IUの歌い方|柔らかな高音と、日本語の発音・ビブラート

IU(2020年「W Korea」掲載写真) IU
IU(2020年「W Korea」掲載写真)

「Truth」では、高い主旋律を繊細に優しく歌う。
「You & I」の日本語版では、一つの発音にも時間をかける。
IUが語った録音時の工夫には、声の高さ、言葉の響き、ビブラートの選び方が重なっています。

『Can You Hear Me?』収録「Truth」(2013年)の公式音源。

「Truth」は、高い主旋律を繊細に歌う

2013年の日本オリジナル・ミニアルバム『Can You Hear Me?』に収録された「Truth」では、IUは、メロディと言葉の美しさを、繊細に優しく表現するよう努めたと話しています。
高い音を含む主旋律でも、この曲では柔らかさを選んでいました。

同じ高い音でも、その曲で何を伝えたいかによって、選ぶ表現は変わります。
高音を歌えることと、その高音をどう響かせたいかは、分けて考える必要があります。

主旋律の後ろにも、自分の声を重ねる

『Can You Hear Me?』の「Beautiful Dancer」では、前に出る歌だけでなく、背後のコーラスにもIU自身の声が使われています。
2013年のオリコンの取材で、IUは、この曲のような王道のR&Bを歌う経験が初めてで、当初は表現に戸惑ったと話していました。
曲を受け取った段階から、いつもの歌い方でそのまま対応できたわけではなかったのです。

しかもコーラスをすべて自分で録るため、長時間歌い続けることになりました。
途中では別の人に任せたい気持ちにもなったものの、仕上がりを聴いて、最後まで自分で歌ってよかったと感じたと振り返っています。
その場で一度歌えれば完成する録音ではなく、声を何層にも重ねて作品を作る経験でした。

IUの歌を聴くときは、主旋律から少し耳を離し、その後ろで支える声に注目する楽しみもあります。
コーラスまで本人が担当したこの曲なら、前景と背景の両方に、同じ歌い手の表現が置かれているのです。
一人の歌声が、録音の中では複数の役割を担っています。

日本語の歌は、発音とビブラートの場所まで作り込む

2012年の「You & I」の日本語版で、IUが時間をかけたと話しているのが、「つ」の発音でした。
日本のリスナーに、外国人が歌っていると意識されないようにしたいという思いがあり、録音では特に発音へ注意を向けたといいます。

「You & I」の日本語版MV(2012年)。

翌2013年の『Can You Hear Me?』でも、日本語での表現を細かく確かめていました。
デモの歌を参考にし、日本のスタッフと相談しながら、どのように歌うかを探ったと話しています。
その指示は、ある箇所でビブラートが必要かどうかというところにまで及んでいました。

一つの音をどう発音し、どこで声を揺らすか。
日本語で歌うIUは、そうした細部も、曲の表現として作り込んでいます。

IU(2012年「CDJournal」掲載写真)
IU(2012年「CDJournal」掲載写真)。
画像出典:画像掲載元

声を大きく広げる曲と、軽やかに切り替える曲

繊細な表現に加え、大きな伴奏の中で感情を押し出す歌も、IUの重要な一面です。
2021年の『LILAC』に収録された「My Sea」について、NMEのSofiana Ramliは、弦楽器や合唱を背景に、感情を明瞭に伝える力強い歌唱を評価しています。
終盤の高音も、単に高さを示す見せ場ではなく、親密な弱さと壮大さを共存させる表現として捉えていました。

「Truth」でIUが語った優しい高音と、この「My Sea」の歌唱評を並べると、高音という一語では収まらない違いが見えてきます。
音が高いか低いかに加え、伴奏がどのように広がり、歌がどの感情を担っているかも、聴きどころになります。

対照的に、一曲の中で声の表情を次々に変える例が、2024年の「Holssi」です。
Soompiの作品紹介では、ドラムとベースを土台に、しなやかなR&Bの歌、自由で自信のあるラップ、童謡のような素朴な歌い方を行き来すると説明されています。
ここでは、一つの強い声で曲を貫くことより、場面ごとの軽やかな切り替えが特徴として挙げられています。

R&Bの旋律を歌うときと、ラップで言葉を運ぶとき、素朴な歌い口を見せるときでは、声に求められる表情が違います。
「Beautiful Dancer」で本人が語ったR&B表現への戸惑いも思い合わせると、曲の形式に応じた歌い方を選ぶことの重要さがわかります。
柔らかい声という印象の内側にも、いくつもの歌の性格があります。

「Love wins all」は、歌そのものが盛り上がりを作る

「Love wins all」では、一曲を通じた感情の高まりが大切になります。
Melonに掲載された作品紹介では、簡素なピアノの導入から大きな終結部へ進み、後半に向けて歌も激しさを増す構成が説明されています。
伴奏の規模と歌の表現が一緒に広がる、起伏のあるバラードです。

The Bias Listのレビューでも、静かな雰囲気の中に声の幅があり、華やかな高音が印象を残すと評価されています。
特に興味深いのは、弦楽器の盛り上がりだけに頼るのではなく、IUの歌が曲を前へ動かしているという指摘です。
伴奏が大きくなったから盛り上がるのか、歌の変化が気持ちを引き上げるのか。
その両方を分けて聴くと、歌唱が担っている役割を意識できます。

IU自身もMelonの短いインタビューで、この曲を初めてライブで届ける瞬間を楽しみにしていました。
『The Winning』の曲は、公演会場で聴いたときに力が増すと考えていたのです。
録音の中で組み上げた感情を、観客のいる場所へどう運ぶかという視点もあります。

声の違いを生かす共演と、ギターで届ける歌

自分だけでコーラスまで録った「Beautiful Dancer」とは別の作り方をしているのが、『The Winning』の「Shh..」です。
2024年のMarie Claire KoreaでIUは、この曲に世代の異なる女性歌手の声を集めたと説明しています。
IU、HYEIN、チョ・ウォンソンが、それぞれ異なる女性との関係や感情を担う曲でした。

HYEINの録音では、本人の解釈を聴きたかったため、事前に細かな意見を伝えなかったと話しています。
また、以前から敬愛していたチョ・ウォンソンの声のトーンも、作品へ取り入れたいと考えていました。
すべてをIUの歌い方へ近づけるのではなく、他の人の声や解釈が入ることで成立する歌を作っています。

一方、声を身近に感じさせる舞台の例もあります。
2024年のロンドン公演を取材したKpopWiseは、IUがアコースティックギターを手に、コリーヌ・ベイリー・レイの曲を歌った場面を伝えています。
観客が静かに聴き入り、その柔らかな歌声が会場へ広がったという報告です。

大きな編成の中で感情を高める歌と、ギターとともに近い距離感で届ける歌。
どちらでも、IUの柔らかさは同じ役割を果たしているわけではありません。
発音やビブラートの細部から、声を重ねる録音、共演者との違いまで見ることで、曲に応じて歌を作る姿が伝わってきます。
高音への挑戦から、低い声の使い方や歌唱の学び直しへ進んだ歩みは、IUの歌唱変遷でたどっています。

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