鷹嶺ルイの歌い方|低い声の存在感を、鋭さと優しさへ変える工夫

鷹嶺ルイ「オーバード」の公式ジャケット(2022年) シンガー
鷹嶺ルイ「オーバード」の公式ジャケット(2022年)

鷹嶺ルイの歌には、録音で作り手と相談しながら、声の表情を探していく面白さがあります。
どんな声を目指し、実際の歌との違いをどう埋めるのか。
曲ごとの発音や声の選択を、制作の具体例から見ていきます。

低い声の芯と、言葉を動かす自由

「魔眼ウインク」を手掛けたてにをはは、ルイの声に芯と安定した存在感を感じたと話しています。
低さも、作り手には曲を成立させる魅力でした。

この曲では、日本語を英語のような感覚で発音する指示もありました。
文字どおりの発音が旋律やリズムに合わない場合に、少し崩して音の流れへ近づける工夫です。
声の芯と、発音の柔軟さを一緒に考えたい曲です。

がなりの強さと、ラップの細かな発音

「ひみつのおしごと」でFAKE TYPE.が評価したのは、がなりのかっこよさでした。
ただし、この曲の工夫は強い声を出すことだけではありません。
録音では「後処理」という語の最初の母音を目立たせず、リズムへ収める発音が課題になりました。
仮歌を確かめ、書かれた文字のすべてを同じ重さでは発音しない歌を作っていったのです。

がなりで強い印象を与える一方、発音の取捨選択でフレーズを運ぶ。
迫力のある歌の内側に、細かな判断があります。

ステージでの強い表情なら、2024年の「hololive 5th fes.」で歌った「ばかばっか」も一例です。
挑発的な歌から、激しいサウンドに合わせて感情を放つような歌へと進んでいきました。
同じ曲の中でも、声が受け持つ熱量は動いています。

さらに姫森ルーナと歌った「鬼KYOKAN」では、畳み掛ける旋律と観客への掛け声が公演を盛り上げました。
録音で言葉を細かく整える歌い手が、公演では聴き手の声も含めた流れを作る。
強さの印象には、声の質感に加え、どのタイミングで言葉を投げ掛けるかも関わります。

2025年の「hololive 6th fes.」では、ソロの「魔眼ウインク」に続き、森カリオペとのメドレーへ進みました。
ソロでの安定した歌と、共演での息の合ったやり取りの両方を見せています。
単独で世界を作る歌から、相手の曲と自分の曲をつなぐ歌へ。
同じ公演内でも、歌が置かれる状況の違いを見られる組み合わせでした。

その共演では、ルイの英詞のラップにも聴きどころがありました。
相手の代表曲も含む構成では、自分のソロ曲のときとは言葉も、歌を受け渡す相手も変わります。
日本語の一語をリズムに合わせて整理する録音と、別の言語の曲を共演で届ける公演。
発音の工夫を一つの曲だけの癖と捉えず、歌う状況へ対応する選択として見る視点が生まれます。

録音前の理想を、マイクから届く声にする

鷹嶺ルイの公式キャラクタービジュアル
鷹嶺ルイの公式キャラクタービジュアル。
画像出典:画像掲載元

「CHARISMA」の録音でjon-YAKITORYが驚いたのは、最初の歌唱から声がマイクによく乗り、作品として届く形になっていたことでした。
一方、ルイ本人は、練習中に思い描いたかっこよさを十分に出せず、悩んでいたといいます。
作り手が完成度を感じる声と、歌い手が求めている声との間に、まだ距離があったのです。

そこで制作は、相談しながら別の可能性を試す場になります。
何度も歌った背景には、次の歌唱で違う表情が生まれる期待がありました。
理想を持ちながら、現場で見つかる声も大切にした制作でした。

「CHARISMA」— 『Liberty』収録の配信音源(2024年)

笑い声まで選び、曲の入口を作る

「Tori To Re:TreaT」では、ハヤシベトモノリが怪しさを表すため、複雑な旋律やリズムを残しました。
ルイは録音で苦心しながら、通しで歌えるところまで進みます。

もう一つの工夫が、イントロの笑い声です。
歌を録った後、表情の異なる笑い方を新しく収録し、曲に合うものを選びました。
笑い声も、歌詞に旋律を付けて歌う部分と同じように、作品の印象を決める声として扱われています。
冒頭からどんな人物の世界へ誘うかを、声の表情で作っているのです。

柔らかさも、再現できる歌の表情にする

鷹嶺ルイ『Lieblings』の公式ジャケット(2025年)
鷹嶺ルイ『Lieblings』の公式ジャケット(2025年)。
画像出典:画像掲載元

「夢ができたの」の録音では、優しさや物憂げな表情を求めた松室政哉の指示に、ルイはすぐ応じました。
金木和也が驚いたのは、別の箇所を録音した後でも、その選択を覚えて再現していたことです。
感情が偶然うまく出た一回を待つのではなく、必要な表情をもう一度歌にできる。
柔らかさにも、組み立てがあります。

「夢ができたの」— 『Liberty』収録の配信音源(2024年)

この曲が2025年12月の発売記念ミニライブの最後に歌われた際にも、温かさのある表情が印象を残しました。
録音で作った表情が、公演で聴き手に届く歌にもなる。
鋭い声で印象を残す場面と、近くにいる人へ思いを渡すような場面の両方が、ルイの活動の中にあります。

別の表現を考える作品には、2025年の『Lieblings』もあります。
「夢ができたの」を含む既存の5曲をアコースティック版にした作品で、「オーバード」や「TSUBASA」も収録されています。
原版とアコースティック版を分けて捉えると、一つの録音だけで歌い方を決め付けずに済みます。

ルイの歌を作るのは、理想を描くことと、実際の声を確かめることの往復です。
一度で決まる曲も、作り手と何度も試す曲もある。
完成した歌の表情には、それぞれの曲で選び取った声が込められています。

声への迷いから表現を広げてきた過程は、鷹嶺ルイの歌唱変遷でたどっています。

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