ジェイムズ・ラブリエ(Dream Theater)の歌い方|皇帝も王女も、一人の声で歌う

ジェイムズ・ラブリエは、伴奏に合わせて思いきり歌えそうな場面で、歌い方を考え直したことがあります。
歌っていたのが、自分の気持ちをそのままぶつける歌ではなく、物語の中の女性の役だったからです。

2016年のDream Theaterのアルバム『The Astonishing』では、ラブリエが複数の登場人物を一人で歌っています。
音楽を作る人間がいなくなり、機械が音楽を生み出す未来。そこで人の心を動かす歌い手が現れ、帝国と対立する物語です。
ラブリエは、歌う主人公も、権力を握る皇帝も、その娘も演じます。

高い音が出るだけでは、この違いは伝わりません。
同じ声の持ち主が、いま誰の言葉を歌っているのか。その区別をどう作るかが、この作品での彼の課題でした。
「Lord Nafaryus」では、その皇帝の言葉を歌っています。

強く歌える場面でも、強く歌うとは限らない

ラブリエは、王女フェイスの場面を歌っていたときの判断を説明しています。
伴奏だけを聴けば、荒い声やうなるような声で、もっと激しく歌うこともできた。
けれど、それではその場面の彼女を表せないと考えたのです。

これは、女性役だから高い声にすればよい、という単純な使い分けではありません。
ラブリエが最初に考えたのは、その人物が何を感じ、誰にどう接しているかでした。
歌詞の意味と、そのときの気持ちをつかんでから、声の勢いや表情を決めています。

たとえば、相手を威圧したい人物と、相手を信じたい人物が、同じ強さで言葉を押し出すとは限りません。
音楽が盛り上がったからといって、登場人物まで一緒に強気になるとは限らないのです。
ラブリエは、伴奏に乗って気持ちよく歌うことより、その人物の言葉として通じることを優先しました。

2017年、バーミンガム公演でのジェイムズ・ラブリエとジョン・ペトルーシ
2017年、バーミンガム公演でのジェイムズ・ラブリエとジョン・ペトルーシ。写真:kitmasterbloke / CC BY 2.0

声を変える前に、誰を歌うのか決める

このアルバムの物語と歌詞を書いたのは、ギタリストのジョン・ペトルーシです。
ラブリエは、自分で作った人物を自由に演じたわけではありません。
まずペトルーシから、登場人物の声をどう思い描いているか、方向を受け取っています。

そのうえで、エンジニアのリチャード・チキと録音しながら歌い方を試し、ペトルーシへ送って意見を交わしました。
人物の設定を教わることと、実際にその人物が歌う声を作ることは、別の作業だったのです。

ラブリエ自身も、まったく別人の声になるというより、抑揚や声の質感を変えて演じ分けると説明しています。
同じ人の声でも、言い切るときと、ためらうときでは、言葉の聞こえ方は違います。
声の持ち主が同じだと分かったうえで、歌っている人物の違いを聴き取れる。そんな歌を目指していました。

「Act of Faythe」で描かれるのは、皇帝の娘フェイスです。
「Lord Nafaryus」と同じ歌手が、父親とは違う立場の人物を歌っていると知ると、単に声が柔らかいか強いかという以上に、言葉の向かう相手を意識して聴けます。

女性歌手を迎える案もあった

一人で全員を歌うことは、最初から当然だったわけではありません。
ラブリエとペトルーシは、女性の登場人物のために女性歌手を迎えることも相談しています。

ラブリエは一度考えたうえで、自分で歌いたいという結論に戻りました。
歌詞と物語を深く読み込んできた自分なら、それぞれの人物に近づけると考えたのです。
ほかの歌手を途中から迎えた場合、人物への理解が浅いままになるかもしれない、という懸念も語っています。

もちろん、複数の歌手で演じる方法にも、声だけで人物を区別しやすい良さがあります。
ここで面白いのは、ラブリエが声色の種類を増やすことより、一人ひとりの気持ちをつかんだ状態で歌うことを選んだ点です。
女性の声が必要かという相談が、役を誰がどこまで理解しているかという話にもなっていました。

ただし、演じ分けを張り切りすぎれば、わざとらしくもなります。
ラブリエは、感情が信じられる範囲を越えて、大げさな芝居にならないよう気を配ったと話しています。
声を変えたことを聴き手に気づかせるだけでは、歌としての成功にならないのです。

2007年のDream Theater公演で歌うジェイムズ・ラブリエ
2007年のDream Theater公演で歌うジェイムズ・ラブリエ。写真:Henning Ihmels / CC BY 2.5

複雑な演奏の中で、歌が聴き手をつなぎ止める

Dream Theaterでは、楽器の演奏が複雑に入り組むことも珍しくありません。
ラブリエは、その中で歌が入るとき、聴き手と曲を結びつける役割を意識すると話しています。
伴奏と同じように複雑なことをするのが、歌手の仕事だとは考えていないのです。

『The Astonishing』でも、キーボードのジョーダン・ルーデスが喜んでいたのは、ラブリエの穏やかな声から力のある声までを使えることでした。
物語の場面に合わせて演奏の雰囲気が変わり、その中で歌う人物も変わる。
ラブリエの声の幅は、登場人物の違いを伝えるために使われています。

こうした表現の選び方へ至るまでには、若い頃の勢いに満ちた歌も、声の不調に向き合った年月もありました。
その歩みは、ジェイムズ・ラブリエの歌声の変遷でたどっています。

ラブリエの歌い方を知るために『The Astonishing』を聴くなら、声が最も高くなる瞬間だけを待つ必要はありません。
皇帝が歌っているのか、その娘が歌っているのか。強い伴奏の中でも、人物の気持ちは同じなのか。
一人の歌手が自分の得意な歌い方を少し抑えてでも、役に必要な声を選ぶ。その判断に、彼の表現の細かさがあります。

今入れる? 近くで入りやすい飲食店がわかる混雑予報マップ

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました