立花琴未は、自分の地声は低いと話している。
その声で高音をどう歌うかに取り組む一方、ライブでは、物憂げに響かせる場面も、観客へ強く呼びかける場面も記録されている。
高さ、声の通り方、言葉の表情。
本人の説明と具体的な公演の記録を合わせると、立花の歌い方をいくつかの角度から捉えられる。
「倍倍FIGHT!」の公式ミュージックビデオ(2025年公開)。
低い地声から、高音をどんな声で出すか
2024年のB.L.T.webの取材で、立花は、普段の話し声についても、その場では少し高くして話していると明かしていた。
本人が課題にしていたのは、高音で裏声になってしまうことだ。
そこで先生に教わり、地声で高音を出すために練習した。
続けるうちに、意識せずにその声が出せるようになったという。
ここでいう地声と裏声は、立花自身が練習の感覚を説明するために使った言葉である。
本人が欲しかったのは、高い音でも地声と感じられる歌声を保つことだった。
そのため、低い話し声だけを聞いて、高音の歌い方まで決めつけることはできない。
この説明で注目したいのは、高音をどの声で歌うかを、本人が具体的に意識していたことだ。
高い音があることと、それを自分の出したい声で歌えることは、同じ課題ではない。
立花の発言には、高音を歌うときに感じていた難しさと、練習で得た手応えが表れている。
「倍倍FIGHT!」の落ちサビと、「必殺あざとポーズ」の台詞
声の表情を考えるうえでは、歌う箇所による違いも面白い。
2024年11月14日、白金高輪SELENEb2での公演を取材した竹内伸一は、Pop'n'Rollのレポートで、立花の歌を具体的に取り上げている。
「倍倍FIGHT!」については、落ちサビで、アンニュイな、つまり物憂げな歌声を聴かせたと評した。
軽快で楽しい曲の中に、そうした表情を持つ箇所があったという記録だ。
落ちサビは、盛り上がるサビの中でも伴奏や勢いを一度抑えて聞かせる部分で、そこで前に出る一人の声は印象に残りやすい。
同じ公演の「必殺あざとポーズ」では、可愛らしく歌う姿に加え、立花が台詞を可愛く決めた場面も報告されている。
その台詞をきっかけに、それまで以上の歓声が起こったという。
メロディから一度離れて話しかける短い箇所にも、観客を引きつける見せ場があった。
2024年11月14日、白金高輪SELENEb2公演の公式ライブダイジェスト。
メロディを歌う部分と、言葉を台詞として届ける部分。
歌声の高さに加え、どんな調子で言葉を相手に渡すかにも、曲の表情は現れる。
この二曲は、立花の声を、ひとつの音色だけで捉えないための具体例になる。
慣れた曲を、違う言葉でも歌えるようにする
言葉の扱いを考えるとき、2025年の伊右衛門のCMで歌った、古語版「キス・ミー・パティシエ」も興味深い。
デビュー曲の歌詞を古語へ置き換え、原曲を作ったクボナオキが和楽器を取り入れて編曲した特別版である。
いつもの曲を知っているからこそ、覚えた現代語の響きから離れ、新しい言葉を同じ歌の中へ入れる必要があった。
BEEEEMが掲載した撮影エピソードには、慣れない言い回しにメンバーが苦戦し、励まし合いながら歌えるようになっていった様子が記されている。
これはグループ全体の記録だが、立花自身も、学校で習った古語が出てきたことや、みんなで早く覚えた箇所があったことを話していた。
聞き手にも、歌詞を覚えて一緒に歌ってほしいと呼びかけている。
歌い慣れたメロディであっても、言葉が変われば口にする音の並びは変わる。
この仕事では、曲への親しみと、初めての言葉を覚える作業が重なっていた。
高音をどんな声で出すかという課題に、歌詞を迷わず運ぶための準備を重ねて考えられる例だ。

画像出典:画像掲載元
「君もゾンビですか ゾンビですね」、観客の声を引き出す歌
一方、強く呼びかける歌い方が記録されているのが、「君もゾンビですか ゾンビですね」だ。
2025年2月1日、Veats Shibuyaで行われた公演でも、竹内が立花の歌声に触れている。
「君もゾンビですか ゾンビですね」の公式ミュージックビデオ(2024年公開)。
そのレポートによると、立花が呼びかけの言葉を叫ぶように歌うと、会場からさらに大きな声が上がった。
歌が、客席の反応を引き出す場面として記されている。
この日は同曲が最初の曲だった。
エレクトロスウィングの曲調に乗せたクールな表情と、会場の声を引き出す呼びかけが、ひとつの曲の中で組み合わされていたのである。
終盤の盛り上がりを引き継ぐだけでなく、ライブの始まりから客席に参加を促す役割を担っていた。
台詞を反復する準備と、客席へ向ける意識
短い言葉を確実に口にするための取り組みは、歌以外の現場でも語られている。
2026年のルルダイレクトS錠のCMでは、メンバーが薬の成分名などを早口で話す企画に挑んだ。
リアルサウンドに掲載されたインタビューで、立花は、成分名の末尾に出てくる言葉の並びに苦戦したことを明かしている。
その際は、何度も繰り返して練習し、撮影開始を告げられる直前まで、頭の中でも唱え続けたという。
普段使わない言葉を、考えながら一度読むだけでは終わらせず、本番で口にできるまで反復していた。
これは早口の台詞を収録したときの話だが、「必殺あざとポーズ」のように歌と台詞が隣り合うパフォーマンスを考えるうえでも、立花の準備の姿勢が見える。
声に表情をつける以前に、届ける言葉を自分の中に入れておく作業がある。
さらに、2026年のsmartの取材では、自分を見に来てくれたファン全員と、少なくとも一度は目が合ったと感じてもらえるように工夫していると話した。
声だけを整えて完結するのではなく、誰に向けて歌っているのかを、視線でも伝えようとしている。
短い担当パートの中でも、聞き手に自分への呼びかけだと感じてもらうことを大切にしているのだろう。
先の白金高輪SELENEb2公演のレポートにも、歌いながら自分のメンバーカラーのサイリウムを見つけ、うれしそうに視線を送る姿が記されていた。
本人が語る意識と、公演で取材者が見た振る舞いが、ここではつながっている。
可愛い台詞や強い呼びかけは、その場の客席とのやり取りの中に置かれているのである。
落ちサビの物憂げな表情、台詞の可愛らしさ、観客へ投げかける強い声。
これらは、曲や場面ごとに声が担う役割の違いでもある。
高音を出すための取り組みと合わせて考えると、立花の歌い方には、声を出せるようにする工夫と、その声でどう言葉を届けるかという表現があることが分かる。
歌への不安を抱えていた時期から、グループの外で別の表現にも挑むまでの流れは、立花琴未の歌唱変遷でたどっている。

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