「Zombie」を収めた2025年の『Idols』で、ヤングブラッドは感情を先に置くことを大切にしました。
声の揺らぎも、録音の中に残す。
その選択には、周囲が求めるヤングブラッド像から、自分自身の歌を取り戻そうとした経緯がつながっています。
Zombie — MV(2025年)
初期の歌には、故郷のアクセントも勢いもあった
2018年の『NYLON』で、筆者のヘイデン・マンダースは、歌っていても消えないヨークシャーのアクセントに注目しています。
ヒップホップに近づく曲も、ロックの勢いを強める曲も、パンクの精神で結び付いていると評していました。
2017年に発表した「I Love You, Will You Marry Me」は、その初期を代表する曲の一つです。
ヤングブラッド自身も、学校やスタジオで周囲から方向性を決められ、自分が分からなくなった時期を振り返っています。
そこから、自分が誰で、何を言いたいのかを自分で決めようとした。
当初から、自分らしく歌うことは、彼が守ろうとしていたものだったのです。
I Love You, Will You Marry Me — MV(2017年)
初期の「Polygraph Eyes」では、性暴力を題材に選びました。
本人は、作り物めいた伝え方にならないよう、曲を練る必要があったと話しています。
自分が感じた怒りを歌にするにも、ただ声を上げればよいわけではなかったのです。
2018年の取材で喜んでいたのは、初めて訪れた土地でも、観客が歌詞を歌い返してくれることでした。
終演後には、自分のことを理解してくれていると伝える人もいた。
本人も客席の人々と話し、その思いを知ろうとしていました。
自分の声を見つけた先に、同じ気持ちを持つ人たちとのつながりが生まれていたのです。
Polygraph Eyes — MV(2018年)

画像出典:画像掲載元
2022年、「The Funeral」で自分らしさを問い直す
ところが、成功すると、周囲の期待も強くなりました。
2020年の『Weird!』が英国で1位になった後のことです。
本人の回想では、『Idols』の構想は2021年に始まっていましたが、その成功を受けていったん止まり、先に2022年のセルフタイトル作『YUNGBLUD』へ進んでいます。
次にどんな音楽を作るべきか、さまざまな意見が寄せられるようになったと本人は話していました。
「The Funeral」を発表した2022年にも、本人は、自分らしくあるよう人々へ伝えてきた言葉を、自分自身にこそ言い聞かせる必要があったのではないかと話していました。
この曲を書くことで、次にどんな段階へ進むのかが見えてきたというのです。
『The Zane Lowe Show』では、「The Funeral」を収めた3作目を振り返り、妥協したという思いも明かしています。
自分の名前を冠した作品なのに、その名前から最も離れているように感じていたというのです。
自分らしさを求めて作ったヤングブラッドという存在が、今度は自分の進み方を狭めるものにもなっていました。
The Funeral — MV(2022年)
もう一度、自分のために作れる場所へ
『Idols』を仕上げようという思いを強くしたのは、2024年に自ら立ち上げたフェス「Bludfest」でした。
そこで彼は、ヤングブラッドが自分一人の名前を超え、人々が集まる場所になったと感じています。
その中に、本名のドミニクとしての自分もいられる。
そんな実感が、制作を再び進める力になったと話しました。
mars — Bludfest公演(2024年)
多くの作家から次の方向を提案されていた時期を経て、今度は初期からの協力者マット・シュワルツと、作品を作り進めました。
何が売れるかという意見に合わせるより、自分の内側から出てきた音楽を形にする。
変わった自分を歌にしてよいと思える環境を、選び直していたのです。
録音の場所も、故郷ヨークシャーのリーズでした。
ロンドンで生活していた彼が求めたのは、足元を確かめられる土地の安心感だったといいます。
家族のもとへ帰り、北部の空気に触れることも、自分が誰なのかを思い出す助けになっていました。
初期から歌に残っていた故郷とのつながりが、ここで再び制作を支えています。
『Idols』では、声が揺らぐ瞬間も残した
2025年に発表した『Idols』では、録音やミックスでも感情を先に置こうとしていました。
ゼイン・ロウはその歌を聴き、声が揺らぐところを残している点に注目します。
ヤングブラッドもそれを認め、そのボーカルを朝9時、日が昇る中で録ったことを覚えていると答えました。
その瞬間の歌が持っていた感情を、声の揺れごと残す。
本人が語る制作方針と、ロウが気づいた歌唱の揺らぎが、ここでは重なっています。
力強い姿を示すだけでなく、揺れた声も自分の歌として差し出すことが、この作品の大切な変化でした。
アルバムの先行曲「Hello Heaven, Hello」は、9分に及ぶ曲です。
本人は、急いで作品を作るのではなく、一つのアイデアに時間をかけたかったと話しています。
曲をどこまで広げられるかという挑戦と、歌の中にその場の感情を残すことが、同じ作品の中で進んでいました。
Hello Heaven, Hello — MV(2025年)
複雑な音楽の中で、歌うことをシンプルにする
2025年の取材では、以前は声や態度で演じているようにも見えたが、今作では本人そのものを感じる、と聞き手が伝えています。
ヤングブラッドは、原点に戻り、ただ歌いたかったのだと答えました。
音楽としては最も複雑な作品かもしれないのに、歌を届ける考え方はシンプルだったというのです。
歌に込める感情にも、変化がありました。
初期には具体的な社会の問題を扱っていた彼が、「Zombie」では、自分の経験をもっと広く受け取れる形へ開こうとしています。
祖母から着想を得ながら、その人の話だけに閉じず、喪失や、弱った自分も愛してもらえるのかという不安へ目を向けたのです。
聴く人がそれぞれの経験を重ねられるようにすることも、この作品で学んだ大きなことだったといいます。
本人は、18歳の頃から自分が変わった一方、周囲は初期の姿にとどめようとしたとも語っています。
初期から守ろうとした自分らしさを、変わった後の自分にも認める。
『Idols』での声の選択には、その姿勢が表れています。
2026年、「Zombie」の別の感情も形にする

画像出典:Loudwire
「Zombie」には、さらに別の表現が残っていました。
2026年には、ザ・スマッシング・パンプキンズとの新バージョンが発表されています。
本人は原盤に手応えを感じながらも、もっと重く、暗い感情を押し出した形にしたかったと説明しました。
そのためにビリー・コーガンへ協力を求めたのです。
Zombie (feat. The Smashing Pumpkins) — 共演版MV(2026年)
同年2月に発表された『Idols II』には、この共演版も収められました。
本人は、前作を自分自身を取り戻す旅、続編をその旅を生き抜いた実感の物語として説明しています。
一つの曲に表せる感情も、一つの作品で語れる自分の姿も、それで完成と決めない。
『Idols』で歌に残そうとした生身の感情は、その後の表現へもつながっています。
「Hello Heaven, Hello」の高音を実際に歌い続けるため、どんな工夫をしているのかは、ヤングブラッドの歌い方で掘り下げます。

こちらの記事もおすすめ

「Hello Heaven, Hello」のレッスンと、キーの選択を掘り下げます。


その録音で、ブレンド…



コメント