うのだから無理に再現しなくてよいと考え、現在の歌い方を選びました。
過去の録音へ合わせることから、今回の曲に合う歌を見つけることへ、判断が変わったのです。
この頃は、もっと上手くなりたいと技術を研究する一方、考えすぎて以前は自然にできたことまで崩してしまったと、本人は振り返っています。
2022年のツアーでは、公演中に声を出せなくなり、一度曲を止めて舞台の後ろへ下がったこともありました。
翌日も公演がある中で、実際に声を出して確かめ、気づいた要点を紙に書いて床に貼って臨んだそうです。
2023年の取材では、基本を捉え直したことで声を扱いやすくなったという手応えを語っていました。
昔の歌い方をそのまま取り戻すことと、今の歌をよくすること。
両方に向き合っていた時期だったことが分かります。
2024年「MOONLIGHT SLAVE」、口の形から新しい表情を探す
ロックを軸にしたソロプロジェクトHAZUKIでは、2024年に2ndアルバム『MAKE UP ØVERKILL』を発表しています。
収録曲「MOONLIGHT SLAVE」で取り組んだのは、それまでとは異なる歌い方でした。

画像出典:画像掲載元
HAZUKI「MOONLIGHT SLAVE」公式音源(2024年)。
本人は、口の形のわずかな違いも試し、レトロな歌い方を研究しながら録音したと説明しています。
ソロ活動で増えた自由を、実際の声の出し方にもつなげていたのです。
2025年の再録、今の技術で昔のシャウトを探し直す
2025年には、初期作品を新たに録音した『GREEDY DEAD SOULS / UNDERNEATH THE SKIN』が発売されました。
冒頭で紹介した「QUARTER LIFE」も、この再録作に収められています。
葉月にとって、当時のシャウトを再現するのは簡単ではなかったそうです。
試行錯誤する中で、現在と昔では声を鳴らす際の感覚が違うと気づき、そこから当時らしい質感を狙えるようになったと語っています。
旋律を歌う部分も、昔の顔の力の入り方を試すと、当時に近づいたと振り返りました。
2023年の「CRYSTALIZE」では、今の伴奏に合わせ、原盤どおりに歌うことを手放していました。
一方、この再録では、声の感覚を探り、当時らしい質感も意図して選んでいます。
古い曲を歌うときの答えは、毎回同じではありません。
どの曲を、どんな形で残すかによって、昔の声へ近づくことも、今の声で歌い直すこともあるのです。
ここには、磨いてきた技術を持って、初期に使っていた質感にも向き合い直す面白さがあります。
新しい声を探すソロ活動と、古い歌い方を探り直す再録音。
その両方が、葉月の歌唱表現を広げてきました。
低い歌と裏声の重ね方や、シャウトの質感の違いは、葉月の歌い方で具体的に見ていきます。

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