TK(凛として時雨)の歌い方|高音と二人の声は、どう曲を動かす?

TK from 凛として時雨、2022年の公式アーティスト写真 TK(凛として時雨)
TK from 凛として時雨(2022年)。写真出典:ソニーミュージック

TKの歌は、高い声を長く出し続けることで成り立っているのでしょうか。
凛として時雨には、TKのほかにベースの345も歌う場面があります。
ソロ曲「unravel」は、バンドの演奏も、もう一人の歌声もないところから始まります。

同じTKの声でも、隣に何が鳴るかで役割は変わる。
高音そのものに目を奪われたあと、二人の声の並び方や、声だけになる瞬間に注目すると、曲の組み立て方が見えてきます。

高音は「得意技」より、曲に必要な声だった

凛として時雨は、TKのギターと歌、345のベースと歌、ピエール中野のドラムによる3人組です。
TKは狩野英孝との対談で、自分の普段の話し声は特別に高いわけではないと話しています。
高い声を出したいという憧れから始めたのでもなく、楽曲を表現するうえで必要になった声でした。

初期の練習室で、自分の歌が演奏に埋もれて聞こえず、歌う高さを大きく変えてみたという出来事があります。
最初から楽に出せたわけではありません。
その経緯と、その後の曲ごとの選択はTKの歌声の変遷でたどれます。

だから「高い音が出る人」とだけ捉えると、歌をどう曲に置いているかが抜け落ちます。
TK自身は、高い声が先にあって曲を作るのではなく、その曲に必要な表現として声を選んだと説明しています。

345との歌は、高音の競争ではない

TKと345は、同じバンドの中でどちらも歌います。
二人とも高い声が印象に残るため、誰が上を歌うかを決めているように思うかもしれません。
ところがTKは、そういう取り合いをしたことはない、と対談で笑っています。

この話が面白いのは、凛として時雨の歌を、一人の主役と一人の伴唱という固定した形にしなくてよいことです。
二人がそれぞれ声を出すから、歌の前後関係や重なり方を変えられる。
TKも対談で、二人の声だけでなくドラムも含めた3人のバランスに触れています。

345は別のバンドで歌うとき、凛として時雨とは違い、力を抜くことや低めの高さを求められたと語っています。
同じ歌手でも、曲や演奏する仲間が変われば求められる声は変わる。
凛として時雨で聞ける二人の歌は、それぞれの声を持ち寄った、この3人の音楽なのです。

言葉は、意味だけでなく速さでも選ぶ

TKは作詞・作曲に加え、録音やミックスにも深く関わります。
2013年のバンド取材では、歌詞を先に書くと「言葉を書く」方向へ寄ってしまうので、伴奏を流しながら自然に出てきた言葉を使いたい、と話していました。

意味を一語ずつ説明するより、言葉の響きやスピードが曲を生かす場面がある、という考えです。
歌を聴くときも、何を言ったかだけを追うのでなく、短い言葉が演奏にどう入り、次の声や楽器へどう渡るかを見てみたいところです。

声の高さに加え、短い音へ言葉をどれだけ詰めるか、どこから次の言葉へ進むかも、歌の勢いを左右します。
TKが語っているのは、先に完成させた文章を音符へ当てはめる方法とは違う、声にしながら言葉を探す作り方です。
言葉の意味をつかんだあとに、その言葉が演奏の中で動く速さへ注意を向けると、作詞と歌唱がつながって見えます。

「Shinkiro」で迎えた、予想しきれないCharaの声

345との歌なら、ある高さで歌うとどうなるか、TKには長く組んできた経験からの見通しがあります。
それに対し、Charaを迎えた「Shinkiro」では、事前に細かく合わせるプリプロを行わず、曲のキーを確認して本番へ進んだそうです。
TKは、自分では制御できない声を加えることで、弾き語りのデモに新たな光を入れようとしました。

実際の録音では、自分が書いた言葉がChara自身の言葉になっていた、と振り返っています。
ここにあるのは、同じ音程を歌えるかだけでは決まらない相性です。
歌う人の音色や言葉の出し方が変われば、作曲者が準備した旋律にも、別の人物の存在感が生まれる。
TKが共演相手に求めたのは、その予想しきれない部分でした。

二人の声と、一人で始める声を聴き比べる

凛として時雨ではTKと345の声が並び、ピエール中野のドラムも含めた三人の音が歌の居場所を作ります。
一方、ソロ曲「unravel」の入り口には、TKの声以外の音がありません。
同じ歌手でも、二人で声を渡し合う場面と、一人の声から曲を始める場面では、声に任される仕事が違います。

本人は「unravel」の冒頭について、静けさの中に強く届くものが欲しく、自分の声から世界が始まる構成を考えたと説明しています。
楽器と並ぶ声の存在感と、周りに音がない時の存在感は、同じ方法で作られるわけではありません。
冒頭を選んだ理由を知ると、最初の声と、そのあと音が加わる場面の関係にも耳を向けられます。

「orbit」のささやく声が見せる、もう一つの質感

TK『Whose Blue』公式特設ページに掲載された本人の写真
『Whose Blue』公式特設ページより。
画像出典:TK official site

TKの声の特徴は、高いか低いかという一本の物差しだけでは捉えきれません。
2025年のアルバム『Whose Blue』に収められた「orbit」について、ヨルシカのn-bunaは、電子的なトラックとウィスパーボーカルの組み合わせを評価しています。
同じコメントの中で攻撃的なギターの曲にも触れながら、この曲では浮遊感のある声へ目を向けていました。

ウィスパーという言葉は、ここではささやきを思わせる声の質感を指しています。
音程の高さを示す言葉ではないので、「高音」と「ウィスパー」を反対の技法として並べることはできません。
高低とは別に、どのくらい息を感じさせるか、言葉をどんな質感で近づけるかという聴き方ができます。

高音の鋭さを期待してTKを聴き始めた人にとって、「orbit」は声の別の面を知る入口になるでしょう。
ここで注目したいのは、ささやく声そのものに加え、その声を受け止める伴奏です。
n-bunaが声とトラックの組み合わせを挙げたように、周りの音との関係から生まれる印象まで含めて、一曲の歌声になっています。

録音された声の生々しさも、TKの表現に含まれる

声の質感を考える時には、録音後の音作りも関わります。
2013年、「Missing ling」のボーカルがあまり加工されていないように聞こえると問われたTKは、処理を施したうえで生々しく聞かせることが目標だと答えました。
何も加えていないように感じることと、実際に処理をしていないことは、必ずしも一致しません。

この考えを踏まえると、完成音源で感じる息の近さや声の距離を、すべて喉の使い方だけに置き換えるのは難しくなります。
歌う声を作ることと、その声を作品の中でどう聞かせるか。
録音やミックスも担うTKは、その両方に関わる歌手です。
歌唱時の声の選択と、完成した音の印象を行き来することで、TKの表現をより具体的に捉えられます。

次に聴くのは、最高音の前後

TKの高音に驚いたら、その直前に誰が歌っていたか、どんな言葉の速さだったか、周りに楽器がいくつ鳴っていたかを追ってみてください。
345の声がある凛として時雨と、声だけから世界を始める「unravel」では、同じ歌手の声にも違う仕事が与えられています。

高く歌う理由を探すうちに、声の置き場所まで聴こえてくる。
それが、TKの歌を高さだけで終わらせない面白さです。

2026年11月のシンガー人気投票。投票期間は11月1日〜11月30日。11月の投票はこちら。

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました