長年歌っている曲なら、元の録音と同じように歌える。
ジェフ・テイトは、2013年の「Silent Lucidity」の再録音で、そう簡単にはいかないことを知りました。
自分では納得のいく歌を録ったつもりが、オリジナルを聴き直すと、言葉の置き方も旋律の歌い回しも違っていたのです。
ライブを重ねて歌い方が変わったことに、本人は気づいていませんでした。
一方、後年には、公演を続けるため、意識して曲の高さを変えたことも語っています。
テイトの歌声の歩みには、知らずに変わっていた部分と、自分で変えると決めた部分があります。
比較の出発点となる「Silent Lucidity」は、1990年の『Empire』に収められたスタジオ録音です。
2013年、歌い慣れたはずの曲を録り直す
テイトが率いる当時のQueensrÿcheは、2013年の『Frequency Unknown』に、過去の代表曲の再録音を加えました。
レコード会社が求めていたのは、できるだけオリジナルに近い演奏でした。
「Silent Lucidity」を何度か録ったあとで昔の録音を聴くと、テイトは違いに驚きました。
長年のライブで、旋律や言葉を置くタイミング、リズムの取り方を変えていたのです。
本人にとっての「いつもの歌い方」と、レコード会社が求める「オリジナルの歌い方」は、同じではなくなっていました。

最初の録音は、何年も歌い込んだあとの形ではない
テイトの説明では、新曲は何通りもの歌い方を試す前に、そのとき浮かんだアイデアで録音することもあります。
そのあとライブで歌い続けるうちに、歌手の習慣は変わっていきます。
聴き手が繰り返し聴いている録音だけが、その場にとどまっているわけです。
2013年に発表された「Silent Lucidity」の再録音は、こうしてオリジナルを確かめながら作った別のスタジオ版です。
本人が最初に驚いた、昔との違いが大きかったテイクを、そのまま発表したという話ではありません。
年齢による違いを探す前に、昔の形に近づけようとした再録音だと知っておくと、比較の意味が変わります。
2016年、曲が生まれた話も歌と一緒に届ける
過去の曲を歌い直す方法は、同じ伴奏で再録音することだけではありませんでした。
2016年にアコースティック公演の構想を語ったとき、テイトがきっかけとして挙げたのは、アイルランドのコークで聴いた路上演奏でした。
数ブロック離れた場所でも聴こえる勢いに引かれ、近づいてみると、知り合いの奏者がいたのです。
その出会いから、彼らを伴奏に迎えるアコースティック公演の準備が進みます。
編成はアコースティックギター2本に、マンドリン、ヴァイオリン、チェロ。
テイト自身はサックスも吹き、メンバーたちと歌のハーモニーも作る計画でした。
彼が楽しみにしていたのは、演奏を静かにすることより、若い奏者たちの活気と一緒に歌うことです。
公演では、曲が生まれたきっかけや旅先での出来事も話そうとしていました。
曲だけを続けて歌う公演とは違い、その歌を作った人の経験まで観客に伝える場です。
同じ持ち歌でも、前にどんな話をしたか、誰とどんな楽器で歌うかによって、観客が知る背景は変わります。
テイトは声だけで昔との差を作るのではなく、公演の組み立て自体にも手を加えていました。

2022年、連日歌うために半音下げる
曲の高さについては、テイトは2022年に具体的な調整を明かしています。
伴奏のチューニングを半音下げていたのです。
半音は、ピアノで黒鍵も含めて隣り合う鍵盤一つ分の音の差。曲全体が、その分だけ低くなります。
本人の説明で大事なのは、一曲だけ歌う場合と、ツアーで連日歌う場合を分けていることです。
元の高さで一曲だけなら歌えても、夜ごと公演を重ねるのは難しい。
テイトは、録音当時でさえ簡単ではなかった高音を、毎晩歌い続ける負担について話しています。
半音下げることは、バックコーラスを歌う仲間の負担も減らします。
テイト一人が一瞬の高音を出せるかという問題から、歌う人たちが公演を繰り返せるかという問題へ、判断の範囲が広がっているのです。
これは、2013年に気づいた歌い回しの変化とは性質が違います。
ライブを重ねて自然に変わった言葉の置き方と、連日歌うために決めた音の高さ。
どちらも昔の録音との差ですが、生まれた理由を分けて考えると、その時期のテイトが何に向き合っていたのかが見えてきます。
昔の声との違いには、歌い続けてきた理由がある
テイトの歌声の変遷を、高い音が出るかどうかだけで追うと、再録音で本人が驚いた変化を見落とします。
昔の曲を長く歌ううちに変わったのは、届く音の範囲だけではありません。
同じ言葉をいつ歌い始めるか、旋律をどう運ぶかにも、過去の録音とは異なる習慣ができていました。
なお、低い曲なら本人にとって楽とは限りません。
2020年には『Empire』の低い音域を難しいと語っており、その話と「Silent Lucidity」での声の役割は、ジェフ・テイトの歌い方で扱っています。
1990年の「Silent Lucidity」は、何度聴いても同じ歌い方を返してくれます。
歌う本人は、その後も舞台に立ち、別の奏者と演奏し、翌日の公演も考えて調整してきました。
昔の録音へ戻るのに聴き直しが必要だったという話は、それほど長く、一曲を歌い続けてきた人の話でもあるのです。
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