上坂すみれの歌で、声の表情が急に切り替わる瞬間は大きな見どころです。
ところが、その歌い分けを支えているのは、派手な声を出すことばかりではありません。
言葉を明確にしながら感情を抑える。
独り言のように囁き、単語を目立たせずに流す。
力強い歌でも、一音一音を強くぶつけ続けない。
何を際立たせ、何を控えるかを見ると、上坂すみれの声の選び方が具体的に見えてきます。
台詞と歌を、同じ調子でつながない
「ハッピーエンドプリンセス」では、サビを明るく強く、台詞の部分は思い切って台詞らしく歌っています。
本人が重視したのは、この声の調子の差でした。
アニメの役柄へ寄せ切らず、自分名義の歌としての表現も保っています。
この曲では歌、ハモり、コーラス、台詞を、約3時間、集中を保って収録しています。
休むと気が抜けそうだったため、曲のテンションのまま録り進めたといいます。
次の表情へ移る勢いを途切れさせないことも、録音で大切にされていました。
「EASY LOVE」でも、演じた長瀞さんの声に固定するのでなく、自分の声で、心の動きに応じた変化をつけています。
本人は歌の中に一つのドラマを作ろうとしていました。
しかも掛け声は6人分を自分で録っています。
完成した曲が賑やかでも、主旋律をずっと大声で歌っていると決めつけることはできません。
一人で重ねた声が、歌の掛け合いや人数の多さを作っている例です。
「生活こんきゅーダメディネロ」では、速くても歌詞が伝わる発音が重視されています。
ヒャダインの指示で、伴奏が歌謡曲風からロック風へ変われば、歌い方も大きく変える。
明瞭な言葉を保ちながら、声の表情を切り替える録音でした。
無表情な歌でも、発音までぼかさない
「POP TEAM EPIC」では、はっきり発音しながら、感情を大きく乗せない声を作っています。
強い気持ちを言葉に押し込まなくても、言葉そのものは聴き取れるようにする。
「生活こんきゅーダメディネロ」の大きな表情変化とは逆でも、言葉が届くことは共通しています。
さらに、この曲では声の加工や重ね方も完成した音の一部になっています。
録音の独特な質感を、すべて生身の発声だけで作ったものとして説明すると、彼女の選択も制作の工夫も見えなくなります。
上坂自身、この歌詞には、意味を読み解くより先に響きが通り過ぎる面白さを感じていました。
だから、単語ごとに感情を説明しすぎない。
何を伝える声なのかという判断が、抑えた歌い方の理由になっています。
本人は、テクノでは音程、リズム、歌の粒立ちを重視し、声を楽器のように伴奏へ寄り添わせると話しています。
ロックでは、言葉のエネルギーや感情を大切にする。
曲の中で声が担う役割に応じて、重心を変えているのです。
囁くときには、単語の強調も手放す
「polar night」では、ツミキの指示で、単語を強調せず、流れるように歌っています。
囁く声に変えるだけでなく、言葉の目立たせ方まで変える。
独白の距離感は、そうした選択によって作られています。
この曲で想定されたのは、雨の街を歩きながらこぼれる独り言でした。
相手を説得し、客席を煽る声とは、目的が違います。
誰に、どの距離で語る歌なのか。
その場面を考えると、静かな声を選んだ意味も見えてきます。

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昔の歌の雰囲気も、曲の途中で切り替える
「ネオ東京唱歌」では、歌い出しを戦前の録音を思わせる雰囲気にし、サビは晴れやかなポップスとして歌うよう、志磨遼平から指示を受けています。
一曲をすべて古風な声で統一するのではなく、入り口の声とサビの開放感を分けていたのです。
懐かしい感じという曖昧な言葉の中にも、どこでどんな表情を出すかという、具体的な設計があります。
歌い出しのためには、戦前の上海歌謡のような資料が用意されていました。
本人が歌ってきた80年代風のアイドル歌謡とも違う声を、具体的な資料から探ったのです。
懐かしさを一括りにせず、制作側と同じイメージを持って歌うことが、表情を作る助けになっています。
力強い曲の中に、静かな場所を作る
「ディア・パンタレイ」について、本人が歌う際の要点として挙げたのは、歌い出しに熱意を込めることでした。
曲の最初から、伝えたい気持ちを持って声を出す。
ただし、その熱意を、全編で同じ強さを続けることと考える必要はありません。
録音では、力強く歌いながらも、2番の頭では抑えるという調整をしています。
掛け声や仕掛けが多い曲とは違い、歌そのものの強弱で変化を作る試みでした。
本人は、完成した録音では、厚い伴奏と力を重視した歌声がぶつからず、調和していると受け止めています。
速いロックの「LOVE CRAZY」では、別の意味で勢いが重要でした。
本人は、疲れた歌では曲の弾む感じを出せないと考え、約2時間で楽しく録り終えています。
初めは速さを難しく感じても、韻や語尾のつながりが歌いやすさを支えました。
ただ音符を急いで追いかけるのでなく、言葉が次へつながる気持ちよさを生かす。
声のエネルギーと、歌詞が持つリズムの両方が、この曲の勢いに関わっていたのです。
その一方、Dメロでは、可愛い独り言を思わせる、囁くような歌い方を選んでいます。
ほかの部分より落ち着かせることで、強気な人物の内側を表す。
曲の勢いを守ることと、途中に小さな声を置くことは、両立していました。
低い声を使っても、強く当て続けるわけではない
「愛々々宣言」では、普段の声より低く、男役を思わせる勇ましさを目指しています。
ただし、低い音を使うだけではなく、語りかけるように、声の出だしを強く当てすぎないことも本人は意識しました。
優しい歌詞に力を持たせるには、強さと荒さを同じものにしないことが大切だったのです。
伊藤賢治はこの曲に、オペラを思わせる雰囲気を求めました。
単純に格好よく歌おうとしていた上坂が、その言葉から、宣言を掲げて進む情景をつかんでいます。
専門的なオペラ唱法を習得したという話ではなく、求められた雰囲気を手がかりに表現を変えた録音です。
上坂すみれの歌い分けは、声色を増やすだけでなく、声をどの程度前へ出すか、言葉をどれほど強調するかまで含んでいます。
「POP TEAM EPIC」の明瞭さと抑えた感情、「polar night」の囁き、「愛々々宣言」の低く語りかける声。
その違いには、歌の人物や場面に合わせた目的があります。
こうした表現を選べるようになるまでの経験は、上坂すみれの歌唱変遷でたどっています。







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