日笠陽子の歌い方・発声|「Pollution」で息の音まで表現にする

日笠陽子(2014年の音楽ナタリー取材写真) シンガー
日笠陽子(2014年の音楽ナタリー取材写真)

日笠陽子は「Pollution」で、吸う息や吐く息の音も目立たせて歌ったと話しています。
声の間に聞こえる息にも、感情を担わせる。
本人が語る曲ごとの選択から、その歌い方を見ていきます。

Pollution — 『Couleur』(2014年)収録音源

「Pollution」で、息の音を残した理由

2014年のアルバム『Couleur』に収められた「Pollution」は、ゆっくりしたテンポのロック曲です。
『リスアニ!』のインタビューで、日笠はこの曲の録音を振り返り、細かく区切ったり歌詞を確認したりすると、自分が冷静になっていくのが嫌だったと話しています。

この曲では歌の中に深く入り込み、現場で落ち着いて録ってみようと言われるほどだったといいます。
そこで本人が具体的に挙げたのが、吸う息や吐く息の音も出し気味にした歌唱でした。
息の音が、生々しさにもつながると捉えていたのです。

日笠にとって、ブレスは歌い始めるための準備であると同時に、曲の感情を伝える音にもなっています。
どこで呼吸するかに加え、その呼吸をどれくらい聴かせるかも、歌の表情を左右する選択です。

「EX:FUTURIZE」で直面した、息継ぎの難しさ

一方、同じ2014年のシングル「EX:FUTURIZE」では、息を入れること自体が大変だったと話しています。
『MANTANWEB』のインタビューによると、初めてフルで歌った「リスアニ!LIVE」で、ライブの大変さを実感したそうです。

曲が速く、転調してキーが上がり、言葉も詰まっている。
そのため息継ぎが難しく、歌い終わると息が上がっていたと振り返っています。
本人は、CDを聴く分にはそれほど大変には感じないかもしれないとも話していました。

EX:FUTURIZE — 2014年のシングル音源。
本文の「リスアニ!LIVE」とは異なる録音です。

ここには、音源で完成した歌を、舞台で通して届ける難しさがあります。
好きなアップテンポの曲でも、速さ、高さ、言葉の密度が重なると、呼吸まで含めて向き合う必要があったのです。

「Sleepy Hungry Minds」は、仕上げの現場でハモリを加えた

声の表情は、一度メインの歌を録ったら終わりというわけでもありません。
『Couleur』の「Sleepy Hungry Minds」では、楽器と歌の音をまとめるトラックダウンの現場で、ハモリを録音したと話しています。
2014年9月の『MANTANWEB』の取材で明かした、制作の具体例です。

日笠は、歌手としてその現場に入り、そこで歌まで録ることを新鮮に感じていました。
エンジニアや制作陣と互いのこだわりを伝え合い、時間をかけてよい形を探すのが楽しかったとも語っています。
出来上がりを待つだけでなく、声を重ねる側として音の仕上げにも参加していたのです。

メインの旋律を歌う声と、それを支えるハモリでは、聴く人へ届く役割が変わります。
主旋律だけを追っていると気づきにくい声も、重なったときには歌全体の厚みや色に関わります。
この曲は、本人の一人の歌唱だけでなく、重ねた声がほかの音とどう一緒に鳴るかにも耳を向けられる例です。

同じ取材では、楽器も歌も、その日の感情や状態によって完全に同じ音にはならないことに惹かれる、と説明していました。
歌声を一定の型に当てはめるより、その場で生まれた音を聴いて、作品に必要な声を選んでいく。
息を表現にした「Pollution」とも、そうした制作への姿勢がつながっています。

日笠陽子(2013年の音楽ナタリー取材写真)
日笠陽子(2013年の音楽ナタリー取材写真)。
画像出典:画像掲載元

「Blindly Sky」は、役の繊細さを速い曲の中に置く

キャラクターとして歌う場合には、声を出す人の感情に加えて、役の気持ちが中心になります。
『NEW GAME!!』の八神コウとして歌った「Blindly Sky」について、2017年のアニメイトタイムズの取材で、その取り組みを話しています。
一曲を丸ごとコウとして歌うことで、より深く役の気持ちへ寄り添え、打ち合わせをしながら丁寧に録音できたというのです。

日笠は、歌詞を先に読んだ段階ではバラードのような曲を想像していました。
コウを繊細な人物と捉えていたためです。
ところが、実際は速めのテンポで、ポップな編曲だったことに驚いたと話しました。
役の繊細さを、しっとりした曲だけで表すわけではなかったのです。

歌い手にとっては、曲の明るさと、歌詞の奥にある心情の両方を受け止める場面です。
速い曲だから元気一辺倒にするのでは、その人物が感じている迷いや葛藤は薄れてしまいます。
日笠が役の気持ちに寄り添えたと語るところには、曲調と人物像を丁寧につなごうとする姿勢がうかがえます。

「Blindly Sky」は、遠山りんの「ふたり空」と同じメロディーを持つ曲でもあります。
本人も、物語だけでなく曲の中でもつながる二人として、聴き比べてほしいと話していました。
同じ旋律にそれぞれの人物の言葉と声が乗ると、どんな気持ちの違いが生まれるか。
声の高さだけでなく、役として歌う表情へ注目できる組み合わせです。

一緒に鳴る音に、歌い方で応える

2013年の『音楽ナタリー』では、生のバンドと音楽を作る楽しさについて話しています。
メンバーが普段と違う演奏をすると、それを聴いた自分も歌い方を変えて応える。
そうして、その場で一緒に音楽を作る感覚に心を動かされるといいます。

こうしたライブへの考え方を、2013年の「リスアニ!VOICE」でも説明していました。
テレビで玉置浩二の歌を聴き、その瞬間にしか出ない声や感情に心を動かされたというのです。
整った音を再現することに加え、そこで歌う人の思いが届くことを大切にしたいと感じていました。

憧れの公演として挙げた安室奈美恵のライブについても、歌いながら動き、自分の世界を貫く姿に惹かれると話しています。
自分も生の歌を大事にし、難しい状況なら歌えるよう練習したい、という考えでした。
『EX:FUTURIZE』で感じた息継ぎの難しさも、完成音源をそのまま流すのではなく、自分の声で舞台へ届けたい人の課題として捉えられます。

日笠の言葉を踏まえると、ライブで聴きたいのは、音源と同じ音を同じ順番で出すことだけではありません。
一緒に演奏する人の音へ反応したとき、言葉の勢いや歌い出しにどんな表情が生まれるのか。
録音で選んだ息やハモリと、ステージで生まれる応答の両方から、歌の細部を追うことができます。

「Pollution」では、息の音を残して感情を届ける。
ライブでは、曲の呼吸の難しさに向き合いながら、一緒に鳴る音にも応える。
日笠の歌い方には、録音やステージの場面に合わせて表現を選ぶ姿勢があります。

高音への構えや、難しい曲の歌いやすさが変わってきた過程は、日笠陽子の歌唱変遷でたどっています。

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