トビアス・フォージ(Ghost)の歌声の変遷|仮歌から始まった声が、自分の響きを選ぶまで

トビアス・フォージ(2023年公開のNME取材掲載写真/撮影:Harry Herd/Redferns) シンガー
トビアス・フォージ(2023年公開のNME取材掲載写真/撮影:Harry Herd/Redferns)

トビアス・フォージは、Ghostではリードギターを弾くつもりだった。
デモに入れた自分の歌は、曲を説明するためのもの。
ところが歌手が見つからず、歌い直して残したのは、彼自身の声だった。

その声でデビューした後も、歌い手としての歩みは続く。
音域を広げた時期を振り返り、やがて自分の声をどう重ねれば生きるかを語るようになる。
仮歌を引き受けた歌い手が、自分の響きを選ぶまでをたどりたい。

「Cirice」の公式ミュージックビデオ(2015年公開)。

2010年、別の歌手を探していたデビュー作

Ghostのデビューアルバム『Opus Eponymous』は、2010年に発表された。
フォージは後年、アルバム制作の最終段階まで、バンドの歌手を探していたと明かしている。

2006年から2010年まで、自分がリードギタリストになるという考えは変わっていなかった。
デモの声も、次に歌う人へ曲を説明するために入れていたという。

結局、別の歌手は見つからなかった。
フォージは、よりよいテイクを録るために歌い直し、自分の歌を残した。
説明役だった声を、自分で完成させることになったのである。

『Opus Eponymous』収録曲「Ritual」のレーベル公開音源(原盤2010年/2011年公開)。

2015年、『Meliora』から広げ始めた声域

自分の声が作品に残ったからといって、その時点で歌い手としての可能性が決まったわけではない。
2025年のChaoszineの取材で、フォージは、『Meliora』で本格的に声域を広げ始めたと振り返っている。

『Meliora』は2015年の3作目で、「Cirice」を収めたアルバムだ。
デビュー作の声を引き受けた後も、歌える幅を広げる過程があったことが、本人の回想から分かる。

歌い手としての歩みを語るChaoszineの公式インタビュー(2025年公開)。

約700公演を経て、Ghostを歌う人になる

フォージにとって、Ghostは初めて歌ったバンドではない。
2020年の取材でも、以前から歌っており、歌うこと自体を嫌っていたわけではないと話している。
思い描いていたのは、ギターを弾きながらバックコーラスを歌う立場だった。

その自分像を変えていったのが、実際に歌い続けた時間だった。
当時までに700回近い公演を重ね、ギターを弾く夜より歌う夜が増えたことで、歌い手として上達したと振り返っている。
それでも、自分の声はまだ探している途中だと答えた。

Ghostの歌手として何ができるかは、公演を担う中で身につけてきたものだった。
デビュー作で自分の声を残す判断の後に、その声で観客と向き合う長い実践が続いていたのである。

2017年の米国公演を収めたライブアルバム『Ceremony and Devotion』には、初期の「Ritual」も入っている。
デビュー作のスタジオ録音から、観客の前で歌い続ける曲へと、その一曲も歩んできた。

「Ritual」――『Ceremony and Devotion』収録の公式ライブ音源(2017年米国公演)。

Ghost(2020年のUnder The Rockies本人取材に掲載された写真/撮影:Mikael Eriksson)。
Ghost(2020年のUnder The Rockies本人取材に掲載された写真/撮影:Mikael Eriksson)。
画像出典:Under The Rockies

2022年、歌と楽器、制作全体の役割を選ぶ

歌を担い続ける一方、作品全体を作る役割も変わっていく。
2022年には、アルバムごとに演奏の分担が異なり、自分で多くを弾く場合も、ほかの人を迎える場合もあると説明していた。

理由の一つは、制作時間の現実だった。
ギターを長時間弾き、続けてベースを録り、さらに歌とプロデュースも行う。
すべてを限られた日程へ詰め込むことはできない、と話している。
それでも曲作りやデモでは、ほとんどのパートを一度は自分の手で形にしていた。

