小田さくらの歌い方|バラードで感情を強めすぎた経験から見える「声の管理」

小田さくらの公式プロフィール写真 シンガー
小田さくら。掲載元:ハロー!プロジェクト公式サイト

小田さくらの歌い方を「高音が出る」で片づけると、本人がバラードの練習でぶつかった問題が見えなくなります。
失恋の歌に入り込みすぎ、呼吸まで乱れそうになった。
小田はその経験から、気持ちを込めるだけでなく、感情と声を自分で管理する必要を感じたと話しています。
2020年に公開された「逢いたくていま」のカバーは、一人で長い曲を担う彼女を見る入口です。

グループの短い歌割りとは違う、一曲の責任

グループでは、一人の歌が次のメンバーへ渡り、全員のリズムと動きで曲が進みます。
一方、ソロのカバーには次の人へ預ける場面がありません。
冒頭から結末まで、歌詞の感情を自分の声で運び続ける必要があります。
小田の「逢いたくていま」は、グループでの歌割りを知る人ほど、その違いが分かる映像です。

高い音を一度響かせることと、曲を通して聴き手を離さないことは同じではありません。
長いフレーズの前でどの程度気持ちを高めるか。
歌の主人公に近づきながら、次の言葉を歌える余裕も残すか。
小田が語った難しさは、単なる音量や音域の問題ではなく、曲全体に対する判断でした。

感情移入が強ければ、必ず伝わるわけではない

小田さくらのポートレート(花を手にした写真)
小田さくら。
撮影:野田若葉/掲載元:non-no web

ハロー!プロジェクトの公演「~The Ballad~」では、メンバーが名曲を一人でカバーしました。
小田は2022年の取材で、失恋の歌を練習した際に感情移入しすぎて、過呼吸になりそうなほど乱れたと振り返っています。
そこで得た目標は、もっと感情や歌声を自分で管理できるようになることでした。

これは「気持ちを込めずに歌う」という意味ではありません。
むしろ、歌詞の人物に深く近づいたうえで、最後まで歌を届けるための距離を持つという課題です。
気持ちが先に走れば、次の言葉を置く場所も声の出し方も揺らぐ。
バラードが求めたのは、感情を大きくする技術より、感情を曲の中へ収める判断だったと読めます。

本人が聴いてほしいのは、目立つ高音だけではない

小田は同じ取材で、ビブラートや高音のような分かりやすい部分が「上手い」という評価に結びつきやすいと話しました。
バラードを評価してもらえることは嬉しい。
一方、所属グループが大切にしてきたリズムも感じてほしいという思いがあるのです。

グループの歌では、言葉を拍のどこに置くかが次の人の歌い出しにも関わります。
ソロでは一曲の感情を保ち、グループでは他の声と曲を前へ運ぶ。
どちらも小田の仕事ですが、注目されやすいのは長く伸びる高音のほうです。
彼女自身が「それだけじゃない」と感じる背景には、目立たない時間の扱いも歌唱の一部だという考えがあります。

小田の研究は、自分が歌う練習だけで完結していません。
2022年のnon-noの取材では、楽器の音を聴く力を育てたくて、バンドのライブへ行くようになったと話しています。
目の前で楽器を弾く動きと、実際に鳴る音を結び付けて聴く。
自分の声を大きくすることとは別に、伴奏を受け取る耳も磨いているのです。

知らない曲を初めて聴いたときに、自分がどんな気持ちになったかも覚えておこうとしています。
また、歌い手の曲を分類し、声と楽曲のどんな組み合わせが人を動かすかを考えていた時期もあったそうです。
こうした話からは、小田が歌を、自分の感情だけで完成するものとは捉えていないことがうかがえます。
歌う側の熱量と、聴く側の心が動く瞬間を結び付けようとする作業です。

「愛の軍団」は、録音とライブで声の狙いが違う

声を管理する難しさは、気持ちの面に限りません。
2019年のRolling Stone Japanの取材では、小田は「愛の軍団」を例に、ライブでは太い声で歌う一方、録音では明瞭で的確な歌い方をする、と説明しています。
同じ曲であっても、届ける場によって声の狙いを変えているのです。

ただ、耳へ直接音が返るイヤーモニターを着けると、録音ブースにいるような感覚になり、CDの歌い方へ近づきそうになるとも話しました。
本人が気にしていたのは、その明瞭な歌い方が、ライブを聴きに来た観客の期待と合うかどうかでした。
正確に歌えているかだけでは、本人にとって十分な答えにならない場面があります。

会場の響きによってテンポの感じ方が変わるときには、ギターやドラムの細かな音を聴き取りやすくしてもらうこともあるそうです。
声を前へ出そうとするだけでなく、歌う基準になる音の聴こえ方を整える。
リズムを重視するという言葉の裏には、こうした舞台上の具体的な調整があります。

ここで変えるのは、楽曲そのものの速さではなく、歌い手の耳に届く音のバランスです。
本人には同じ曲が違う速さに感じられることがあり、それを承知して歌う手がかりを探しています。
声だけを取り出して聴くと見えにくい部分ですが、伴奏と声が一緒に進むためには欠かせない判断です。
高音が出た瞬間に加え、その前後の言葉が伴奏の中にどう収まるかも、聴きどころになります。

「逢いたくていま」のようなソロのバラードと、グループで踊りながら歌う曲とでは、表に出る声の魅力も違います。
それぞれの場所で、何を聴き、どんな声を相手に届けたいのかを決めることも、小田の歌唱を支える仕事なのでしょう。

小田さくらのポートレート(白い背景の写真)
小田さくら。
撮影:野田若葉/掲載元:non-no web

憧れる声と、自分の声を分けて考える

2025年の柏木ひなたとの対談には、声の個性を考える興味深いやり取りがあります。
小田は柏木の太く強い声に憧れていたと話し、柏木は反対に、小田の声の張りや艶が羨ましかったと応じました。
歌を得意とする二人でも、自分の声と、欲しいと思う声が同じではないのです。

だから小田の歌を考えるときも、太い声を出す場面だけを完成形と見ないほうがよいでしょう。
対談相手が魅力として受け取った張りや艶もあれば、ライブで本人が選ぶ力強さもある。
一つの声色に寄せ続けることより、その曲と場所に合う声を選ぶことが、ここまでの証言をつないでいます。

声の見せ場より、曲が届いたか

2025年、柏木ひなたとの対談で、小田は「歌上手いね」より「曲がいい」と言われるほうが嬉しいと語りました。
声だけを褒められることより、歌が作品として届くことを喜ぶ言葉です。
これはバラードで見つけた課題ともつながります。
感情を大きく表す瞬間だけでなく、曲の最後までその感情を運べてこそ、聴き手には一つの歌として残ります。

「逢いたくていま」で小田の声を知った人は、高音の一瞬から前後の言葉へ視線を広げてみてください。
小田さくらの歌い方の核心は、感情を抑え込むことでも、むやみに解放することでもありません。
歌が終わるまで感情と声の両方を引き受けようとする姿勢にあります。

加入当初の苦戦から、リズムの発見、ソロ歌唱の挑戦までの流れは、小田さくらの歌声の変遷でたどっています。

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