フィインの歌声の変遷|個性への迷いから、柔らかさも強さも選べる歌へ

2022年『WHEE』発表時のフィイン シンガー
2022年『WHEE』発表時のフィイン

MAMAMOOのフィインは、練習生時代、自分の声には目立つ個性がないと悩んでいました。
特徴の強い声こそが良い声なのだと思っていた彼女は、デビュー後、さまざまな曲へなじむ声の価値に気づいていきます。
いまの歌声への自信は、最初から持っていたものではありません。

その歩みを追うと、柔らかく歌うことの意味も変わって見えます。
別れを静かに伝えるための声が、部屋でくつろぐ時間を包む声になり、やがて大きなバンドサウンドにも向き合っていく。
フィインの変遷は、声の持ち味を見つけ、その声で何をしたいかを選び続けてきた過程です。

グループの中で、自分の声を受け止めるまで

フィインは、学校の小さな舞台で歌ったり踊ったりする喜びを重ね、歌手への思いを育てました。
2014年にはMAMAMOOの一員として、「Mr. Ambiguous」でデビューします。
力のある歌声と自由なステージを持つグループの中で、聴き手に届ける経験が始まりました。

MAMAMOOには、メンバー自身が制作へ意見を出す土壌もありました。
ファサは考えを言葉にして共有するよう求められたと話し、ムンビョルも練習生時代から自分たちに合う表現を探す機会があったと振り返っています。
歌を渡されて終わりではなく、どんな姿で届けるかを一緒に考える環境だったのです。

フィイン自身も、声が強く目立つことだけを個性と考えていた見方を改めていきました。
多様なジャンルに対応できる声が、自分の音楽を支えている。
そう受け止めるようになったことが、後のソロ作品を読むうえでも大切な出発点になります。

「EASY」と「Good Bye」、別れの歌に見せた二つの表情

自分の名前でソロ作品を出す前から、フィインの声はグループの外でも求められていました。
2017年にはJung Keyの「Anymore(부담이 돼)」に参加しています。
彼女の声色を気に入っていた作り手と出会い、一曲の感情を託される経験を重ねていました。

2018年のソロ作品『magnolia』では、「EASY」を発表しました。
シンプルなビートを使ったR&B/ヒップホップに、落ち着いた歌声を置く曲です。
相手への不満をはっきり示す内容を、激しさ一辺倒にせず伝えるところに、ソロのフィインらしい輪郭が現れました。

本作では、Sik-Kの起用や写真、絵画を使ったアートワークにも本人の考えを反映しています。
自分の好みを、歌声の周囲まで広げた作品でした。

翌2019年の『soar』では、Jung Keyと組んだ「Good Bye(헤어지자)」が中心になります。
こちらは、別れを告げるまでに重なった傷や迷いを、ピアノと繊細な歌でたどるバラードです。
淡々と話を進めながらも訴えかける強さを残し、「EASY」とは違う別れの表情を示しました。

二曲を並べると、ソロ初期から同じ声で異なる人物像を作ろうとしていたことが分かります。
相手へきっぱりと線を引く人と、考え抜いた末に別れを選ぶ人。
曲のジャンルだけでなく、言葉を口にするまでの気持ちが歌の重さを変えています。

『Redd』で、バラードの印象から外へ踏み出す

2021年のミニアルバム『Redd』では、バラードで得た評価を受け止めながら、別の姿を見せることが課題になりました。
本人は、それまでの期待に応えることと、自分のイメージを変えることの両方を考えていたと話しています。
得意な表現を繰り返すだけでは、伝わらない自分がいたのです。

2021年『Redd』発表時のフィイン
2021年『Redd』発表時のフィイン。
画像出典:画像掲載元

表題曲「water color」は、弾むニュージャックスウィングのビートに、明るく豊かな声を重ねた曲です。
『soar』の別れを見つめる世界から、自分の色をもっと出していく方向へ大きく景色を変えました。
歌声を通して、自分を肯定する気持ちを前へ運んでいます。

一方、収録曲の「OHOO」には愛猫を見つめた時間が、「Springtime」にはファンへ向けた思いが込められました。
本人が詞や曲に関わる理由も、ひとつの強い人物像を演じるためだけではありません。
日常の小さな関心や、大切な人への気持ちまで、歌にする対象が広がっていました。

『WHEE』で、柔らかい声を作品の中心に置く

2022年の『WHEE』は、ソロ活動の場をTHE L1VEへ移してからの作品です。
フィインは、グループでは見せきれなかった自分の部分を音楽へ反映し、以前より自分の音が明確になったと説明しています。
新しい制作陣と対話できる環境も、その実感を支えていました。

ここで彼女が目指したのは、ソファやベッドで気軽に聴ける音楽でした。
そのためにファルセットも取り入れ、自分の歌い方を生かそうとしています。
裏声の柔らかさは、聴く人が過ごす時間を思い描いたうえでの選択でした。

「Make Me Happy」では、相手を少しずつ知っていく恋のやり取りを歌います。
制作に携わったRAVIによれば、フィインは冒頭のピアノを聴いた時点で、この曲を表題曲にしたいと考えていました。
自分の声をどう響かせるかに加えて、どんな音の入口から聴き手を招くかも選ぶようになっていたのです。

『IN the mood』で、一人の中にある感情を広げる

2023年の初フルアルバム『IN the mood』では、本人の関心がさらに多様な曲へ向かいます。
お気に入りに挙げた「Dance 4 You」は、以前から自分の声で表してみたかった雰囲気の曲でした。
また、自ら詞を書いた「Here I Am」には、支えてくれたファンへ、より強くなった自分を届けたいという思いがあります。

制作時にはスタッフと何度も考えを共有し、晴れた日のドライブに合うような作品像を思い描いていました。
さらにこの時点で、重いバンドサウンドにも関心を示しています。
R&Bを大切にしながら、次に試したい表現をその外側にも探していたのです。

『WHEE』で見つけた心地よい声を、唯一の答えにしてはいません。
自分の好む空気感、ファンへ伝えたい強さ、これから試したい音楽が同居する。
一枚を通して自分を見せる仕事は、ここからステージで一人の時間を作る仕事へもつながっていきます。

初のソロツアーで、観客と一緒に弾む歌へ

2024年2月、初のソロコンサートを前に発表した「Wheee(휘이)」は、会場でファンと一緒に跳ねて楽しむことを考えたバンド曲でした。
Young Kとナ・サンヒョンが共同で制作を担当しています。
聴く人の部屋を思い浮かべた『WHEE』から、観客と同じ場所で熱を共有する歌へと、表現の行き先が増えました。

同年のロサンゼルス公演では、「EASY」でSik-Kのラップ部分を自分で担当しています。
「Bite Me」もHAONとの原曲とは異なるソロのライブ版で届けられました。
共演者のいる録音を一人のステージへ持ち込む際、声の役割を組み直す場面も生まれたのです。

2024年のソロツアー、ロサンゼルス公演のフィイン
2024年のソロツアー、ロサンゼルス公演のフィイン。
画像出典:画像掲載元

その一方で、同年の「Coco Water」では、夏の記憶を思わせるくつろいだR&Bへ戻っています。
フィインは多くの曲を聴き、A&Rとも方向性を相談すると話しています。
バンド曲を経験したら以前の柔らかさを手放すのではなく、外からの刺激を取り込みながら選べる表情を増やしているのです。

『adagio』に届いた、強さと繊細さの両立

2026年4月の『adagio』では、「The Symphony of Fxxkboys」で大きく展開するバンドサウンドと向き合いました。
傷ついた関係を経て、再び一人で立とうとする人物を描くポップロック・バラードです。
しっかりした声の存在感と細やかな感情表現が、一曲の中で求められています。

初期の「EASY」にあった自立の姿勢と、バラードで育てた感情の表現。
そこへ、部屋に寄り添う歌や、観客と盛り上がるステージを経験してきた時間が重なります。
フィインの歌声は、ひとつの色が濃くなるだけでなく、その色を生かせる場所を増やしてきました。

目立たないことに悩んだ声が、さまざまな曲へ入っていける声になる。
その変化を支えているのは、自分の声を受け入れることと、同じ使い方にとどまらないことの両方です。
曲ごとに選ぶ柔らかさや力感をたどると、フィインが長く歌い続けるために育ててきた自由が見えてきます。

フィイン(MAMAMOO)の歌い方

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