ここでの分担は、曲を他人任せにする話ではない。
曲全体を把握したうえで、完成させるために誰が何を担うかを選んでいたのだ。
初期に別の歌手を探していた人が、今は自分の歌も含めた制作全体を組み立てている。

トビアス・フォージ(2022年公開のMyTouché Blog取材掲載写真/撮影:Ryan Chang)
トビアス・フォージ(2022年公開のMyTouché Blog取材掲載写真/撮影:Ryan Chang)。
画像出典:画像掲載元

2025年、自分の声に合う響きと、歌の新しい表情

2025年の『Skeletá』の時期には、声を重ねることを、自分の声に合う方法として語っている。
Metal Hammerの取材で、自分のタイプの声は、ハーモニーを多重録音したほうがよく響くと説明していた。
歌える幅を増やすことと、その声に合う響きを選ぶことが、本人の言葉には表れている。

別の声を目指す気持ちがあっても、自分がほかの歌手のように歌えるわけではない。
そう捉えたうえで、自分の声が映える方法を選んでいるのである。

トビアス・フォージが演じるPapa V Perpetua(2025年公開のMetal Hammer取材掲載写真/画像:Press)
トビアス・フォージが演じるPapa V Perpetua(2025年公開のMetal Hammer取材掲載写真/画像:Press)。
画像出典:画像掲載元

その声で何を歌うかにも、本人の意図があった。
『Skeletá』を説明した際には、人が立ち直ることや、互いにも自分にも少し優しくなれる社会への希望を、作品の主題として挙げている。
また、自分たちがまだ持っていない曲を作りたいとも話していた。
経験が増えても、新しい一曲の答えが自動的に出るわけではないという。

こうした作品の中で、聴き手が新鮮に受け取った歌の表情もある。
個人ブログ「Who Is Sam Lewis?」のアルバム評では、最後の「Excelsis」での歌を、心のこもったものとして捉えていた。
普段はフォージの歌にあまり結び付けない、感情の豊かさを受け取った、という感想だ。

『Skeletá』収録曲「Excelsis」の公式音源(2025年公開)。

同年のツアー準備でも、役割を分ける選択があった。
舞台演出を二人の協力者と作ることで、すべての演出を一人で担う負担が減り、自分のパフォーマンスへ力を注ぎやすくなったと取材で語っている。
自分の声の使い方に加え、舞台でその声を届けるための環境も整えていた。

2025年「Bark at the Moon」、歌える高さと、歌いやすい高さ

自分の声に合う条件を考える姿は、別の人の曲を歌った後にも現れる。
2025年7月5日、バーミンガムで開かれた「Back to the Beginning」で、フォージはオジー・オズボーンの「Bark at the Moon」を歌った。

同年10月、本人はこの舞台を振り返り、リハーサルで一音下げて歌うことを提案していたと明かしている。
原曲のキーでも歌えるが、下げたほうが自分には合い、余裕を持って歌えると考えたためだ。
ただ、共演者の一人から楽器の都合で変更を避けたいと言われ、原曲の高さで臨んだ。

公演後には、キーを下げる希望をもっと通してもよかったと感じていた。
同時に、その日は自分が主役ではなく、ブラック・サバスとオジーのための舞台だったとも話している。

声域を広げた先でも、曲に合う条件を選ぶ判断は続く。
歌える音に届くことと、一曲をより余裕のある状態で届けることは、それぞれに考える必要がある。
フォージは自分の声を引き受けた後も、歌う曲や共演の条件に合わせて、その声をどう使うかを考え続けていた。

仮歌として説明していた旋律を、自分の声で担う。
そこから音域を広げ、声を重ねる方法を選び、曲の中に異なる表情を作る。
フォージの変遷は、自分が歌うことを引き受けた先に、自分の声を生かす選択を重ねてきた歩みとして見えてくる。

同じ旋律を重ねる録音や、別の歌手と声を合わせた例は、トビアス・フォージの歌い方で取り上げている。

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