TKのあの高音は、最初から得意な声を披露しようとして生まれたものではありませんでした。
凛として時雨を組んで練習していた頃、自分の歌が聞こえない。
そこで試したのが、1オクターブ上げて歌うことだったそうです。
それほど高い声で歌い始めた人が、代表曲「unravel」では、伴奏のない静かな声から曲を始めています。
TKは、いつも声を張り上げて存在感を出しているわけではありません。
バンドの音の中で聞こえる高さを探したことと、声だけになる瞬間を作ったこと。
この二つをたどると、高音の高さだけでは説明できない、TKの歌の聴かせ方が見えてきます。
高い声に憧れたのではなく、自分の歌が聞こえなかった
凛として時雨は、TKのギター、345のベース、ピエール中野のドラムによる3人組です。
歌はTKと345の二人が担当しています。
TKの高音の始まりにも、このバンドで音を出していたときの出来事がありました。
本人が狩野英孝との対談で振り返ったのは、練習中、思ったより自分の歌が聞こえなかったことです。
1オクターブ上げれば聞こえるかもしれない、と試してみると、少し声がひっくり返りながらも、前より聞こえる。
その結果、高いほうで歌っていくことになりました。
1オクターブとは、ドから次の高いドまでにあたる幅です。
ほんの少し歌い出しを高くした、という程度の変更ではありません。
最初は体もしんどかったそうで、初めから無理なく出せる声を見つけた、という話でもなかったのです。
TK自身、普段の話し声が特別に高いわけではないと語っています。
高音に憧れてその歌い方を目指したのかと聞かれても、そうではなく、必要だったという説明をしています。
あの声が強烈に印象に残るぶん、まず特徴的な声があり、その声に合うバンドを作ったようにも思えます。
しかし本人が語る順番は逆で、バンドで歌おうとしたときの困りごとから、歌う高さが決まっていったのでした。
「unravel」では、声の周りの音をなくして始めた
では、TKの歌は、周囲の音に負けないように高く、強く歌うことが基本なのでしょうか。
2014年のソロ曲「unravel」は、その見方を変えてくれる曲です。
この曲の始まりでTKが選んだのは、楽器と一緒に勢いよく飛び込むことではなく、まず自分の声だけを聴かせることでした。
「unravel」は、アニメ『東京喰種トーキョーグール』のために書かれた曲です。
TKは原作を読み、残酷な描写の奥にある生命の美しさにも惹かれていました。
その世界を音楽にするうえで、静かだけれど強く訴えかける始まり方を考えたと話しています。
自分の声だけから曲の世界が始まる、という作り方は、本人にとっても新しいものでした。
練習室の話では、鳴っている楽器の中で歌が聞こえるように、自分の声を高くしました。
「unravel」の冒頭では、そもそも歌と重なる伴奏がありません。
高い声で周囲の音から抜け出す代わりに、歌い始めの声を、他の楽器に重ならない状態で聴かせたのです。
だから、TKの歌い方を知るには、激しくなるところだけを待っているともったいない。
歌い始めの声をどんな状態で聴かせ、その後に楽器をどう加えるか。
作詞・作曲も手がけるTKは、歌い手であると同時に、声が聞こえる場面そのものを作る人でもあります。
同じ「unravel」を、一度きりの歌で残す怖さ
2020年の「THE FIRST TAKE」では、「unravel」をピアノ、バイオリン、チェロの編成で歌っています。
冒頭のMVと同じ曲ですが、こちらには、エレキギターやドラムによる伴奏がありません。
さらに、一発撮りという条件が加わっています。
この挑戦について、TKは、断りたい気持ちと挑戦したい気持ちの両方があったと話しています。
もともと好きで見ていた企画で、実際に断るつもりはなかった。
それでも、出演への迷いがなかったわけではありませんでした。
TKは普段、録音した音を組み立て、細部まで作り込んで作品を完成させています。
一発撮りでは、その場で歌い、演奏した一回を作品として残すことになる。
本人にとっては、いつもの制作とは逆向きの作業だったのです。
ここで面白いのは、ギターやドラムを外したから、TKにとって気楽な歌になったわけではないことです。
音の数が減っても、自分をどう表現するかという難しさは残る。
むしろ、作り直すことを前提にしない歌だからこそ、飛び込む覚悟が必要でした。
MVで聴けるのは、細かく作り上げた録音です。
「THE FIRST TAKE」では、その同じ曲を、別の楽器編成と一回の歌唱で成立させようとしています。
二つを続けて聴くときは、楽器が変わったことで歌声がどう聞こえるかにも耳を向けてみてください。
TKが慣れた制作方法から離れ、挑戦したかった歌の形を確かめられます。
稲葉浩志との共演では、いつもより低い声を試した
高い声が特徴になった後も、TKは、その高さを守ることだけにこだわっていたわけではありません。
2022年、B’zの稲葉浩志を迎えた「Scratch」では、普段より低めと感じる人もいるだろう、と本人が語る歌に挑んでいます。
ピアノと弦を使ったバラードで、二人の声を合わせるために、曲の高さやメロディーを検討しました。

制作では、最初のデモよりキーを下げるなど、いくつかの形を試しています。
最終的にはメロディーを調整し、キーそのものは元に戻りました。
単に曲全体を低くすれば終わりではなく、相手と歌える形を探したのです。
そのときTKが考えたのは、共演相手に合わせても、自分らしい声の質感を残せるか、まだ見せていない魅力を出せるかということでした。
高い声の印象が強い歌手にとって、いつもとは違う高さで歌うことも、自分を試す機会になります。
共演は自信を深めるだけの経験でもありませんでした。
稲葉の歌を間近で聴いたTKは、他の歌手と録音するたび、自分に足りないものを感じると話しています。
同時に、長く歌い続ける稲葉の姿から、自分もまだ進んでいけるという刺激を受けていました。
高音の先に、静かな歌い出しを聴きたくなる
TKの高音は、バンドの中で自分の歌を聞くための試みから生まれました。
けれど、代表曲「unravel」で最初に聴かせるのは、楽器の音を押しのける声ではなく、伴奏のないところから始まる声です。
高く歌うことと、声だけで曲を始めることは、別々の工夫でした。
どちらにも、自分の歌をどう聴かせるかを考えた、TK本人の選択があります。
「THE FIRST TAKE」では作り込む方法を手放し、「Scratch」では歌う高さを改めて検討する。
どの曲でも同じ条件で高音を披露するのではなく、条件が変わったところでもTKの歌を成立させようとしてきました。
高音の強さに驚いたら、今度は「unravel」の最初の声へ戻ってみてください。
その静かな始まりも、練習室で高い声を探したTK自身が選んだ歌い方です。






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