TEEの歌い方|「ベイビー・アイラブユー」はなぜ語りから歌になるのか

USENのインタビューに掲載されたTEEの本人写真 TEE

「ベイビー・アイラブユー」は有名なサビを知っていても、最初から同じ調子で歌おうとすると難しい。
TEE自身、バースは語り口調でメロディーにきっちり乗せず、サビで急に歌になると説明している。
言い出せない人の言葉を先に聞かせ、ようやくサビで思いを言う。
この切り替えこそ、曲の歌い方の中心だ。

サビが先に出てこない理由

2010年に発売された「ベイビー・アイラブユー」について、TEEは主人公を、好きだと気づいても言葉にできない不器用な男だと説明した。
最初から堂々と愛を宣言する曲なら、AメロとBメロを長く迷わせる必要はない。
実際、本人は一番言いたい言葉をサビに置く単純な形を選ぶ一方、その前の二つの部分を何度も書き直したと話している。

歌い手としてのTEEの工夫も、ここに結びつく。
2019年にこの曲をカバーしたFUKIとの対談で、TEEはバースがとりわけ難しいと認めた。
語り口調で、歌のメロディーに素直に乗っていないからだ。
FUKIも録音に最も時間がかかった曲だったと答えている。
音を正しく並べるだけでは再現しづらく、話す言葉の勢いをどこに残すかが問われる。

反対にサビでは、TEEの言葉で「急に歌になってくる」。
この差を全部なめらかに揃えてしまえば、告白できない時間から告白へ進む曲の動きも弱くなる。
語るバースと歌うサビには、それぞれ違う役割がある。

歌詞の冒頭では、旅や海へ誘う言葉から、相手と出会って自分の中に起きた変化へと話が進む。
やがて、相手に聞きたいことがあっても聞けず、気づかないふりをする姿が現れる。
同じ恋心でも、誘いかける言葉、自分の気持ちを振り返る言葉、不安を隠す言葉では、向かう先が違う。

この違いを意識すると、語り口調とは単に音程を弱めることではないと分かる。
目の前の相手へ話しかけているのか、胸の内で考えているのか。
言葉の宛先が変わる場面を追うことで、バースの細かな動きと、サビで気持ちをまとめて伝える動きがつながる。

TEEはラブソングを作る際、遠距離恋愛なら二人の住む場所や会える回数、けんかの理由まで考えると話している。
歌詞の後ろに、実際に生活している人物を置く作り方だ。
「ベイビー・アイラブユー」の語りも、単なるサビへの助走ではなく、一人の人物を見せる時間として聴きたい。

同じ曲でも、語りの表情は変えられる

TEEの公式プロフィールは、その声を「スモーキー・ヴォイス」と紹介する。
しかしこの曲の難しさは、声をかすれさせて似せることだけでは説明できない。
TEE自身が難所に挙げたのは、メロディーにぴたりと乗らないバースを語り、サビで歌へ切り替える部分だ。
声色だけを追うと、言葉がためらいから告白へ進む動きが抜け落ちる。

TEE自身、歌い始めた頃は録音された自分の声が恥ずかしかったと公式ブログで振り返っている。
それでも、友人の家で歌詞を書き、ラップをして遊ぶことが楽しく、毎日のように通ったという。
今の特徴的な声にも、伴奏へ自分の言葉を乗せ、その声を聴く経験が積み重なっている。
声質だけでなく、言葉を音楽にする面白さが出発点にあった。

2019年に「ベイビー・アイラブユー」をカバーしたFUKIは、バンドと録音し、日常に溶け込むような柔らかさを目指したと話す。
TEEもその仕上がりを、もとの情熱的な曲とは違う心地よさとして受け止めた。
さらに、カラオケで難しいと感じる人はFUKIの版を参考にしてもよいと勧めている。
本人と同じ声色を再現しなくても、語りから歌へ移る曲の筋は生かせるということだ。

別の歌い手には、その人の愛の歌を求めた

TEEが大事にするものは、下北姫菜による「BABY I LOVE U」の録音を指導した際の言葉にも表れている。
2021年の対談で彼は、下北にしかないよさを引き出したかったと説明した。
そのために求めたのは、誰かをまねることよりも、彼女自身の愛の歌を見つけることだった。

この録音では、編曲を担当した縄田寿志も声の表情を中心に考えている。
小さく繊細な声から、大きく大胆な声へ移る下北の幅を、伴奏が邪魔しないようにしたという。
TEEも録音後、彼女の抑揚のある表現を評価した。

これは下北の歌唱についての話だが、原曲の歌い手が何を残したいかを知る手掛かりになる。
TEEのかすれた声をそのまま再現させるのではなく、別の声の強弱によっても恋心を届けられると考えている。
同じメロディーでも、柔らかく語るFUKIの版と、声の振り幅を生かす下北の版では、聴き手への近づき方を変えられるのだ。

USENのインタビューに掲載されたTEEの本人写真
TEE(2025年の取材写真)。
写真出典:USENインタビュー

二人で歌っても、最初のためらいは消えない

2011年にはシェネルの英語カバーに加え、TEEと彼女の新録デュエットも出た。
発売時には二人がラゾーナ川崎で共演版を初披露している。
TEEが一人で歌う原曲と、二人の声を使う版は、同じ題名でも歌い手の数と録音が異なる。
シェネルが主役の英語カバーまで全部を「同じデュエット」と呼んでしまうと、それぞれの聴きどころがぼやける。

原曲では、話すようなバースから一人の告白へ進む。
TEE側の「love with シェネル」では、その歌の中にシェネルの声が加わる。
さらにシェネル側の「love with TEE」では歌い分けが異なり、レーベルの説明では彼女がリードを取り、日本語にも挑戦した。
歌い手を二人にしただけでなく、誰を中心にするかまで変えた二つの版なのだ。
最初にTEEが考えた「言いたいのに言えない」という曲の筋が、違う歌い手に手渡されていることは分かる。

速い言葉も、誰かへ伝える言葉として歌う

公式ブログでファンから速い部分をうまく歌う方法を尋ねられたとき、TEEは伝えようとする気持ちを大事にするよう答えている。
歌い手の技量を見せること以上に、言葉が誰かへ向かっているかを重く見る返答だ。

「ベイビー・アイラブユー」でも、細かな言葉を全部同じ強さで並べると、何を言いたくて何をためらっているのかが伝わりにくい。
聴き直す際は、バースの途中で気持ちが変わる場所と、サビへ入って一つの思いを言い切る場所を分けて追うとよい。
語りの流れが聞き取れると、有名なサビも、そこまで言えなかった人がようやく口にする言葉として響く。

TEEは2021年、自分一人ではこの曲が完成しないように感じると話した。
結婚式で使ったという人に会うと、その人の経験の中で完成するようだという。
バースで言葉を探し、サビでようやく伝える曲だからこそ、歌う人や聴く人が自分の出来事を重ねる余地がある。
声の変化を時期ごとに追いたい場合は、TEEの歌唱変遷で「空」へ至る道をたどれる。

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