Rihwaの歌を「春風」の伸びやかな高音だけで覚えていると、「Snowing Day」の明るさや、「The Gift」で本人が試した小さな声に驚くかもしれません。けれども曲によって表情が違うのは、歌唱が定まらないからではありません。何を聴き手へ残したいかに合わせ、声量、姿勢、言葉、伴奏との距離を選んでいます。
本人は「高音の地声で通る感覚」を意識して歌うと語る一方、「ただ」では小さなフェイクを外しました。声帯の動きや正確な音域を映像から決めつけず、本人と制作陣が明かした選択を曲ごとに整理します。時期ごとにその考えがどう育ったかは、Rihwaの歌唱変遷で追えます。
「春風」――高く届く声を、歌詞の相手へ向ける
「春風」は2014年のドラマ『僕のいた時間』の主題歌として書かれました。Rihwaは曲の反響を喜ぶとともに、自分で歌詞を書くからこそ言葉を評価されたことが大きな自信になったと話しています。カナダで音楽を続けるか、日本へ帰って歌うか悩み、日本で歌うなら言葉が大切になると考えていたからです。
サビの高さだけを聴きどころにすると、どんな思いを相手へ運ぶ歌なのかが抜け落ちます。本人が当時、路上でバラードを歌うと人が立ち止まってくれたと語るのも、声が高いというだけでは説明できません。旋律が大きく広がる曲ほど、聴き手が言葉を追えることが大切です。歌詞の伝わり方を本人が重視する「春風」は、その二つを併せて考える入口になります。

2024年のオーケストラ版では、同じ歌が大きな編成に包まれます。編曲が変わっても曲名と歌詞は変わりません。原曲と再演を並べるときは、音の厚さが変わる中で言葉をどう受け取るかを比べたいところです。ただし、映像だけから息の量や発声法が変わったとは判定しません。ここで注目するのは、同じ歌を異なる伴奏で届けられることです。
「Snowing Day」――明るいメロディーに冬の二面性を入れる
2015年の「Snowing Day」をRihwaは、長く続いたバラードの後に、ようやく出せると感じた元気な曲だと語っています。北海道で育った彼女にとって雪は、楽しい景色であると同時に厳しい暮らしでもあります。失恋の歌として書きつつ、恋愛の明るい歌としても受け取れるようにしたそうです。歌い方を「元気」の一語で片付けると、この二面性が見えなくなります。
本人は歌詞を書く際、メロディーに最もよくはまる言葉を探し、見つかるまで妥協しないと説明しました。「Snowing Day」ではサビのメロディーと言葉が同時に浮かび、そこから曲を広げています。まず長い音を出し、後から言葉をはめたという話ではない。言葉が気持ちよく乗ることそのものが、彼女のポップな歌の一部です。
初アルバムの「カラフル」では、バンドサウンドへ四つ打ちのビートを加えてロックと融合しました。本人はこれを新しい自分らしさだと感じたそうです。「Snowing Day」はサビの言葉から、「カラフル」は伴奏の拍から、それぞれ曲の勢いを作る。Rihwaの明るい曲をひとまとめに「元気に歌う」と説明できない理由です。
「Sun Comes Up」――カントリーの根を、昔風に閉じ込めない
2018年の「Sun Comes Up」はKTタンストールとの共作です。Rihwaはもともとカントリーに親しんでいましたが、KTから現代的なカントリーを提案されたことを喜びました。アルバム『WILD INSIDE』も、昔の様式に寄せ切るのでなく、ポップな音作りへ進んでいます。ここでの「カントリー」は、特定の声の出し方の名称ではありません。彼女が自分のルーツとして選ぶ音楽の土台です。
Rihwaは、制作者に自分の歌からカントリーの感触が自然ににじむと言われ、意外だったと話しています。だから、この曲を聴くときも「地声か裏声か」だけに答えを求めなくてよいでしょう。本人にとって重要なのは、好きだった音楽を、今の自分の曲としてどう届けるか。高い声を前に出す瞬間があっても、それだけで曲全体を説明しないという視点が必要です。
「夢灯り」と「DON'T GET IT」――録るときの身体を変える
アルバム『WHO YOU R』で、Rihwaは二つの曲にまったく違う姿勢で向かいました。「夢灯り」は背中を丸め、しゃがみ込む人物像が先にあり、スタジオでも座って録音したといいます。通常のきれいな立ち姿で歌うほうが正解、とは考えなかったのです。一人の人物が心の中で言葉を漏らすような曲を、自分の身体でも探りました。
一方、ロック曲「DON'T GET IT」では録音用マイクを握り、シャウトしたそうです。マイクは距離を保って使うのが基本だと本人も承知していました。それでも感情が先に来る曲では、通常の方法からはみ出すことを選んだ。この二曲は「Rihwaはいつも強く歌うのか、柔らかく歌うのか」という問いへの具体的な答えです。どちらか一方に固定しないから、曲の人物や怒りに近づけます。
「The Gift」――小さな声も歌の中心に置く
KTタンストールと作った『The Legacy EP』の「The Gift」では、彼女からもっと小さな声で歌ってよいと指示されました。Rihwaは、これまでにないほど小さな声を使い、自分の声の「最小」を初めて知ったと話します。高く強く響く声と対照的ですが、弱い声をしかたなく出したわけではありません。音量を落とすこと自体が、曲に合う表現になりました。
同じ作品の「Suddenly I See」は、KTの原曲をRihwaが日本語で歌った曲です。訳詞をそのまま当てはめる難しさを感じ、自分が「突然分かった」と思った経験を日本語の歌詞にしました。英語の響きを似せるより、自分の言葉にして歌う道を選んだのです。声の大小と同じように、どの言葉を声に乗せるかも歌い方の設計に含まれます。
「ただ」と「Primary」――伴奏に合わせて、足すものを決める
2024年の『NOSTALGIA』では、制作に携わった鈴木健太が、アコースティックな楽器の音数を抑え、ライブでも演奏しやすい形を考えました。「ただ」は部屋でそっと弾くような伴奏を想定した曲です。Rihwaは歌もシンプルにし、ちょっとしたフェイクをすべて外したと語っています。音が少ないから間を埋めるのではなく、声に何も足さないほうを選びました。

対して「Primary」は、Rihwaがかわいらしい感じにしたいと望んだ曲です。鈴木はアコースティックギターやマンドリンなどを重ね、ルーツ音楽の手触りを残しながらポップにも聞こえる編曲を探りました。同じアルバムでも、すべてをしっとり歌うわけではありません。伴奏の間を空ける「ただ」と、楽器の明るさを生かす「Primary」は、声を置く環境を曲ごとに作る発想でつながっています。
Rihwaの歌い方を一つの発声名で決めると、「春風」の言葉、「Snowing Day」の弾み、「夢灯り」の姿勢、「The Gift」の小ささ、「ただ」の引き算が見えなくなります。本人が明かした選択に共通するのは、決まった声をどの曲にも押し通すのではなく、曲が必要とする距離で相手へ届けることです。

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