大西亜玖璃の歌唱変遷|自分らしい声を探し、低い歌とラップへ広げるまで

大西亜玖璃(2021年「Elder flower」の取材掲載写真) シンガー
大西亜玖璃(2021年「Elder flower」の取材掲載写真)

大西亜玖璃の歌には、明るい声で気持ちをまっすぐ届ける魅力があります。
ただ、その印象だけでソロ曲を聴いていると、低く落ち着いた歌や、冷たい怒りを込めるラップに驚くかもしれません。
変わってきたのは、歌うジャンルの数だけではありません。
曲にどう声を合わせるかを迷いながら探していた時期を経て、キーや描きたい感情を自分から提案する場面も増えてきました。
その歩みをたどると、同じ人の声から違う表情が生まれる理由が見えてきます。

キャラクターの歌から、自分の名前で歌う場所へ

『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の上原歩夢役などで知られる大西亜玖璃は、2021年3月、「本日は晴天なり」でソロデビューしました。
声優の歌にひかれる入口の一つは、『けいおん!』の平沢唯の歌声でした。
早口でも可愛く歌えることへの驚きがあり、やがて小倉唯の姿にも憧れるようになります。

けれども、自分の名前で歌うときには、キャラクターソングとは違う迷いもありました。
みんなで方向性を合わせる指示がある歌と異なり、ソロでは何度も歌い直す中で、どこが悪かったのかと考えてしまう。
「本日は晴天なり」や「Elder flower」の頃は、その進め方に戸惑ったと振り返っています。

自分で歌える自由がある一方で、目指す声が最初から一つに決まっているわけではない。
いろいろな歌い方を試し、曲に合う自分を探すことも、ソロの録音の一部になっていました。
そこには、キャラクターを外したら素の歌が自然に完成する、というほど単純ではない難しさがありました。

2021年、力強さを加えても優しさを残した

2枚目の「Elder flower」では、力強く歌うことや、声を重ねる録音に挑戦しています。
ただ、強くなりすぎると自分らしさから離れると感じ、相手に寄り添う優しさも大切にしました。
『精霊幻想記』の人物たちの気持ちを考えながら、歌う強さとの釣り合いを探していたのです。

本人は当初、曲のイメージ通りに歌わなければ、と悩んだといいます。
原作を読んで世界を理解し、実際には自分に合うキーだと分かったことが、自分らしく歌う手がかりになりました。

この時点で、明るく可愛い声から別の声へ、すべてを取り替えたわけではありません。
強さを加えても、相手へ向かう柔らかさは残す。
新しい曲に出会ったとき、どこを変え、何を持ち続けるかという選択が始まっていました。

2022年、自分の明るさを信じられる曲に出会う

「ジェリーフィッシュな君へ」では、作詞・作曲の俊龍から、オープニングらしさを求められました。
そこで声を張り、リズムを強く意識するほど、かえって思うように歌えなくなったといいます。
自分の気持ちに素直になって歌うと、本来の明るさやパワーが出て、スムーズになったのでした。

さまざまな歌い方を試した末、採用されたのは最初の自然な歌だったとも話しています。
歌い直しは、最初の声が駄目だったという意味ではなく、違う候補を並べて選ぶためでもあった。
制作側を信頼して取り組む感覚も、少しずつつかんでいきます。

2022年末の初ワンマンでは、生バンドを伴って歌いました。
本人も、緊張はありながら、温かい応援の中で全力を出せたと話しました。

大西亜玖璃(2022年の1st LIVE)
大西亜玖璃(2022年の1st LIVE)。
画像出典:画像掲載元

録音で自分に合う声を探す経験と、人前で歌い続ける経験が重なっていく。
新曲を増やすだけでなく、デビュー曲にも歌う回数が積み重なっていました。
後の変化を見るときにも、作品ごとの挑戦と、同じ曲を育てる歩みの両方を見ておきたいところです。

2023年、曲に合わせて「自分らしさ」を広げる

「Do you agree?」では、練習時は高音を伸びやかに届けられるか不安でした。
本番で少し泣くような気持ちや可愛らしさが浮かぶと、制作側も気づくほど歌い方が変わります。
感情を思い描くことが、声を変える手がかりになっていました。

