テヨンの歌声には、繊細に聴かせる場面と、大きく感情を動かす場面があります。
その違いを考える手掛かりになるのが、裏声と地声の行き来、言葉を誰に向けるかという本人の説明と、録音で声を重ねる過程への記名評です。
アルバム『INVU』の三曲を軸に、ほかの作品での表現も交えながら、声の強さと細やかさをどう組み合わせているのかをたどります。
「Some Nights」公式Live Clip(2022年7月公開)。
歌詞を自分の言葉として届けるために
声の強弱を選ぶ前に、テヨンは歌の感情を理解することを大切にしています。
PAPERの取材では、聴き手に共感してもらうのと同じように、自分自身も曲へ共感できる必要があると説明しました。
実際の経験や、それに似た状況とのつながりを見つけることで、感情を十分に表せるという考えです。
NYLONには、歌詞を現実の場面で口にしているように歌うとも話しています。
この姿勢は、どんな声を出すかだけでなく、その言葉をどんな気持ちで言うかを考える手掛かりになります。
同じ強い言葉でも、相手に訴えるのか、自分を納得させるのかで、必要な表情は変わるからです。
さらに『INVU』では、鋭い感情から深い傷まで、分かりきった形にせず、神秘的な感触で表したかったとNYLONに語りました。
悲しいから常に悲しげに、強いから常に大きく歌う、という単純な対応に収まらないのです。
曲の人物が抱える複数の感情を、声の質感と、言葉の向け方に分けて追うと、テヨンの細やかさが見えやすくなります。
「Some Nights」では、裏声と地声を行き来しながら芯を残す
「Some Nights」は、テヨンがアルバム録音について具体的に話している曲です。
2022年の発表会では、感情を豊かに表すために裏声を多く使い、高いところで裏声と地声を行き来したと説明しています。
繊細でありながら、しっかりした感じのR&Bバラードというのが、本人の捉え方でした。
ここで面白いのは、裏声を多く使うことと、歌の芯を残すことが、一緒に目指されている点です。
声を強く出すか弱く出すかだけで考えると、この二つは見落としやすくなります。
声の質感を切り替えながら、曲の感情が途中で途切れないように届ける、という聴き方ができます。
冒頭の動画は、同年7月に公式公開されたLive Clipです。
アルバムの録音談を手掛かりに、こちらの歌唱では声の質感がどうつながるかを追ってみてください。
「INVU」では、受け入れる言葉と、相手へ求める言葉を演じ分ける
「INVU」の録音では、歌詞を伝えるために、ミュージカルのように演じる感覚で歌ったとテヨンは話しています。
録音ブースにカメラがあれば、表情の演技まで見えたはずだというほどでした。
「INVU」公式MV(2022年)。
本人が挙げたのは、自分の愛はこういうものだと受け入れる部分と、それでも相手にこうしてほしいと伝える部分です。
同じ人物の言葉でも、自分に向けるのか、相手へ差し出すのかでニュアンスを変えていました。
高音も、その物語をより劇的に感じられるように工夫したといいます。
この説明を知ると、高い音が出る瞬間だけでなく、そこへ至る言葉の向かう先にも耳を向けたくなります。
感情を一曲の間ずっと強く押し出すのではなく、言葉ごとの立場や表情があって、その中に高音が置かれているのです。
PAPERの取材では、愛に傷ついた人物を、弱い存在としてだけ描きたくなかったとも説明しています。
戦士を思わせる強さをイメージし、粘り強さを伴う感情を表そうとしていました。
傷ついていることと、相手へ向かう力があることが、同時に歌の中にある。
高音を劇的にするという選択も、その複雑な人物像と合わせて考えると、意味のある見せ場として捉えられます。

画像出典:画像掲載元
「Siren」では、低い声から高い声まで重ねて響きを作る
「Siren」の録音に注目したのは、音楽批評媒体Idologyの評者マノです。
公式の録音舞台裏映像を取り上げ、サビで低い声から高い声までを重ね、豊かなハーモニーを作っていく場面が印象に残ったと書いています。
「Siren」公式レコーディング舞台裏映像(2022年)。
ここでは、一人が一度に大きな声を出すこととは別の方法で、歌の厚みが生まれています。
異なる高さの声を別々に録り、組み合わせることで、一人の歌声からハーモニーを作る。
主旋律を歌うときと、それを支える声を録るときの役割に注目すると、完成した曲の響きを別の角度から捉えられます。
「What Do I Call You」「To. X」では、抑えた声にも感情がある
大きく展開する『INVU』の曲と比べたいのが、感情を抑えて届ける歌です。
Weverse Magazineでキム・ヒョジンは、「What Do I Call You」を、別れの感情を外へ放つより、内側に留めて歌う表現として捉えています。
相手との関係をどう呼べばよいかという問いを、自分の行動を決める問いとして読んだ評です。
同じ書き手は「To. X」についても、関係を終える決断を、淡々と歌う点に注目しています。
ここでは、悲しさの大きさを、そのまま声の大きさに置き換える必要はありません。
心を整理しようとする言葉には、あえて落ち着いて話すような表情が似合うこともあります。
「INVU」で相手へ求める言葉と、この二曲で距離を取ろうとする言葉。
歌詞の人物が何をしようとしているかを比べると、声を抑えることも積極的な表現なのだと分かります。
穏やかに聞こえる部分でも、感情が薄いのか、感情を表に出さない人物なのかを考えると、聴こえ方は変わってきます。
「Letter To Myself」は、自分への言葉を自然に歌う
自分自身へ歌う曲では、さらに別の距離感が生まれます。
「Letter To Myself」についてテヨンは、自分へのメッセージだからこそ、深刻になりすぎたり、気恥ずかしい表現になったりしないよう、自然に届けたかったと説明しました。
大切な内容を歌う時にも、その重さをどれくらい前面へ出すかを選んでいたのです。
この意図を「INVU」の演じ分けと比べると、表情を大きく見せる場面と、身近な言葉として届ける場面の違いが見えてきます。
「Letter To Myself」では、声が強まる部分だけでなく、その前後にどんな言葉が置かれているかにも目を向けたいところです。
自分に言い聞かせる気持ちが一曲をどうつないでいるかを追うと、高音の印象に加えて、歌全体の親密さを考えられます。
「Some Nights」では声の質感をつなぎ、「INVU」では言葉の立場を変え、「Siren」では声を重ねて響きを作る。
テヨンの歌い方を考えるときは、どれほど強い声が出るかに加え、その強さや繊細さを一曲のどこに置くかまで見ると、表現の具体像が浮かびます。
初期の声からソロでの表現までの歩みは、テヨンの歌声の変遷でたどっています。

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