熊谷和海の歌を、大きな声で熱く歌うロックボーカルとして聴いていると、気づきにくい工夫があります。
語尾をどこまで伸ばすか。
歌いにくい言葉をどう直すか。
隣の歌手と声を合わせるとき、自分の高さをどう動かすか。
BURNOUT SYNDROMESの歌は、こうした小さな選択からもできています。
発声の型に名前を付けるより、熊谷自身が録音で何を判断しているかを見ると、声の特徴と曲の関係が分かりやすくなります。
「ヒカリアレ」は、語尾を長く伸ばせば完成するわけではない
「ヒカリアレ」の録音では、繰り返し出てくる語尾を、どこまで伸ばすかが話し合われました。
歌う側が気持ちよいところまで伸ばすことと、聴く人にとって気持ちよい長さは、同じとは限りません。
熊谷が基準にしたのは後者です。
繰り返す言葉だからこそ、一回ごとの長さが、曲全体の印象にも関わってきます。
この曲の神聖なイメージは、熊谷が見た『ハイキュー!!』のビジュアルにも由来しています。
強い相手と向き合う主人公たちの姿に、単なる勝ち負けを越えたものを感じ、聖書の言葉と結びつけました。
声を伸ばす行為にも、曲の中で担う意味があるのです。
聴くときは、声がどれほど長く続くかだけでなく、次の言葉や伴奏にどう渡されるかに注目してみてください。
長く保つ能力と、曲に合う長さを選ぶ判断は、別々の見どころになります。
歌ってみて初めて、言葉の合う・合わないを決める
「世界を回せ」の録音には、歌う声を基準に言葉を選び直す過程が残っています。
歌詞を調整してから一度最後まで歌い、違和感のある箇所を探す。
情景が伝わるか、音として響くかを考え直し、響きがよくても歌いづらければ別の案を試していました。
先に完成した文章へ無理に声をはめるのではなく、実際に歌った感覚を、歌詞にも戻しているのです。
この曲は、ライブでタオルを回せる曲が欲しいという発想もある、勢いのあるナンバー。
その勢いの中で言葉を届かせるために、録音では細かな選び直しを行っています。
熊谷はデビュー当時から、伝えたいことへ向かうAメロやBメロがあり、曲の盛り上がりと言葉の到達点が重なることを大切にしていました。
一語ずつの響きと、一曲を通した進み方。
その両方があって、文学的な言葉が歌として動き始めます。

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太い声と優しい声は、歌う物語によって役割が違う
2018年の「孔雀」ツアーの歌唱では、太くたくましい声と、柔らかく包み込む声の両方が評されています。
とりわけ「斜陽」は、悲しさを帯びながらも優しい声が印象に残る歌唱でした。
「斜陽」で扱うのは、うまくいかない焦りの中で、足元にある幸せを見失ってしまう感覚です。
本人は、ごく個人的な話であると同時に、多くの人が経験することを歌っていると説明しています。
ここで聴きたいのは、悲しい内容だから激しく叫ぶ、という一対一の対応ではありません。
歌の中の苦しさを表す声と、その苦しさを抱える人へ向ける声は、同じ感情でも役割が違います。
「斜陽」を応援歌と並べてみると、熊谷の強さを、音量だけで捉えない聴き方ができるでしょう。
『孔雀』全曲トレーラー(2018年)
デュエットでは、自分に楽な高さだけを選ばない
CHiCOと歌う「Xross Road」では、二人が同じ旋律を歌う部分で、熊谷が少し高めに声を出しています。
CHiCOに力強く歌ってもらうための選択でした。
相手だけの部分ではさらに高いキーにし、自分だけの部分では少し下げる。
二人の得意な高さを一律にそろえず、歌う人が替わるところに合わせて曲を組み立てています。
聴きどころは、高さそのものだけでなく、二人の声が重なるところです。
自分が歌いやすい場所と、相手の声が生きる場所の間で、何を優先するかを決めた例です。
同じ曲の中でも、単独で歌う声と、二人で重なる声は、条件が異なります。
一方、「Good Morning [New] World!」で共演した石崎ひゅーいには、熊谷自身が歌い方の近さを感じていました。
相手との差を調整する共演もあれば、似た声が出会うことで生まれる共演もある。
どちらも、熊谷の声を単独の音色だけで説明しきれない理由になります。

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声の厚みを、すべて喉の働きに置き換えない
「Good Morning World!」の間奏には、オペラ歌手の声を使ったコーラスシンセが入っています。
熊谷は、自分一人で声を重ねるよりも、実際にオペラを歌う人の声を使うほうが求める雰囲気が出る、と説明しました。
壮大に響く声のすべてを、熊谷自身の発声や多重録音だと考えると、曲の作り方を取り違えてしまいます。
そもそも熊谷は、自分の声がバンドの音に埋もれやすいと感じてきた人です。
声が届くかどうかは、本人がどれだけ張るかだけでは決まらず、周囲の音の組み方にも関わります。
歌の芯となる本人の声と、それを囲むコーラスや楽器を分けて聴いてみる。
そうすると、声そのものの強さを評価することと、声が強く印象に残るように作ることの違いが見えてきます。
熊谷は、歌う人であると同時に、その関係を作る人でもあるのです。
最後には、聴き手が一緒に歌えることまで考える
アニメ主題歌について、熊谷は、テレビで一番を知った人が、カラオケで最後まで歌えることを大切にしています。
自分も好きなアニソンを入れたのに二番以降が分からない、という経験があったからです。
短い放送版だけを知っている人にも、フルサイズの歌を楽しんでほしい。
作り手の複雑な表現と、聴き手が歌へ参加できる分かりやすさを、一緒に考えています。
2018年の「ハイキュー!! 頂のLIVE」では、「FLY HIGH!!」に大合唱と手拍子が返り、熊谷は歌の途中で感謝を伝えました。
磨いた声を客席へ届けるだけでなく、返ってくる声を受け取りながら歌う場面です。
熊谷和海の歌を追うなら、「ヒカリアレ」の語尾、「世界を回せ」の言葉、「Xross Road」の二人の声を、同じ尺度だけで比べないこと。
何を届けたい曲なのかによって、声を保つ長さも、言葉も、相手との位置関係も変わります。
その細かな判断の積み重ねが、熱さの中に違う表情を生んでいるのです。
こうした選択が増えてきた経緯は、熊谷和海の歌声の変遷でたどっています。

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