初アルバム『Do you agree?』の「NTMUエイリアン」では、いつもより大人っぽいニュアンスを選びました。
制作側から歌い方の違いを指摘された際には、曲のイメージに合わせた、自分らしい別の姿だと説明しています。
一方、「恋の視線」では、甘酸っぱい歌詞だからと可愛らしさを強調せず、自然にまっすぐ歌うことを意識しました。

大人っぽい曲ではこう、恋の歌ならこう、と機械的に決めるのではない。
同じアルバムの中でも、曲の雰囲気を受け取り、声の見せ方を選んでいます。
自分らしさは、一種類の歌い方を守ることから、違う歌でも自分として成立させることへ広がっていました。

続く「夢で逢えなくても」では、終盤の叫びにも挑戦しました。
仮歌のようにロックらしく叫ぶよう求められながら、本人が大切にしたのは、歌っている自分と同じ人として叫ぶことでした。
激しい部分だけ別人になるのではなく、曲の気持ちをそのまま運ぼうとしていたのです。

2024〜2025年、声の落ち着きとキーを選び直す

「アウフタクト」では、元気な曲を歌うことの多かった自分にとって、少し落ち着いた大人っぽさが新鮮だったと話しています。
作り手の鶴﨑輝一が得意なキーを理解していたこともあり、歌ってみると予想より歌いやすかったそうです。
新しい雰囲気への挑戦は、歌いにくい音域へ無理に進むこととは限りませんでした。

2024年の2nd LIVEは、カバー曲を交えていた以前の公演と違い、自分の楽曲だけで組まれました。
大西はそこで、自分自身のライブができたという実感を語っています。
表現の選択肢が増えたことは、公演全体を自分の曲で作れるようになる変化にもつながりました。

2025年の『Rock&Roll Lady Girl』では、表題曲のキーに本人の希望が反映されています。
高めに歌うと少女らしさへ寄りすぎると感じ、当時の自分に合う低めの歌を望んだのです。
制作側とさらに下げた結果、本人は、自分の地声にとても近い歌になったと捉えました。

スタジオでの大西亜玖璃(2025年のミニアルバム取材掲載写真)
スタジオでの大西亜玖璃(2025年のミニアルバム取材掲載写真)。
画像出典:画像掲載元

ここでの低さは、高い声が出なくなったからという話ではありません。
どの高さなら、曲の人物と今の自分が自然につながるかという判断です。
与えられた曲をどう歌うかに加え、歌が生きる高さそのものを一緒に決める。
その選択が、ソロの表現をさらに広げていました。

2026年、準備してきた声が制作側の予想を超えた

「グッバイ・ララバイ」につながったのは、以前の制作で大西が提案した、喧嘩するような強い感情も歌ってみたいという発想でした。
作曲・編曲のhabanaは、録音時にはほぼ最初から現在の歌い方ができていたと話しています。
スタッフの予想以上に曲へ合っていて、本人が準備した声をあまり変えずに採用したのでした。

初期には、何度も試す理由が分からず迷うこともありました。
そこから、自分で解釈して持ち込んだ声が、制作側の期待を越える場面へ。
これは、ただ指示を受けなくなったという話ではなく、歌い手と作り手がお互いを知り、まだ知らない一面を試せるようになった変化です。

一方で、長く歌ってきた「本日は晴天なり」には、歌唱時の余裕が出てきたとも話しています。
観客が知る定番曲が増えたことも、ライブが盛り上がる理由だと感じていました。
新しい声への挑戦と並んで、以前からの歌も、客席との間で育っています。

本人は、好きなものや緊張しやすい性格が大きく変わったとは考えていません。
戸惑いがあっても、まず一度挑戦してみる。
その姿勢は以前から続いていたと振り返っています。

大西亜玖璃の歌唱の変化は、可愛い声を卒業して別の歌手になることではありません。
自然な明るさを確かめ、力強さや落ち着き、低い歌、ラップを加えながら、曲に似合う自分を探してきた歩みです。
初期の曲も新しい曲も同じ公演で歌えることが、その広がりをよく表しています。

高音、囁く声、言葉の長さ、ラップの表情など、具体的な声の選択は、大西亜玖璃の歌い方で掘り下げています。

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